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第二十一話 聞きたいけど……

 木曜日。それは学生にとって最も気が滅入る曜日と言えるだろう。

 学校に通い続けて四日目。これが金曜なら明日は休みということで気が楽になるかもしれない(土曜日も授業がある学校もあるだろう)が、生憎今日は木曜日。つまり休みがあるのは明後日になる。


 人間というのは不思議なもので楽しみにしている日程が近ければ近いほど経過していく時間が長く感じるものだ。

 そういうわけで木曜の教室は自然と疲れの色が濃くなる。


 「はぁ〜……」


 そんな例に漏れず一姫も頬杖を付き、憂鬱そうに溜息を吐いていた。

 しかし、その原因はクラスメイトよろしく疲れから来るものではなかった。


 『でもあれだけ待たせるのを厭っていると考えるとただの友達ではないだろうね』


 昨日、急いで教室を後にする零聖に対して幽吏が呟いた一言。

 それが気にかかり一姫は結局、都市伝説研究部の入部を保留にし、その後の運動部の見学もすることなく家に帰った。

 友人を待たせるのを嫌うこと自体何ら不自然なことはない。一姫だって友人を待たせるのは気が引けるタイプだ。

 しかし、その友人が女の子であったなら意味も変わってくるのではなかろうか?


 (どうしたらいいのわたし〜……)


 それがどうしても気になっていまい、夜も眠れないのだ。


 「朱雀さん」


 そんな悶々としてる中、恋から声をかけられる。


 「えっと……蘭さん、だよね?どうしたの?」


 さして面識のない相手(一姫にとってはほとんどがそうだが)からの接触と零聖のことを考えていたせいか半ば無意識に体が強張る。


 「いや、凄い顔してたから。気になって」


 どうやら恋はただ一姫を心配してくれただけのようだ。


 「……そんな凄い顔してた?」


 「うん。この世の終わりみたいな」


 そんなにか……そう言えば前に気持ちが顔に出やすいと友人に言われたことがあるのを思い出した。


 「で、何かあったの?」


 恋は一姫が何かに悩んでいると確信している。誤魔化すのは難しいだろう。かと言って零聖の件を真面目に話すのは恥ずかしい。どうすべきか。


 「彼女は昨日、零聖くんが遊んだ友人が女性なのではないかと危惧しているんだよ」


 「雲母さん!?」


 一瞬の逡巡の隙に背後に立っていた幽吏に悩みの内容を呆気なく暴露されてしまう。


 「ちょ……いきなりそんなこと……」


 「何を恥ずかしがる必要があるんだい?関心のある異性の交友関係が気になるのは当然じゃないか」


 不意打ちの爆弾投下に戸惑いと羞恥が入り混じり、慌てふためく一姫に投下犯は悪びれる様子もなく言ってみせる。

 確かに理屈としてはそうなのだが……ってこれでは自分が零聖のことが好きだと公言しているようなものではないか!よりにもよってそばにはこないだ零聖に手作り弁当を振る舞っていた恋がいる。

 いや、でも万に一つの可能性で聞き逃していたといことも……

 そんな淡い望みを胸に一姫は錆びたロボットのようなぎこちない動きで恋の様子を伺うが……


 「……え?」


 恋はまるで留年が決まったかのような絶望の表情で固まっていた。


 「それ……どういうこと?アイツ……彼女いんの?」


 周囲の話し声で今にも掻き消えそうなほどか細い声量で一姫が呟いた。

 恋の性格からすれば揶揄われるのではと思い、言うか悩んでいた一姫であったが予想とは異なる反応に昨日の疑惑が確信に変わってゆく。


 (やっぱり蘭さんって零聖くんのこと……)


 「まだそれは分からない。でも、考えていてもしょうがないことだから本人に聞こうか」


 「「!?」」


 「放課後カラオケ行こ?」くらいの軽いテンションで唯一にして最も忌避していた解決方法を提案してくる幽吏に二人はUFOでも見たかのように目を剥いていた。


 「どうしたんだい二人とも?ボクは何か間違ったことを言っただろうか?」


 芳しくない反応を見せる二人に幽吏が不思議そうに首を傾げた。


 ((いや、そういうことじゃない))


 心中で一姫と恋の声が重なった。


 この件が零聖に尋ねれば一発で解決することなど十分に理解している。

 だが、言うは易く行うは難しでこれを行うのは二人にとってかなりハードルが高かった。

 異性に恋人がいるか聞くなどそれは「あなたのことが好きです」と言外に言っているようなもの。そんなこと普通の神経をしているなら絶対に出来ないというのが二人の総意だ。

 しかし、目の前にいるのは普通の神経の持ち主ではない。超人少女エキセントリック・ガールと名高いあの雲母幽吏なのだ。


 いかにしてこの少女を説き伏せようか。


 二人が頭を悩ませ始めたその時だった。


 「おっ、珍しい組み合わせだな。どうかしたか?」


 教室の扉が開き、零聖が目を擦りながら登校してきたのだ。


 「おはよう鳳城くん。実はこの二人がキミに尋ねたいことがあってね……」


 絶妙な間の悪さに二人が絶句する中、幽吏は普段と変わらないリラックスした態度で体を零聖の方に向けた。


 「昨日、ほうか……」


 「「わーーーーっ!」」


 これ以上、幽吏に喋らせてはならない。


 そんな強い意志が二人の硬直を解くと一姫と恋はまるで示し合わせたかのような阿吽の呼吸で幽吏を拘束すると口を塞いだ。


 「あそ……ゆうじ……何をするんだ二人とも!」


 「雲母さん!もう大丈夫だから!」


 「アンタは喋らないで!」


 何故こんなことをされるのか分かっていない幽吏は理由を尋ねるも必死の二人にはそれを答える余裕などない。

 あるのは自分達の乙女心丸出しの質問を聞かれたくない思いだけだ。


 「あ?何でお前らが昨日、オレと一緒にゲームしたやつのことを気にしてるんだ?」


 だが、そんな思いは呆気なく砕け散る。零聖はほとんど聞き取れなかったはずの幽吏の言葉の断片から質問の内容をまるでテレパシーでも使ったかのように聞き取ったのだ。

 努力が徒労に変わった瞬間、二人は力を無くしたようにガクリと頽れた。


 「どうしたんだお前ら?」


 状況が理解出来てない零聖はそんな二人を奇異の目で見下ろしている。


 「で、その友人は男性、女性のどちらだい?」


 二人から解放された幽吏は聞かなくても良い質問を何事もなかったかように続行する。


 「……女だけど」


 その返答に一姫と恋が俯けていた顔を上げる。


 質問の意図を図りかねながらも素直に答えた零聖に一姫と恋は試験で赤点を取ったような絶望の目を向けていた。

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