第11話 A 静かなるシステムダウン
不穏な言葉を残し、再び街に潜伏した黄色い生物。
希海と美来は可能な限りの時間を割き、その行方を探ったが、1週間経ってなお、その姿を捉えられずにいた。
だが不思議なことに、もしくは幸運にも、バズラスは一度も発生しておらず、街は平穏を保っている。
「この生活……いつまで続くんだ……」
「その黄色いのを捕まえ……と言ってもどうすればいいんだろうね……?」
並んで歯を磨く希海と美来。
彼はここ数日、美来の家に泊まり込みだ。
彼女の母親はご機嫌だが、流石に希海の両親は神有月家に迷惑が掛かっていないか気が気ではない。
つい先日も、菓子折りと食材を持って来たそうだ。
温厚で優等生な希海なので、両親も彼が良くないことをするとは思っていないが、SNSで「交際は構わないけど相手の家に迷惑をかけない程度にしておきなさい」と、やんわり説教されてしまった。
「希海のお父さんお母さん、私と希海が付き合うの反対してる?」
「いや? 普通に喜んでたよ」
「そっか……。電気消すね」
2人は並んで美来の部屋に戻り、布団に入る。
少し前までは、交代でネットの監視作業に勤しんでいた彼らだが、つい一昨日美来が作ったアラートソフトにより、神城市の電脳世界におけるバズラス出現の予兆を自動でサーチできるようになったのだ。
そのため、2人は同じタイミングで床につくことが出来る。
もちろん、アラートが鳴れば即起床だが、それでも、何時間も無意味にモニターと睨めっこしなくて済むようになったため、2人のコンディションはとても良好だ。
「ん……」
美来は希海の胸に潜り込み、抱擁を求めた。
希海はそれに応え、彼女の体をそっと抱きしめる。
「ふふふ……。恋人同士が一緒の布団ですることと言えば一つだよね」と、今度は口づけを求めてくる美来。
「明日は学校あるから駄目だっての……」と、それを軽く済ませ、舌をベロベロと出して見せる未来を自身の胸元に押し込めた。
「週末は相手してよ~?」
等と言い、プイと背中を向ける美来。
希海は後ろから彼女の体を抱き、「はいはい、おやすみ」と、目を閉じる。
頼れる彼クンの腕の中は安心できるのか、美来はあっという間に寝落ち。
希海もまた、愛しい恋人の髪と素肌の匂いを楽しみながら、深い眠りに落ちて行った。
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「……喉乾いた」
美来は真夜中、ひどく喉が渇いて目が覚めた。
希海から伝わってくる体温のせいか、ひどく汗をかいている。
枕もとのジャスミンティーをグイっと飲み、渇きを潤す。
「今何時……?」と、スマホ画面を見ると、夜中の3時だった。
ふと、彼女の寝ぼけ眼に映ったのは、携帯回線が途切れていることを示す、右上のバツ印。
「ん~? 電波障害~?」
美来はそう言うと、希海のスマホを手に取り、画面を付けてみた。
すると、違う会社の回線を使っているそれも、電波障害に見舞われている。
美来は嫌な予感を覚え、PCの画面を付けた。
「……嘘でしょ?」
彼女のPCに繋がる有線の光回線もまた、同じように未接続状態になっていた。
美来は慌てて希海を起こす。
即座に覚醒した彼に事情を話すと、希海はすぐさま窓を開けて外に出ると、そのまま垂直に数十m飛び上がって街をサイバーグラスで見渡した。
「おいおいおい……マジかよ……」
飛び降りてきた希海は、唖然とした表情を浮かべ、言った。
「町中から、データ流が消えてる……」
それが、最後の戦いの幕開けだった。





