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第3話 A 触手のゴン絡み!




「おっ! 希海くんがスマホと睨めっことは珍しいじゃないか!」


「まあ、色々と忙しくなりましたからね……」


「ほう! 恋かい? 恋なのかい?」


「とりあえず早く蕎麦湯くださいよ……」



 連日のスイーツ攻勢に胃を疲れさせた希海は、一人田舎蕎麦屋を訪れていた。

 いなか蕎麦屋「風車」。

 希海の行きつけの店だ。


 脱サラした店主がほぼ趣味でやっている店だが、なかなかに美味な蕎麦が食えると、この町の通の間では人気の店である。

 この店の特徴は、歯ごたえのある太く香り高い蕎麦に、週替わりの具材が山盛りで乗ったぶっかけ蕎麦オンリーという潔いスタイルだ。

 先々週はなめこオクラ、先週は梅しそ、今週はしし唐と低温加熱鶏ささみである。


 最後に残った汁に、濃厚なポタージュと化した蕎麦湯を注いでグイと飲み干すのがこの店の流儀。

 希海もそれに倣い、ドロドロの汁を一気に飲み干す。

 強烈なそばの匂いと、濃いめ、塩っぱめの出汁が織りなす大胆かつ調和のとれたうま味が、希海の鼻腔を駆け抜けた。



「いや~。今週も旨いですね。しかし毎週具材変えるのって難しくないですか?」


「うーん……。別段困ったことはないかなぁ。なにせ毎日トレンド食材チェックしてるからね!」


「う……トレンド……」


「ん? どした希海くん? トレンドサーチは商売の基本さ! 今はそうだな~? なんか新種のイソギンチャクの触手の動きが凄いっていうのが急伸トレンドに来てるし、来週はイソギンチャクでも具材にしてみようかな! はっはっは!」



 触手が急伸トレンド。

 希海は嫌な予感を覚えつつ、店を出たのだった。




////////////////////




「はぁ!? 触手!? 無理無理無理! 絶対エロいことされて死ぬ!」



 美来の部屋で急伸しているトレンド。

 それすなわちバズっているワードをサーチしていると、確かに触手というフレーズが多々登場する。

 その根源にあるのは、神城市の水族館にやって来た新種のイソギンチャクの触手24時間配信であった。


 朝から晩まで慣らし用水槽で展示待機しているイソギンチャクの触手部分をアップで配信するという酔狂なそれに、何と全国から累計42万人の視聴者が集い、#触手配信というタグで呟きまくっているらしい。


 そして、それに呼応するかのように触手というワードに反応した各界の触手好きたちが、

 #触手 だの 

 #一番好きな触手 だの

 #初めて描いた触手絵晒せ だの

 主に卑猥な内容の呟きを連投していた。



「希海……。私ちょっと水族館の配信を」


「やめろって!」


「だってこのままじゃ私触手に犯されて孕まされて堕とされて希海に寝取られメッセージ送ることになっちゃう!!」


「それでもだめだ! 怪人が現れでもしない限りは、私欲で経済活動を阻害することは許されない! ていうか何だよそのイメージ!」


「えぇ!? 性欲の権化の高校生にもなって触手エロゲーとかやってないわけ!? 義務教育の敗北!?」


「そんなもん義務化するな!」



 そうこう言い争っているうちに、突然、美来のPCに映っていたイソギンチャクの映像が乱れたかと思うと、少女が触手に絡みつかれるアニメが大画面で映し出された。

 ハッとしてモニターを見る二人。

 今度は変身ヒロインの格好をしたセクシー女優が手作り感あふれる触手に襲われる動画が再生される。



「ほら、出ちゃったじゃん……」



 頬を紅潮させた美来が呟いた。




////////////////////




「噓でしょ……なにこれ!?」



 サイバズダイブした美来が、電脳空間の異様さに唖然とする。

 あらゆる回線が滅茶苦茶につながり、これまで使っていた「道」が崩壊しているのだ。

 そして、いたるところに生える触手。



「なんかこっちも大変なことになってるぞ!! 触手が人を襲ってる!」



 現実世界でも異常が起きていた。

 触手が出現し、人々に絡みついているのだ。

 希海は即座にそれを鷲掴みにし、引きちぎって救出にかかる。

 それらはよく見ると、LANケーブルであった。


 各家庭や企業に配線されたネットワークケーブルが触手のように動き出し、獲物を探してうねっているのだ。

 同じことが市内の通信ネットワークを司るサーバーでも発生し、勝手に動き出したそれらが勝手に配置換えを行った結果、様々なデータが互い違いに送受信され始めているのだ。


 さらに、触手にまつわるデータや映像がサイバー触手となって電脳世界に張り巡らされ、あらゆるメディアをジャックしていく。

 テレビも、街頭モニターも、動画サイトの映像がすべてそれらに置き換えられて配信されている状況だ。

 人によっては夢の環境かもしれないが、多くの人にとっては過激すぎる事態である。



「希海、私をスマホに入れて、水族館まで走って! 後は私が何とかするから!」


「任せろ!」



 希海はスマホに美来を受け入れると即座に機内モードに変更し、目に入った触手に襲われる人々を助けつつ、水族館へと急いだ。

 彼らを見下ろす大街頭モニターには、イソギンチャクに捕食される可憐な小魚の映像が鮮明に映し出されていた。


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