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第1話 B 2.5次元交差点!




 サイバーウィザード・ミライは、電脳空間に生じた様々な“異常”を目視することができる。

 彼女の瞳は、ある交差点の電脳世界上にある、奇妙な黒点を捉えていた。

 電線によって結ばれた電脳世界上の道を辿り、美来は瞬く間に現場に到達する。



「えーっと……確かこの辺に変な反応が……。ん? 何あれ?」



 彼女が発見した“黒点”。

近くに寄って見ると、黒い霧の中に、人型の何かがいる。



(え! もしかして私と同じ魔法少女!?)



 そんな考えが、彼女の判断力を鈍らせた。

 先ほどその正体の答えを言っていたにも拘わらず……である。

 黒い霧に包まれた“それ”はゆっくりと立ち上がると、美来の方へ勢いよく振り返った。



(え……)



 赤い光が見えた次の瞬間、美来の華奢な体は宙を舞っていた。

 鈍く、そして強烈な痛みが彼女の体を打ち付ける。



「かはぁっ!?」


「フチュウイイチビョウ ケガイッショウ」



 強かに体を地面に叩きつけられ、視界が明滅する美来に、気味の悪い電子音が投げかけられた。



「か……怪人……!!」



 美来を見降ろすシルエット。

 それは、信号機型の頭部を持った、人型の怪物であった。

 よく見ると、形状こそ人型だが、その体は鉄柱の直線で構成されていて、およそ人間のそれではない。



(た……戦わないと……!)



 美来がそう思った瞬間、赤い光線が放たれた。

 今度は咄嗟に転がって直撃は避けたが、右足を掠めてしまう。



「足が……! 足が動かな……!? あぐぁっ!!?」



 動きを止められた右足を引きずって立ち上がろうとした彼女目がけ、車型のデータが激突してきた。

 再び跳ね飛ばされる美来。



「あの赤い光線……浴びたら……やば……」



 そう思う間もなく、3撃目が彼女を襲った。

 今度は何とか防御姿勢をとったものの、市営バス型のデータが彼女をぼろきれのように跳ね飛ばす。



「何とか……何とか反撃を……えい!!」



 先ほど彼女の部屋でしたイタズラのように、彼女はてのひらを怪人に向け、エネルギーを込める。

 すると、その頭部の信号にバシィ!と炸裂が飛び、怪人は倒れ伏した。



「や……やった……!」



 安堵の笑みを浮かべる美来。

 しかし、その表情はすぐに恐怖のそれへと変わった。

 頭部を半壊させながら、怪人がノソリと立ち上がってきたのだ。



「ひっ!!」



 火花を散らし、ケーブル類をまるで血管や臓物のようにぶら下げて立つその姿に、美来は恐怖を覚え、震えあがる。



「コウツウ……センソウ……!!」



 怪人の声に呼応するように、交差点の四隅に立っていた電脳歩行者用信号機が一斉に光り出したかと思うと、そこから発せられた光の線が彼女の周囲を取り囲み、まるでリングのような空間を形成した。

 瞬く間に、電脳交差点はデスマッチの会場と化してしまったのだ。



「キイロデモ……トマレ!!」


「!? きゃあああああああ!!」



 自動車用信号機4機から放たれた黄色い光が未来を捕えた。

 電撃のようなエネルギーを浴びせられ、悲鳴を上げながら交差点の中央部の空中へ持ち上げられていく美来。



「アオハ……ススメ!! アカハトマレ!!」


「きゃっ! くはぁ!!」



 信号機の一機が放った青色光線で吹き飛ばされ、その先で赤色光線により強制停止される。

 その衝撃で、彼女の細い体が弓のようにのけ反った。



「アオハススメ!! アカハトマレ!!」


「や……やだっ……ぐっ……あぁ!!」



 今度は背後の信号機の青光線に弾き飛ばされ、腹部を赤色光線の直撃で激しく打ちつける美来。

 血反吐の代わりに、青いエネルギーデータが口から大量に噴き出し、美来の体から急激に力が失われていく。



(やだ……やだやだやだ!! 死んじゃう!! 希海……助けて!)



