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電脳魔法少女 サイバズウィザーズ!  作者: マキザキ


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第8話 B やりすぎネットリンチ!




「うーわ。こりゃ酷いな」


『でしょ? これは普通に駄目だよね』



 美来のナビに従い、辿り着いたのは、ごくごく普通の賃貸マンション。

 その一室めがけて激しい情報流が発生している。

 そここそが、あの風車に突撃してきた配信者コンビの片割れが住んでいる部屋であった。


 二人はあの時生配信中だったらしく、迷惑凸をしてしまったことを事件の後に謝罪したらしいのだが、当然のごとく批判が殺到。

 しかも腋も甘かったのか、あっさりと住所特定を食らい、マンション前には迷惑系配信者らしき人影も見える。


 ただ、彼らは風車に対して直接的な被害は与えていない。

 むしろ、あの騒動で謝罪に来たのは彼らくらいのもので、「責任を取れ」だの「引退しろ」だの、よもや「死ね」などの誹謗中傷に晒されるのは少々理不尽とさえ言えるのだ。



「分かりやすくサンドバッグになっちゃってるわけか……。まあ悪くないとは言えないけど、店主に許されてるからなぁ……。謝っただけ知らんぷり決め込んでる人らよりマシだと思うんだけど」


『だよね。ちょっと助け舟出しとく? これで彼らがネットリンチに遭うのはお蕎麦屋さんの本意じゃないでしょ?』



 希海のスマホの中で、銃を構えて見せる美来。

 彼女のサイバー弾丸なら、誹謗中傷のメッセージを的確に破壊できるだろう。

 だがそれは、決していいこととは言えないものの、一般人のネット利用に干渉するということ。

 個人の采配でそれを勝手に阻害していいものなのか。

 希海は一瞬悩んだが、しかし、風車の店主の話を思い出し、美来に攻撃を指示したのだった。



『オッケー任せて! スパークショット!』



 美来の構える銃口から放たれた、電撃のサイバー弾丸。

 それはマンションの一室へ激しく流れ込むデータ流の中に入っている、デマ、度を超えた中傷、そして、自殺教唆を仄めかすような言葉のデータたちを、的確に破壊していく。


 残ったのは比較的温情のあるコメントや、励まし、苦言程度の戒めなど、受けても心に傷を負わない程度のデータ。

 滝のように激しく光っていたデータ流が、清流のせせらぎ程度に落ち着き、希海の目から見ても、危険な流量ではなくなっている。

 これでそれらのメッセージを送っている者たちが落ち着けば、炎上状態は収まるに違いない。

 二人がそう考えて、安堵を覚えた瞬間……。



『え!? 何!? 何やってるの!?』



 美来が悲鳴のような声を上げた。

 「どうした!?」と希海が聞くと、彼女は切羽詰まった声で「希海! あの部屋に突っ込んで!」と叫んだ。

 「あの二人……。自殺配信しようとしてる!!」とも。




////////////////////




『申し訳ありませんでした……』


『死んでお詫びいたします……』



 希海のスマホには、美来が飛ばしてきた配信者コンビの生放送が映っている。

 思ったより猶予はないらしい。



『希海急いで!! 早く服着てってば!!』


「分かってるっての! でもこれ結構キツいんだよ!」



 生放送に殴り込む以上、迂闊に顔を晒すべきではない。

 そういった判断から、希海はスイーツ仮面コスチュームを一旦家まで取りに戻ったのだ。

 その間にも、彼らは天井にロープをかけ、いつでも首が吊れる状況だ。


 コスチュームを着て家から飛び出した希海の目に、再びあのマンションが映った。

 美来の彼を急かす声が、どんどん悲鳴になっていく。



『希海―――!! 早く―――!』


「分かって……る!!」



 地面を強く蹴り、大きくジャンプした彼は、配信者たちの住む18階の窓にそのまま飛び込んだ。

 彼の目に映ったのは、既に宙に浮く二人の姿……。



「はあああああ!!」



 希海の手刀が振るわれ、ワイヤーロープが断裂する。

 配信者二人はビクビクと痙攣しながら、床に転がった。



「私はスイーツ仮面改め、自殺阻害仮面・怒り! その自殺、阻害させてもらおう!!」



 そう言いながら、パン!と、平手で二人の胸を叩く希海。

 強烈な一撃で、細動に入っていた彼らの心臓がドクンと動き出す。

 激しくせき込む二人を確認したのち、希海はカメラ目掛けて指をさし、



「貴様ら! 彼らは被害者に謝罪し、許しを得ている! そこに自害を選ぶほどの責任などない! 度を越えた制裁は社会に良からぬ影響を及ぼすぞ! 金輪際やめることだな! ハーッハッハッハ!!」



 と叫んだあと、彼らの部屋のカギを開けると、勢いよく外へ飛び出していった。

 配信は、彼と入れ替わりに入ってくる救急隊員の姿を捉えたあたりで、通報を受けた運営により打ち切られたのだった。


 飛び去りながら振り返ると、既に彼らの部屋に流れ込むデータ流は、完全に消滅していた。

 そう。

 不自然なほどに、完全に。


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