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第4話 B ミライ公開処刑!




「はぁ!? 街中で人がヒーローごっこしてる!? 何言ってんの!?」


「そのままの意味だよ! 昨日の特撮関係の生放送を要因としたバズりが起きてて、多分それが原因の怪人……バズラスだったか? が出てるっぽい! こらやめろ! 落ちつけ!!」



 希海は学校敷地内で起きているヒーローごっこ騒動を鎮圧しつつ、街中へと走る。

 ただ、希海は電脳世界を見ることが出来ないため、行き当たりばったりに走り回るしかない。

 電話口の美来は寝過ごしていたためか、バズりの発生を察知するのが遅れたようだった。



「よく分からないけど……分かった! 怪人の捜索は私に任せて、希海は一先ず街の混乱を止めてあげて!」


「了解した! 異変があったら言ってくれ、すぐその電脳近くに行くからな」



 そう言って通話を切り、希海は目の前で怪人とヒーローになりきって、車のボンネット上で取っ組み合っている二人組の鎮圧にかかった。




////////////////////




「な……なんなのコレ!?」



 美来が飛び込んだ先は、見慣れた神城市の電脳世界ではなく、砂嵐の吹き荒ぶ採石場のような風景と化していた。

 よく見ると、道の形状や分岐の配置は元のままだが、その上にサイバー岩や、サイバー砂が乗っているような具合だ。



「これも……バズラスのせいってわけ……!? 確かに……昔見たヒーローモノってこういう場所でよく戦ってたけど……」


「ハッハッハッハー!!」


「誰!?」



 荒野に響く雄々しい声。

 美来が見上げると、不自然に高くそびえ立つ煙突の上で笑う、白黒の仮面をつけた怪人。

 特撮バズラスとも言うべきか。



「ヒーローキドリノ コワッパガ キタカ! バカメ! トクサツカイニ ヒキズリコメ!」


「さてはアンタがこの騒動の犯人ね! 許さないんだから! 希……キャッ!?」



 自分のPCからほど近い電脳世界に出現するとは、飛んで火にいる夏の怪人。

 返り討ちにしてやると張り切る美来。

 すかさず希海を呼び出そうとしたが、突然襲ってきた浮遊感に声を遮られた。



「きゃあああああ!?」



 足元に開いた謎の穴に引きずり込まれ、落下していく美来。

 落ちた先には、神城市の街並みが広がっている。

 ただ、大きく異なる点があった。



「なにこれ! 私が……大きくなってる!?」



 街がミニチュアのごとく小さいのだ。

 まるで巨大特撮作品の撮影セットのごとく……。

 「一刻も早く対処しないと!」と、希海に呼びかけるが、応答はない。



「ハッハッハァ!! トクサツカイハ ソトトツナガルコトハ デキナイ!!」



 先ほどのバズラスが笑いながら現れる。

 その仮面は、かの巨大特撮ヒーローのようなそれに変化していた。



「ハシャアッ!」


「きゃっ!! 何よ! 正義の変身ヒロインにビーム撃つヒーローなんていちゃいけないんだから! サイバー……うわぁ!!」



 敵の放った光線をバック宙で回避し、サイバーインパルスを放とうとした美来の背中を激しい衝撃が襲った。

 振り返れば、いかにも防衛隊メカといった飛行機が飛んでいる。



「もう! 私じゃなくてあっちを狙いなさい……よ!!」



 美来の蹴りが、チョップが、飛来する飛行機たちを次々に叩き落としていく。

 「ヨクモワガ ナカマタチヲ!」と、突進して来るバズラスを躱し、すれ違いざまに回し蹴りを撃ち込む美来。