 その後も、赤青光線による拷問にも等しい加虐は続き、再び黄色光線による電流拘束を受けた時には、彼女は悲鳴を上げることもできない程衰弱していた。



「あ……ああ……」



 そんな未来を嘲笑うかのように、怪人は「アオハススメ」と唱える。

 美来を捕えていた黄色光線が一斉に青色に代わり、彼女の体は4方向からの暴力的なエネルギー圧に晒された。

 全身が激しく圧迫され、彼女の体中からエネルギーデータが絞り出されていく。



「あっ……」



 エネルギーの大半を喪失し、手足を消失した美来が電脳の地面に倒れ伏す。

 彼女の目に映ったのは、4つの赤信号。

 自分を取り囲むように点灯したその下には、大型トラックや、大型重機型のデータが列をなして停止しているのが見えた。


 その意味を知った時、美来は最後の力を振り絞って叫んでいた。



「希海―――!! 助っ……助けて! ヤダヤダヤダ死にたくない! いやあああああああ!!」



////////////////////




「美来―――!!!」



 家々の屋根を飛び渡り、希海が現場へ降り立ったのは、その僅か30秒後だった。

 美来の視界に、頼れる幼馴染のスマートフォンが映る。

 瞬間、美来の体に一瞬力が戻った。

 トラックの車列が動き出した直後、美来は残るエネルギー全てを使って小さなエネルギー炸裂を放ち、希海のスマートフォンへと飛んだ。



「美来!! お前なんて姿に!?」


「ありが……とう……私……やられちゃった……」


「誰がお前をこんな目に!! 許さねぇ!!」


「ダメ……私……もう……体が維持できない……ごめんね……」


「美来! 美来―――!!」



 希海のスマートフォンの画面内で、光の粒子となって消えゆく美来。

 美来は、薄れる意識の中で、彼との思い出を走馬灯のように見ていた。

 「ああ……最後まで……こいつには頼りっきりだったなぁ……離れたく……ないなぁ……」と、彼女が記憶をたどるうち、段々と意識や感覚がなくなり……。


 いや、なくなることはなく、むしろ戻っていた。

 美来の四肢が、意識が、感覚が。



「美来! お前体戻ってるぞ!」



 希海の声にはっきりと意識が覚醒した彼女が見たのは、万全の状態で再生された自分の体であった。

 痛みも、脱力感も、何もかもが消えている。



「希海……! 私……!」



 立ち上がって希海に抱き着こうとして、スマートフォンの画面にぶち当たる美来。



「それは後だ! まずはお前に危害を加えた存在を断罪してやる!!」


「希海! 敵はこの交差点の電脳から出られないみたい! ということは……何かこの交差点の情報データに関わりが……」



「「変な光り方をする信号機!!」」



 2人は声を合わせ、一方は電脳空間で、もう一方は現実世界で上を見上げた。

 すると、確かに、信号機の一つが妙な周期で点滅をしている。

 先ほどバズっていた内容通りだ。



「希海! あの信号機、配線が一部痛んでショートしかけてる! あれを完全にショートさせたら、敵のデータにダメージを与えられるかもしれない!!」


「よっしゃ任せろ!! 電気をショートさせるなら!! 水か!」



 希海は手近にあった消防用消火栓に組み付き、勢いよく捩じ切りにかかった。

 周囲を巡回していた警察官が「君!! 何をしているんだ!!」と止めに入ったが、「やめてください! 人命がかかってるんですよ!?」という掛け声と共に消火栓を捩じ切り、凄まじい勢いで噴き出した水で警察官を吹き飛ばすと、今度はホース水鉄砲の要領でその上を手のひらで遮り、強力な水流を“変な光り方をする信号”目がけて噴射した。


 強力な水流は信号機の内部回路をショートさせ、同時に、猛スピードで交差点に進入してきたセダン車に直撃して大破擱座させた。



「チュウイイチビョウ……ハイボクノウコウ……」



 やはり何らかの関係があったのか、怪人は力なく片膝をついた。



「お返しよ!! サイバー・インパルス!」



 美来の胸のクリスタルから放たれた光線が怪人に直撃し、その体を白色の粒子に変えて消滅させた。

 瞬く間に、異常な挙動を見せていた信号達が正常な動作を取り戻し、渋滞していた車列が元のように流れだした。



「おお! やったな美来! お手柄だぞ!」


「あ……うん。えへへ……久々に褒められたかも……」




////////////////////




 1週間後。

 希海は警察署にいた。

 公務執行妨害で逮捕……されたわけではない。

 表彰されに来たのだ。



「三笠川 希海殿 貴方はSNSの書き込みから女児誘拐を察知し、危険や誤解を顧みず、咄嗟の判断で加害者の乗った車両を停車させ、女児救出、及び犯人の逮捕に協力したことをここに表します。 ありがとう」



 警察署のお偉方が表彰状を渡すと、地元メディアのカメラマンが次々とシャッターを切る。

 「お手柄高校生」という見出しが、じきにローカルニュースの一面に踊ることだろう。

 「信号機トラブルは解消しました」という見出しは、事件翌日の隅の方に少し乗っただけだったが……。



「本当に頑張ったのはお前なのに……なんか手柄横取りみたいで悪いなぁ」



 警察署からの帰り道、希海はスマートフォンに語り掛けた。

 すると、画面上に美来が現れ、首を横に振った。



「ううん。希海が来てくれたから、私は勝てたんだよ。それに……」


「それに?」


「希海が褒めてくれたから、私はそれだけで嬉しいよ」


「ははっ……。んじゃ今からピザでも買ってお前の部屋で戦勝祝いといきますか」


「わーい!」



 表のヒーローと裏のヒーローは、仲良く帰路を急いだ。


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