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電脳魔法少女 サイバズウィザーズ!  作者: マキザキ


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第9話 B 真夏の夜の悪夢




「おーっす……」


「お疲れ希海。今日は遅かったじゃん」


「いや、昼にデータ発生源特定頼んだじゃん? すぐ取り押さえに行ったんだけど、ちょっと午後の授業に被っちゃって、先生に怒られて居残りさせられてたじゃん」


「じゃんじゃん……。それはお疲れじゃん」



 軽く冗談を言い合いながら、美来の隣の座椅子に座る希海。

 今日の分のノートと、手土産の塩羊羹を未来に手渡す。

 すると美来は急須から緑茶を注ぎ、希海に差し出した。

 2人で少し遅い午後のお茶を楽しみながら、魔法少女の活動を始める。



「あ、そうそう。私最近さ、ある法則に気づいたんだけど」


「ん?」


「私達、これまでバズってるデータがバズラスになると思ってたじゃん?」


「ああ。違うの?」


「正確には、あるデータがすごいバズった後、それに関する情報がネット上から根こそぎ消えた後にバズラスが発生してるみたいなんだよね」


「言われてみれば……。前回の自殺バズラスも一回変な情報消失があったってお前言ってたよな」


「でしょ? それでさ……データが消えるといえば……さ」



 美来は気まずそうに希海の顔を覗き込む。

 希海はその意図が分からず、しばらく沈黙したが、やがてパンと手を叩き、「あの黄色いのか!」と声を上げた。



「あいつがバズラス騒動に一枚嚙んでるって? でもバズラスに襲われてたような……」


「バズソーバズラスの時でしょ? でもさ、なんか不自然じゃない? だってあの子電脳世界には居ないんだよ? バズラスからも捕捉できなさそうじゃない?」


「……。言われてみれば確かに……」


「もしかしたらあの子……。私たちの行動を知ってて、自分の悪行を暴かれないために希海に接近したんじゃ……」


「悪行って……?」


「もちろん、あの子がバズラスを生んでるってことを、だよ」


「えぇ!? それはいくら何でも飛躍しすぎじゃないか!?」


「もちろんまだ疑惑だよ? でもさ、バズラスが生まれる過程とあの子の行動考えると、なんか合致しない?」


「……」



 希海は顎に指をあて、思考を巡らせる。

 確かに、あの黄色い生物が情報を食い、それをもとにバズラスを生み出しているとすると、これまで彼が見た、いくつかの事柄の辻褄が合う。

 ただ、一点、彼には腑に落ちないことがあった。



「でもアイツ……。悪い奴ではないと思うんだよ……」



 あの生き物が、助けられたことを理解する知能を持ち、それに対して感謝を伝える概念も持ち合わせていること。

 それに何より、風車の危機に駆け付けてくれた一件が、希海の心に引っかかっていた。



「それももしかしたら企みの一つかもしれないじゃん」


「いやそういう風には……」


「……。私よりも、その訳の分からない生物を信じたいわけ?」


「そういうわけじゃないけどさ……」


「希海って人を見る目ない割に、そういう直感頼りにするよね」


「んなっ!?」



 美来の強い言葉に、動揺する希海。

 美来も美来で、なぜそんな言葉が口をついて出てきたのか、分からなかった。

 しかも、これ以上言ったら希海を傷つけかねないと理解しているのに、なぜかそれを止めることが出来ずにいた。



「私の時……何も見破れなかったくせに……。弟君の時も……」



 そこまで言いかけて、美来は自分を見る希海の目に気が付いた。

 普段は強さと慈愛、そして自信に満ちたその瞳に、涙が浮かんでいた。



「ごめんな」



 散々に言われ続けてなお、希海が怒ることはなかった。

 美来は自分のしでかした行為の醜さに、強い吐き気を催す。



「ごめん……今日はここらで帰るよ……」



 希海は淀んだ瞳のままゆっくりと立ち上がり、美来の部屋を後にする。

 美来は必死でその背中を追おうとしたが、吐き気と眩暈が、彼女の声と、動きを遮った。

 1人残された部屋で、美来は激しく嘔吐する。

そしてしばらくの間、声を押し殺して泣いた。



「私……どうしちゃったんだろ……謝らなきゃ……」



 我に返った美来は、せめていち早く謝ろうと、希海へSMSを飛ばそうとする。

 しかし、あれだけ酷いことを言っておきながら、メッセージで済ますというのは気が引けてしまい、彼女は逡巡する。

 結局、SMSも飛ばせず、通話する勇気もなく、自責の念に堪えかねた美来は、SNSの裏アカウントに、そのことを書き込んだ。

 いっそ誰かに叩かれ、せめて罪の意識を軽くしたかったのかもしれない。

 ともすれば、続く異様な暑さがそうさせたのかもしれなかった。


 画面を見つめる美来は、頭がボーっとし、その画面の中に意識が吸い込まれていくような感覚を覚える。

 「暑くて……どうかしちゃったのかな……」そう呟きながら、彼女は意識を失った。

 窓の外では、パトカーのサイレンが異様なエコーで鳴り響いていたが、それが彼女の耳に届くことはなかった。


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