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電脳魔法少女 サイバズウィザーズ!  作者: マキザキ


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第9話 C 愛憎のお気持ち表明!




「これは……! またバズラスか!?」



 美来に酷く言われてしまった希海は、1人寂しく家路を急ぐ最中、その異変に遭遇した。

 町中でカップルと思しき男女が、もしくは同性が、激しく罵りあったり、服を掴みあったり、殴り合いをしている。

 その目に宿る光に、希海はバズラスの気配を感じとる。


 美来にメッセージを飛ばすも、既読が付かない。

 彼女もあんなことを言った手前、なかなか気まずいのかもしれない。

 だが、それとこれとは別の話。

 希海は根気強くメッセージを、通話を送るが、反応がない。



「寝てるのか……。致し方ない!」



 希海は気まずさを押し殺し、美来の家へと走った。

 彼の健脚をもってすれば、ものの数十秒で到着する。

 先ほど挨拶をした彼女の母親に「忘れ物をした」と告げ、美来の部屋へ向かう希海。

 「泊っていってもいいのよ~」という声が、彼の後ろから聞こえる。



「美来……。寝てるのか?」



 いつもなら気にせず扉を開けて入るところだが、流石にさっきの今とあれば、希海も気を使ってノックする。

 返事はない。

 だが、彼女のPCのファンが唸る音は聞こえる。

 クリックや、キーボードの音はない。



「入るぞ? ……美来?」



 美来は、PCデスクに突っ伏している。

 「寝ているのか……?」と、希海が彼女の体を揺するが、全く反応がない。

 嫌な予感を覚えた希海は、彼女を抱き起こし、その呼吸音を確認する。



「おい……。おい……!?」



 彼女は、呼吸をしていなかった。

 心臓の鼓動も、全く聞こえない。

 だが、その顔の血色は良く、体温も何ら異常はなかった。


 違和感を覚えた希海が、スマホ画面を見ると、美来がサイバズダイブ状態になっているアイコンが表示されている。

 まるで、彼女の魂だけが、電脳世界に行ってしまったかのように……。



「いや……! 今は何より救急を……」



 希海はスマホを操作し、119番に通報を試みる。

 だが、その操作は叶わなかった。

 通話アプリがキャンセルされ、美来の支援アプリが起動したのだ。

 そして、その中で笑うサイバーウィザード・ミライの姿。


 だが、その様子は、普段の彼女とは全く違っていた。

 黒を基調とした、露出度の高いコスチューム。

 淡い桃色から、毒々しいピンクに変化した髪色。

 そして、バズラスによって狂わされた人特有の、怪しい光を湛えた瞳。



「美来……? お前何を……」


「アハハハ……希海ぃ……私、あなたがすっごく……憎い!!!」



 不敵な笑みを浮かべたかと思うと、彼女は部屋中の電子機器を操作し、希海へと攻撃を始める。

 冷房からは猛烈な冷気が噴き出し、加湿器からは視界が霞むほどの霧が噴き出し、サーキュレーターがそれらを竜巻に変えて希海へと放つ。


 だが、所詮は家電。

 希海は一瞬怯んだものの、すぐさまコンセントを抜き、美来の攻撃を阻止した。



「お前何考えて……!?」


「あー! 憎い! 憎い!  憎い!!!」



 美来はそう言うと、外の電脳世界へと飛び出していく。



「ま……待て美来!!」



 希海はその後を追い、窓から外へ飛び出した。

 電脳世界を軽やかに走り抜ける美来。

 サイバーグラスを使い、現実世界から追跡する希海。



「ニクイ! ニクイ! ミーンナ憎い!!」



 美来が片言交じりの不自然な言葉を発し、胸から光線を放つと、その先に居た人々の電子機器が怪しい光を放ち、隣を歩く恋人に襲い掛かった。



「俺は前からお前の手料理が不味いと思ってたんだ!」


だの


「付き合ってるのに風俗店行くとかあり得ない!」


 だの


「なによ!」「あんたこそなによ!!」


 だの

 多種多様な喧嘩が町中で連鎖していく。



「美来―――! やめるんだ美来―――!」



 まるでバズラスのような行動を始めた美来を、必死に止めようとする希海だが、現実世界からでは、その行動を妨げることが出来ない。

 どうすればいいか途方に暮れる希海の目の前が、突然黄色く染まった。



「ヤメル……! カナシム……!!」



 それは、いつの間にか希海よりも大きくなっていた、あの黄色い生き物だった。

 その生き物は口を開けると、すごい吸引力をもって美来の光線で狂わされた人々から情報を吸い取り、狂乱状態を解除していく。



