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第十四話 あいつ何処へ行った?

 昼休み、二年一組の教室の片隅にて隠そうともせず不機嫌なムードを撒き散らす一人の生徒がいた。


 一姫である。


 不機嫌の原因は勿論、零聖だ。


 屁理屈を並べて問題から逃げた挙句、物理的にも逃げたたあの幼馴染だ。

 一姫はその鬱憤を晴らすように帰り際、購買で買ってきたおにぎりや菓子パンをひたすら貪っている。

 その様子に男子は「何があったのだろう」と首を傾げ、女子は「あんなに食べて太らないのだろうか」と自分に重ねてゾッとしていた。


 「まあまあ、朱雀さんもそんなにイラつく必要ないって。アイツも悪気があったわけじゃないんだろうし……」


 その横では気絶から目を覚ました嵐が一姫を宥めている。あんな目に遭わされたにも関わらず零聖を擁護する姿勢には関心を覚えるが尚も一姫の鬱憤はおさまらない。


 「悪気がないならなんであんな態度をとるの?昔はあんなに素直でいい子だったのに……」


 嵐は一姫から愚痴を聞かされる形でその理由はちゃんと把握していた。


 「……昔と今は違うんじゃないか?」


 が、イマイチ理解は出来てなかった。


 恋とのすれ違い(?)に対して改善しようという意欲のようなものを零聖から感じたのは確かだがどうこうするとまだ言ったわけでもないのにどうしてそんなに怒っているのだろうと。


 「昔も今もわたしは零聖くんの幼馴染なの!やっと会えたっていうのに冷たくあしらうなんて許せないと思わない?」


 一姫が同意を求めるように上半身を嵐に乗り出してくる。


 (なっ……)


 その発言で嵐はようやく一姫がご立腹の理由を理解した。

 つまり一姫は零聖に無碍に扱われたことにただ拗ねているだけなのだ。恋との仲直り作戦(?)を実行しなかったとかはどうでもよく。

 この主張に対して「十年以上も交流のなかったもはや友達と言えるかも怪しい幼馴染に気を遣えと言うのは少々身勝手ではないか?」と感じる者の方が自然だし多数派だろう。しかし……


 「そうだよな!幼馴染を蔑ろにするなんて許せるはずがない!」


 この男はその反対の意見を持つ者且つ単純(バカ)だった。さっきまでの零聖擁護の姿勢はどこへやら。一転して一姫に同調し出した。


 「そうだよね!幼馴染っていうのはそれだけ尊ぶべき関係だよね!」


 席から立ち上がった二人はお互いの顔を見合わせると固い握手を交わし、その意思が不変であることを確かめ合うように頷いた。

 その光景に事情を知らない他のクラスメイトはただただ目を丸くしていた。

 そもそも何故、嵐が尊幼馴染派に転向したかだが……


 (こんな可愛い幼馴染がいるのにそれを大切にしないのはうらやまけしからん!幼馴染なんて望んで手に入れれるものじゃないというのに!これはもう零聖(ヤツ)に天誅を下さねば!天誅!)


 ただの嫉妬であった。だって仕方ない。単純(バカ)だもの。

 嵐の趣味の一つとして漫画、ライトノベルがあるのだが(零聖との接点もこれでできた)、中でも幼馴染ものは大好物で憧れた関係だ。

 そんな自分が望んでも既に手に入れることが出来ないシチュエーションを手にしている零聖がとても羨ましく、妬ましかったのだ。


 「朱雀さん。オレ達でアイツに幼馴染とは何たるかを……」


 その時だった。嵐の決意の言葉を遮るようにして激しく扉が開かれる。

 何だ何だと視線を向けた一同の先には血相を変え、教室を見回しながら入ってくる零聖がいた。


 「天誅ーーー!」


 そんな零聖を見るなり、嵐が討ち入りとばかりに飛びかかる。その姿はさながら幕末志士のようだ。

 零聖はそんな刺客には目もくれず両腕を掴み、突進を止めるとその腹に膝蹴り叩き込んだ。


 「ぐふっ!?」


 だが、零聖の反撃はこれだけでは終わらない。蹴りを入れられ浮き上がった身体に追い討ちをかけるように肘を垂直に振り下ろす。


 「ぎゃぴゃっ!?」


 繰り出された打撃のサンドウィッチに嵐は潰されたヒキガエルのような奇怪な呻きとともに地面に叩き伏せられ本日二度目の気絶状態に入った。

 怒涛の展開にクラスメイトらは顎が外れそうなほどあんぐりと口を開いているが零聖はそれを対し気にするそぶりも見せず、軽く舌打ちしたかと思うと一姫にずんずんと迫り壁際まで追い込み、壁に手をつく俗に言う壁ドンを披露した。


 「れ、零聖くん!?」


 これには先程はまで怒り心頭だった一姫も戸惑うしかない。考えを巡らそうにも頭が熱に侵され上手く回らない。

 そして、零聖が真剣な顔つきで口を開く。


 「おい、蘭はどこだ?」


 「え……?」


 「蘭は何処へ行ったって言ってるんだよ」


 「蘭さんなら零聖くんが出てしばらくしてから何処かに行ったきりだけど……」


 質問の意味は分からなかったが急かされたので答えると零聖は壁から手を離し、考えを整理するようにブツブツと呟き始めた。


 「……ということはまだあいつは帰ってきてないってことか。……いや、これは好都合と受けるべきか?」


 「ねーえ、零聖くんどうしたの?」


 「……ああ、実はな……」


 ようやく自分が一姫に何も説明していないと考えが至った零聖は恋に自分が退学するという旨の会話を聞かれた可能性があることを話した。


 「なるほど。つまり零聖くんは蘭さんにその話を聞かれたか問いただして、聞かれてたのなら口止めをしたいってことだよね?」


 「そういうことだ。だから吹聴される前に急いで帰ってきたんだが……」


 肝心の恋が見当たらないというわけだ。


 昼休みは直に終わるというのに何処へ行ったんだろうか?零聖は首を捻った。

 探しに行くことも出来ないので取り敢えずいつ恋が来ても捕まえれるように扉を自分の席から見張っていることにした。ちなみに一姫も協力してくれた。嵐は気絶したままだ。

 しかし、恋が戻ってくることはなく、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

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