 その瞬間、足元から砂や土がバサバサと吹き上がってきた。



「うわっ!? 何!? 何なの!?」



 巨大特撮モノにおける、撮影技法の一種である。

 被写体が激突したり殴り合う瞬間、下から砂や土を投げ、映像に迫力をつけるのだ。

 CG処理よりもよほど安上がりで、かつ、効果的な事から、未だ多用される技法である。

 この特撮界は、そういったメタを含むあらゆるものが美来の敵となって襲ってくる、恐るべき空間だったのだ。


 目に入ったサイバー土砂を振り払いながら、再び光線を放とうと構えているバズラス目がけ、美来がサイバーインパルスを放った。



「グワアアアアア!!」



 声を上げて倒れるバズラス。

 すかさずトドメを刺すため、最大出力のサイバーインパルスを撃ち込もうとしたその時、またしても美来の足元に大穴が空いた。

 次に彼女が降り立った場所は、廃工場のような場所。



「クックック……。キサマダケハユルサン!」



 並ぶタンクの奥から、今度は某仮面ヒーローのような姿のバズラスが現れる。

 そして、カードを取り出して何やらポーズを取ったのち、強烈な飛び蹴りを放って来た。



「くああ!!」



 防御姿勢をとったが、彼女の華奢な体では受け止めきれず、吹き飛ばされてタンクに背中から激突してしまう。

 同時に彼女の体中で激しい火花が散る。

 立ち上がろうとする美来だが、再び火花が全身で散り、倒れ伏せてしまう。


 倒れたその先に、再び大穴が空いた。



「くっ!!」



 今度は、全面緑色の部屋。

 そして、宙に浮かぶ二つの画面。

 1つには今美来がいる部屋の映像、そしてもう一枚には、仮面を付けた巨大怪獣が奥から迫ってくる映像が映っている。

 どちらの画面にも美来が映っていて、怪獣が映っている側の美来は、今にも踏みつぶされてしまいそうだ。



「な……何!? サイバーインパルス!!」



 彼女はもう一画面の映像を頼りに、怪獣目がけて光線を放つ。

 しかし、その光線は壁に吸収されて消え、怪獣には何の変化もない。

 逆に、怪獣が迫ってくるほど、振動や、目に見えない瓦礫などが未来を襲う。

 そしてついに、画面外から伸びてきた怪獣の手が、美来を掴んだ。



「あああああああ!!」



 目に見えない力に締め付けられ、悲鳴を上げる美来。

 そのまま、彼女はまたしても別の空間へと連れ去られていく。



「うあぁ……!」



 激しく叩きつけられたのは、土砂の山が連なる採石場。

 その山の頂上にそびえる十字架。



「キサマハ コレニカケラレルノダ!」



 十字架のすぐ傍から美来を見下ろし、指をさして宣告してくるバズラス。



「誰がそんなものに! サイバーインパルス!!」


「ギャクマワシ!」


「えっ!? きゃあああ!!」



 自身が放った光線が同じ軌跡をそのまま辿って飛来し、吹き飛ばされる美来。



「ソウエン!」


「ひっ! 何!?」



 倒れ伏せた美来の手足に細い糸が巻き付き、彼女を宙に浮かべる。



「うっ! きゃっ!!」



 糸に体を操られ、奇妙なポーズや恥ずかしいポーズを取らされる美来。

 そんな美来の真下で、巨大な火炎が上がった。

 悲鳴を上げて吹き飛ばされる美来。



「バクハセイコウ! ハッハッハ! コンドハコレダ!」


「うっ……うう……。うああああああああ!!」



 バズラスの腕が触手のように伸びたかと思うと、美来に巻き付いて持ち上げ、激しい閃光を浴びせかけた。

 体から火花を散らして苦しむ美来。



「あああああああ!! あああああああ!!」