「トメル! ワルイノ! トメル!」



 今度はその吸引を美来めがけて行い、空中に静止していた彼女を急激に吸い寄せていく。

 美来も「ヤメなさいヨ!! この黄色デブ!!」等と言って抵抗しているが、やがて、徐々に、徐々に、引きずり降ろされていく。

 その最中、希海は見た。

 美来の背中から、アネモネの花弁を思わせる頭部に、ギョロギョロと動く単眼を持った異形のバズラスが現れ、こちらを見つめたのを。


 「タオス!」と気合を入れて吸引を強めた黄色い生き物。

 アネモネ型のバズラスは「キュイイイイ!」という悲鳴を上げながら、その口内へと消えていった。

 寄生者が抜けた美来の体が、ゆっくりと落ちてくる。

 希海は「美来!」と駆け寄り、抱きとめようとしたが、それは叶わなかった。



「クルシイ……コノチカラ……モウ……トドマラナイ……」



 急に苦しみ始めた黄色い生き物の頬が激しく裂けた。

 その中から数倍に数を増やしたアネモネの花弁が飛び出したのだ。

 花弁から伸びる茎が美来の体へ殺到し、彼女を取り込んで巨大な人型の植物と化していく。



「ニクイ! アイガニクイ! ツタワラナイオモイガニクイ! ウラギラレルアイガニクイ!!!!」



 そのバズラスは全身から根や茎を伸ばし、町中の回線へ結合していく。

 瞬く間に、そこら中で恋人たちのいざこざが発生し、SNS上でも激しい愛憎の罵りあいが始まった。



「美来―――!!」



 敵の胸部に取り込まれた美来に呼びかけ、応援コマンドを放つ希海だが、密集した茎と葉に阻まれてしまう。

 見れば、根から吸い上げられた数多のデータが美来の体を経由し、赤い、攻撃的なデータとなって葉からばら撒かれている。

 彼女は悲鳴をあげ、苦しそうに身もだえしながら、データを変換し続けていた。

 彼女はあらゆるデータを愛憎感情の乗ったデータにするための生体ユニットにされているのだ。

 あのまま彼女の体が酷使され続けたら、半死半生状態にある彼女本体も死んでしまうかもしれない。



「カナシム…… ノゾミ ツライ カナシム……」



 消え入りそうな声がして、振り返ると、あの黄色い生き物が、ボロボロの体を引きずりながら、バズラスへ向かって這ってきていた。

 だが、途中で力尽きたのか、倒れ伏してしまう。



「何とか……何とか美来を救う方法は……!!」



 希海は未だデジタル分野に関して鍛錬の足りない頭をフル回転させ、手立てを考える。

 考えて、考えて、考える。

 そして、彼は閃いた。

 彼女の元に、自分の応援を届ける手段を。

 希海は「少し待っててくれ!」と踵を返し、美来の家へと走った。

 その背後で美来の悲鳴が一層強くなったような気がした。




////////////////////




 美来の部屋。

 希海は目の前にスマホを置き、SNSアプリの配信機能を起動する。

 美来のPCは電源が入りっぱなしだったため、彼女のアカウントは容易に知ることが出来た。

 あとは、少しの決意だけだ。

 希海は、倒れ伏す美来の頬をそっと撫でた。

 

 彼女が秘密にしていたSNSの裏アカウントには「好きな人が自分の気持ちを分かってくれない」とか「好きな人が自分以外の人にやさしくしてる」とか「好きな人に思いを伝えたいけど、拒否されたら生きていけない」といった投稿のほか、若干キツめの恋愛ポエムなどが散見される。

 そして「好きな人への苛立ちが募る」「好きな人の博愛が憎い」そして「苦しい 助けて」という、バズラスに囚われてからの書き込みさえ存在した。


 希海はその一部内容に少し困惑したが、同時に決意も沸いた。

 美来の裏アカウントをフォローすると、すぐにフォローバックが来る。

 取り込まれながらも、意識はちゃんと残っていて、SNSを認識しているのだ。

 希海にとっては好都合なことだった。



「俺の日ごろの行いが、態度が、お前がバズラスに囚われる原因になったのなら……俺が責任を果たさないといけないよな……!!」



 希海は美来のヘッドセットを借り、これまで見る専だった自身のアカウントを使い、顔出し配信を始めた。

 無論、実名である。


 時間が時間だったためか、相互フォローになっていたソウマやユキを始めとするクラスの面々が、その配信を視聴し始めた。

 全体公開と限定公開の違いも分からない希海は、当然のごとく全体公開を始めてしまったのだ。

 色々な感情が脳内で渦巻いた希海だが、もう後には引けないと、腹をくくり、話を始めた。



「今日は、思いを伝えたい人がいます」


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