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第5話 A メガネで覗き見!




「はいこれ、プレゼント」


「ん? これは?」



 いつものように希海が美来の部屋を訪れると、えらく上機嫌な彼女が細長いケースを渡してきた。

 中から出てきたのは、黒縁の眼鏡。



「ありがとう……? どういう風の吹き回しなんだ?」


「ふっふーん。まあとりあえずかけてみなさいよ」


「お……おう」



 希海が眼鏡を装着すると……。

 そこに映ったのは普段と変わらない彼女の部屋……ではない。

 彼女の部屋に、複数の光の線が走っている。



「おお! なんか分からないが凄いな!」


「それだけじゃないんだから! サイバズダイブ! どう?」


「えぇ! なにこれ凄い!」



 希海の視界に、ARグラフィックのようにサイバーウィザード・ミライが現れた。

 ご丁寧に「ミライ」というアイコンが彼女の上に浮かんでいる。

 当然ではあるが、その美来は希海が眼鏡を外すと消え、かけるとまた見えるようになった。



「どうよー! これが支援アプリに続く支援アイテム、サイバーグラスよ!」


「サイバーグラス……ってことは、この見えてる光の線みたいなのが電脳空間なのか」


「その通り! 前回みたいに空間を操ってくる敵が相手だったとき、私が初手で捕まっちゃうこともあり得るわけじゃない? そういう時に、いち早く異常に気付けるようにって」


「成程なぁ、出来ることは限られてるかもしれないけど、知覚出来ないことには手の打ちようがないしな……。ああ、それでお前の位置が分かるようになってるわけね」


「凄いでしょ! 褒めてくれてもいいんだよ?」



 そう言って、希海に頭を突き出す美来。

 希海は美来の頭に手を伸ばして撫でようとしたが、触れることは出来なかった。




////////////////////




「へ~。本当に表裏一体で存在してるんだな、電脳世界って」


「ねー。私も初めて見た時、ほぼ街の地形そのままで驚いたもん」



 サイバーグラスをかけ、希海は街を歩いてみる。

 電脳世界は、街を縦横に走る電線や、様々な電子機器、街頭モニターなどへと伸びている。

 辺りを行き交うスマートフォンや車などにも道が存在するようだ。

 そして、それらの中を行き交う光が、所謂「情報」である。

 そこら中の機器から、光が無数に飛び出し、電脳世界の道を走り抜けていく。

 長く見ていると目がつかれそうな光景だ。


 希海はふと、隣を歩くサイバーウィザード・ミライを見る。

 電脳世界側にいる彼女からも、サイバーグラスの向きは見えるので、希海が自分を見ていることに気付いた。



「何? どしたの?」


「いや、なんか、お前と並んで歩くの久しぶりだなって」


「……」


「そろそろ出てきたらどうだ? また一緒にどっか行こうよ」


「……深夜なら」


「ダメ。補導されるから」


「いーじーわーるー!」


「なーにが意地悪だっての。意地悪だったらお前にこんなに尽くしてませんよーだ」


「ふーんだ! 考えときますよーだ!」


「まーたお前はそうやって……。 ん? こいつは……」



 言い合いの最中、希海は眼鏡に妙な物体が映っていることに気がついた。

 街角に設置されたデジタルサイネージの上で、黄色い生き物がスヤスヤと寝ているのだ。

 それはだいぶ前、街頭モニターに映り込んでいたハリネズミ型のキャラクターによく似ている。


 道行く人々がその不思議な生き物に見向きもしないあたり、見えているのは希海だけらしい。

 実際、サイバーグラスを外すとそれは見えなくなる。



「なあ美来。こいつ何だろ?」



 電脳世界にいる生物かと思い、美来に尋ねるも、彼女は「え? 何のこと?」と、キョトンとしている。



「いや、何かマスコットキャラみたいな黄色いのが寝てるんだが……。あ、起きた」



 自分を見つめる気配に気づいたのか、その生物は目を覚まし、希海を見上げた。

 希海が「あ、おはよう」と声をかけると、その生物はにっこりと笑い、合成音声のような声で「オハヨウ」と返してきた。



「あ! 今なんかデータが流れた! 本当に何かいるんだ……」


「信じてなかったのかよ……。あれ、何か食ってる……?」



 その生物はモグモグと頬を動かし、何かを食べているように思えた。

 よく見ると、サイネージがパチパチと点滅している。

 しばらくすると、その生物は満足した様子でケプッと腹を叩き、ピョコンピョコンと細い路地裏へと跳ねて行った。



「あ! ちょっと待って!」



 希海はその健脚で後を追ったが、既にその姿はどこにも見当たらなかった。




////////////////////




「あれ? ノゾミ眼鏡変えた?」


「あれ、分かる? ちょっとイメチェン」


「なんか真面目そうな雰囲気になったかも。一枚撮って良い?」



 翌日、早速ユキが希海の変化に気がつき、スマホカメラを向けてくる。

 しかしまさか、自分の上に「↓あざとい女」などというアイコンが浮かんでいるとは思うまい。

 希海はスマホ背面をトントンと叩き、美来に妙ないたずらを辞めるように戒める。


 即座に美来が電脳世界に出現し、ユキのスマホにサイバーチョップをお見舞いした。

 「あれ~? なんか再起動しちゃったよ~」とうろたえるユキと、鼻息を荒らげて威嚇して見せる美来。

 ヒーローにあるまじきいたずらに、(ちょっとこれはキツく言っとかないといかんな……)と、希海が放課後自宅説教会の開催を計画していると、美来が突然真剣な表情になり、辺りをキョロキョロと見回し始めた。


 希海には当初、何が起きたのかイマイチ分からなかったが、よく見ると校内電脳世界の道を、青い周回矢印マークや、ハートマークが凄い勢いで飛び交い始めたのだ。

 「バズってる! 何かがバズってる!」美来がそう叫んだ時、隣の席でスマホを弄っていたソウマが「ノゾミ~。なんか工具メーカーの新商品のデータが丸々ネットにアップロードされてるとかで、祭りになってるぜ」と、噂話をするようなノリで話しかけてきた。


 希海はバズラス発生かと身構えたが、不思議にも、校内におけるそのデータの激流は、次第に沈静化し、やがて消えた。

 希海の視界の隅を、ぷっくりと膨れたあの黄色い生物が笑顔で通り過ぎて行った。



「あれ? リツイが消えてるな……」



 ソウマがふと呟いた。


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