 触手に振り回されながら、電撃を食らい、爆破され、水落ちさせられた美来は、徐々に抵抗力を失っていく。

 やがて胸のクリスタルの輝きが一層弱まった時、彼女の体は十字架に叩きつけられてしまった。

 十字架から伸びた鎖が彼女の両手両足、そして首を捉え、脱出不能に拘束していく。



「ううっ……!!」



 ついに採石場を見下ろすような場所で、磔にされてしまった美来。



「ハッハッハ! クルシメ! クルシメ!」


「あっ……! い……ぁぁ……!」



 彼女の手足を縛める鎖が、ギチギチと音を立てて締め付ける。

 辛うじて動く体を揺すって抵抗するが、その鎖が外れることはなかった。




////////////////////




「遅い……遅すぎる……!」



 希海はトリオ怪人になりきって商店街を荒していた大学生3人組を街街灯に縛りながら、美来からの連絡を待っている。

 だが、一向にその連絡はない。

 そして、バズラスに中てられて暴れる人々も、全く減る気配がなく、むしろ増え続けている状況だ。



「通信できない状況にさせられてる可能性がある……だけど俺には打つ手が……! ん?」



 途方に暮れる希海の元に、一本の電話が入った。

 まさか美来かと思い、出てみたが、声の主はソウマであった。



「やーっと繋がった! 今時キャリア電話使ってるとかめんどくせー奴だぜ全く!」


「何だ! 今結構取り込み中なんだけど!」


「ああ! んじゃ手短に言うぞ! 暴れてる奴らにヒーローソングを聞かせろ! 正気に戻る! お前のことだし、どうせどっかで人助けに奔走してるんだろ? 学校は収まったから、安心して頑張れよな!」



 そう言い残し、電話は切れた。

 希海は「サンキュ」と小さく呟くと、市役所へと走った。

 市役所もヒーローごっこ連中が押しかけて凄い騒ぎになっていたので、その隙を突き、希海は市内放送を行っている部屋へ駆け込む。

 無論、プライバシー保護の観点から、以前スイーツ騒動で付けていたスイーツ仮面・怒りのコスチュームを装着している。

 

 彼は素早くスマホを放送ミキサーに繋ぐと、丁度自分たちが子供の頃聞いていた、ヒーローモノの主題歌を最大音量で放送し始めた。

 市の担当者が「何をしてるんですか!?」と駆けこんできたが、「やめたまえ! 人命がかかっている!!」と、その職員を部屋の外へ押し返し、ドアノブを捩じ切って部屋への侵入を困難にすると、今度は美来の元へ向かうべく、窓ガラスを割って外へと飛び出していった。




////////////////////




「う……あぁ……」



 特撮界では、美来が十字架にかけられたまま、ギロチン台に上げられていた。

 激しい鞭打ち、電撃責め、凍結責め、エナジードレイン等、ありとあらゆる磔あるある攻撃を受けた美来は、虚ろな目で宙に浮かぶギロチンの刃を見つめている。


 意外と知られていないが、世界初の特撮映画は1895年に封切られた、女王の処刑を描いた超短編作品である。

 まさしくその世界初の特撮で、美来は最期を迎えようとしていたのだ。



「のぞ……み……」



 刃がせり上がる中、美来はか細い声で、助けを求めた。



「ハッハッハ! ムダダ! ダレモタスケニハコヌ! ショケイヲ シッコウスル!」


「あ……あぁ……!!」



 刃が美来に落下を始めた瞬間、世界の全てがスローモーションになった。

 同時に、特撮界に鳴り渡るヒーローソング。



(これは……)



 その歌に、美来の記憶が鮮明に蘇る。



(希海と……毎週日曜日朝一緒に見てたヒーローモノの歌だ……。もしかして……希海が……この曲を……!)



