第2話 A バズりのスイーツショップ!
「よおヒーロー」
「誰がヒーローだっての……」
「朝礼で登壇とかカッコい~」
「俺は断ったんだぞ? 校長がどうしても表彰したいって……」
「付き合い悪いと思ってたけど、人知れず世直しに励んでたとはねぇ~」
希海の警察表彰がローカルニュースを飾った翌日。
早速希海は友人たちに絡まれていた。
男女2:2の、所謂いつものメンバーである。
傍から見れば、そのうちの1人と希海は、妙に距離が近く思えるかもしれない。
そして、その距離感を快く思わない者が一人……。
『ギリギリギリ……』
「あれ? なんか変な音した?」
「さっきから定期的に鳴ってない? なんか歯ぎしりみたいな」
「さ……さぁ? 何だろな」
そう言いながら、スマホの音量ボタンを連打する希海。
しかし、中の人も負けてはいない。
それを上回る速度でボリュームを操作し「ご主人様ぁ! 私もう疼きが我慢できないにゃぁ! はしたない猫メイドに愛の懲罰をくださいにゃぁ!」という、精いっぱいのアニメ声で吠えた。
しかし、その「ご」が聞こえた瞬間に希海は立ち上がり、屋上への階段へ疾走していた。
「お前やめろよなぁ! 流石にそういう趣味の人と思われたくはねぇ!」
『希海がリア充陽キャみたいなことしてるのが悪い!』
「そんなことしてないっての!」
『朝からみんなに話しかけられて浮かれちゃってさ! 仲良しグループで駄弁ったり、女の子にベタベタされちゃってさ! それで陽キャじゃないが通るわけないでしょうが!
この陽キャ! モテ男! クラスの人気者!! う~~~!!!』
スマホ画面のスクリーンセーバーと化した美来が光る、吠える、唸る。
ああ……こんなことなら連れてこなければよかったと希海は後悔したが、誘ったのは彼である。
スマホの中からでも授業を受ければ、ノート写しよりスムーズに勉強ができると思っての配慮だったのだが、かえって彼女のコンプレックスに火をつけてしまったらしい。
『もう帰る……』
そう言うと、希海のスマホ画面からシュッと消える美来。
残された希海は「はぁ……。事態はそうそう好転しないか……」と呟き、スマホの「美来」というフォルダを開く。
すると、彼が持つ美来の全写真がズラズラと表示された。
小学校の頃の、活発で明るかった美来。
中学校の頃の、どこか影のある表情をした美来。
そして高校入学式、桜並木の下で、自分と並んで笑顔を浮かべる美来。
「今度は……絶対守るのに……。……ん?」
ふと彼は、直近のツーショット写真が見当たらないことに気が付いた。
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「ねえ見て! これ駅前にできた映えスイーツのお店なんだって! めっちゃバズってるらしいよ! 今日行かない?」
教室に戻った希海の眼前に、グループメンバー“ユキ”のスマホ画面がズイと迫る。
そこに映っているのは、色とりどりの果物があしらわれた、えらく山盛りのフルーツパフェ。
「デカ!? これ一人で食うの!?」
「無理だよそんなのぉ! 皆で行って食べるんだよ。ソウマにも声かけたし、ユウイチとかミコトとかも来るって言ってるけど、推奨人数の8人にあと1人足りないんだよね~。だからお願い!」
「えー……あー……。まあ、いいか。行くよ。そっちなら帰り道だしな」
あまり甘いものが好きではない希海だが、ここでそれを理由に断るほどノリの悪い男ではなかった。
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「うっわぁ……実物のボリュームが写真の倍くらいある……」
放課後、ノリノリのユキに導かれるまま訪れたその店は、長蛇の列になっていた。
ファストフード店の跡地に居抜きで入ったそこは、2階まで満席である。
並ぶこと50分、ようやく入店した希海たちの前に出てきたのは、花瓶のような大きさのガラス容器にどっしりと積まれたフルーツパフェ。
とりあえず一口食べようとすると「あ! 待ってノゾミくん! 先に撮るから!」と、ユキに止められる。
「こういうのとツーショット撮ったり、美味しそうに撮ったのをSNSで共有して、日常の充実感マウント取り合うのが流行ってるんだぜ」とはソウマ談。
実際そのようで、やって来たメンバーは皆、それをバックに自撮りしたり、グループ写真を撮ったり、後ろに隠れてみたりと、様々な写真を撮って楽しんでいる。
希海はそういうことに疎いので勝手が分からないが、とりあえず一枚写真に撮り、美来に送っておいた。
『ステマ協力者~!!!』
というメッセージがすぐに飛んできたが、皆が食べ始めたので、彼もスプーンを手に取り、食べ始める。
旨い。
それが希海の感想だった。
こういうドカ食い系は得てして、味は二の次のような風潮はあった。
しかし、この店は妥協せずに作っているらしい。
果物は一部冷凍だが、旬の果物、桃やスイカは生で使われていて瑞々しいし、生クリームも甘さがしつこくないものを使っている。
なんと中に挟まれたカットパンケーキはフワフワの焼きたてだ。
しかもチョコクッキーで上下を挟むことで、アイス層と干渉しないように工夫されている。
写真を飽きるまで撮ってからではもったいないほど、しっかりと作られた一品に、希海は感心した。
それと同時に、どうしてもあることが気になって仕方がなかったのだった。
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「美味しかったねぇ~!」
「質より量かと思ってたけど、質もしっかりしてて感動だったネぇん」
「意外と適正人数で挑んだら勝てるもんなんだな」
「記念写真店に飾ってもらえるとかウケるわ」
「あの映え騒ぎが落ち着いたら、今度は二人で来ような♡」
「えへへへ~♡ ユウイチさんと二人であのサイズ食べるっス♡」
「無理♡」
等と、皆がおおむね満足げに店を後にする中、希海はどうも後ろ髪をひかれる思いだった。
「どしたのノゾミ? なんかお土産でも買う?」
と、ユキが希海の顔を覗き込んでくる。
「いやな、俺達は推奨人数で来たからいいけど、明らかに食いきれなさそうな人らいたよなって」
「あぁ~……よくあるよね。写真だけ取りに来て残して帰る人とか。私ああいうのほんと無理」
「君の感性が正常で安心したよ。 しかしまぁ……結構出てるんだろうなぁ……廃棄。 ちゃんと作ってるとこなのにもったいない」
「だよね~。でもお店側も宣伝でやってるところあるし、全部否定するのも難しいのかも」
「そうだよなぁ。本当はロスが出ないようにやっていけたらいいんだけど……」
歩き去る希海とユキの背後では、あの店の列が、不気味なほどに長く、長く、伸びていた。