『美来―――! どこにいるんだ―――!』



 そして聞こえてくる、頼れる幼馴染の声。

 美来は力の限り叫んだ。



「ここだよ―――!!」



 直後、バリンバリンと音を立て、特撮界の空中が砕けた。

 飛び込んでくる、『美来頑張れ!』『美来頑張れ!』『美来頑張れ!』の3連文字型データ。

 そのエネルギーが美来の胸のクリスタルに吸い込まれたかと思うと、これまで弱々しくくすんでいたそれが、眩く輝き始めた。

 一瞬にして拘束を粉砕し、その声の飛んできた方へと飛ぶ美来。



「希海! ありがと! きっと助けてくれるって信じてた!」


「礼はソウマに言ってくれ!」


「誰? まあいつかね! さあ! フォームチェンジングコール! ファイヤー!」



 美来の叫び声に応じ、希海がボタンをタップする。

 「悪を焼き尽くす愛と勇気の炎! サイバーウィザード・ミライ! ファイヤーフォーーーム!!」と、叫びながら、赤いデータを身に纏っていく美来。

 同時に、希海のスマホ内のデータが、ボロボロになった彼女の体を再生してゆく。



「さあ! 反撃開始よ!!」


「よし! 頑張れ! 美来!」


「うん!」



 天蓋の砕けた特撮界へ降り立った、赤の電脳魔法少女。

 ファイヤーフォームの熱量が、希海の声援が、美来の力を強く後押しする。

 さらに、特撮のお約束がルールとして存在する、最新フォームは強い法則と、主題歌がかかっているうちは負けない法則が、美来をこの異空間における最強のヒーローとして君臨させた。



「コ……コシャクナアアア!」


「サイバーインパルス……ブレ―――ド!! ファイヤースラッシュ!!」



 これまたお約束のごとく突っ込んできたバズラスを、美来の炎を纏ったサイバー剣が一文字に切り結んだ。

 バズラスは「ワレラハ! エイエンナリー!」と叫びつつ、爆発四散。

 それに呼応し、電脳世界を覆っていた荒野は、サラサラと消えて行った




////////////////////



 1週間後。

 希海は警察署にいた。

 市役所への狼藉でついに逮捕……というわけではない。



「三笠川 希海殿 貴方は街中で発生した混乱の鎮圧に努め、殺傷、破壊活動の多くを未然に防いだことをここに表します。 ありがとう」



 等と、またしても表彰を受ける希海。

 なにせ彼が取り押された人物は24人。

 彼らは全員取り調べの末釈放されたが、その誰もが精神に歯止めが効かなかった中、希海に助けてもらったと主張したため、この表彰劇と相成ったのだ。


 警察も今回の事態はただの暴徒による乱闘騒ぎではないとし、本格的な対策本部を立てて今後の対応に当たるらしい。

 2度現れた怪人、スイーツ仮面・怒りの関与も含め、調査を始めるそうだ。

 希海はいよいよ複雑な気分で、警察署を後にした。



「ねえ、なんでヒーローソング聞いたらみんな正気に戻ったんだろうね?」



 スマホの中から彼の表彰を見守っていた美来が疑問を口にする。



「さあ? ソウマが言う分には、ヒーロー作品に教えてもらった正義や強さが、狂った人間達の中で目覚めたんじゃないかって」


「オカルトじゃん」


「お前が言うな……」


「まあでも……たとえフィクションでも、情報が人を悪い方向にだけじゃなく、良い方向にも導いてくれるっていうのは、私信じたいかも」


「それには俺も同感だな」


「スイーツ仮面の活動も、きっと……プフッ……子供達をいい方向に導くんじゃない?」


「笑うなよ! アレになりきってる時結構しんどいんだぜ!?」 


「でもさ……ぷふふふっ……警察の公文書で……“怪人:スイーツ仮面・怒り対策調査”って……! あ―――はっはっは!! ダメダメ! お腹痛い! しかも載ってる写真が全部希海だと思うともう! くーっふっふっふ……!」


「よーし……お前今日手土産買って行ってやらねー」


「あっ! ゴメンゴメン! あっ! その店素通りしないで! 今日そこの杏仁フルーツポンチめっちゃ食べたいの! あー! 待って止まって―――!」



 希海は画面内でアタフタする美来に意地悪っぽい笑顔を浮かべると、クルリと踵を返し、彼女の求めるスイーツを買い求めに向かったのだった。

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