6話 プレゼント
「これは次の大会頑張るしかないな!かっこいいところを見せてバシッと告白しようぜ!」
夢いっぱいのテーマパークには少し似つかわしく無い会話が飛び交っている。
先日の一件をコータローたちに話すと、ジェットコースターの2時間待ちの長蛇の列も苦にならないほど話が弾んだ。
「まあでも、捉えようによっちゃ、お前が下手なところを見せたら土俵にすら上がらせてもらえないってことだよな」
敬太の一言で浮かれていた僕の心に一筋の亀裂が入った。
確かに、僕は彼女の前で一度足りともいいところを見せた記憶がない。あの時の運動会からずっと。
「けど、まあ大会まであと3週間もあるし、練習すればなんとかなるだろ」
運動神経抜群のコータローらしい発想だ。
確かに彼ならなんとかなるであろう。
しかし、僕は運動神経が特別良いわけでもなければ、強運を持っているわけでもない。
とてもじゃないがあとたったの3週間でそこまで上達するとは思えない。
ただ、今の僕には大切なお守りがある。
彼女からもらったグローブだ。
これがあれば、前回の練習試合の一球は確実に取れていた。
そうやすやすと同じような場面がこないことは分かってはいたが、そんな場面が来て、かっこよくキャッチする、そんな妄想を昨日から何十回も繰り返していた。
そんな他愛もない会話をしているうちに、あんなに長かった列は小さなボックスと共に悲鳴をあげながら消えていき、いよいよ僕らの順番が訪れていた。
気の知れた仲間たちと過ごす時間はあっという間だ。
次は彼女と恋人同士として、一緒にこの場所にきたいな、隣で楽しそうに悲鳴をあげている親友に少し申し訳ないとは思いながらも、僕の頭は彼女でいっぱいだった。
ポップコーンの香り、楽しそうに踊る着ぐるみたち、この景色を彼女と一緒に見たい。
彼女と僕の思い出の1ページとして残したい。
もし、告白が成功したとして、恐らく次に彼女とここにこられるのは、半年以上先のことだろう。
だけど、今からそれが待ち遠しくて仕方なかった。
ふとスマホの画面を見ると、彼女からのメッセージが届いていた。「混んでる?お土産げ忘れないでね!」彼女のことばかり考えていたのだから、お土産を忘れるわけがない。
親友たちに見つかったら冷やかされると思い、こっそりと返事を返し、僕らはお土産ショップへと向かった。
お土産ショップは思ったよりも混雑していた。
レジ前には、先ほどのジェットコースターほどではないが長蛇の列ができており、男3人でウロウロするのは少し難しいと判断した僕らは、集合時間を1時間後に設定し、各々の欲しいもののところへと向かった。
僕は真っ先に彼女から頼まれていたクッキーとチョコクランチをカゴに入れ、次にこれまた彼女から頼まれていたキーホルダーを探しに向かった。
それらしき売り場を訪れると、複数のカップルたちが足を止めて楽しそうにあーだこーだ言いながら買い物をしていた。
僕は、そのカップルの山をかき分けて、頼まれていたキーホルダーを手に取った。
ハートの半分の形のキーホルダーが二つ入っていて合わせるとハートが完成する。
彼氏が持つ方は男の子のキャラクターが描いてあり、彼女が持つ方は女の子のキャラクターが描かれている。
裏にはメッセージを書き込むスペースもある。
ここに二人だけの愛のメッセージでも書き込むわけか。
彼女はこれをなぜ僕に買ってきて欲しいと思ったのか、恋人として一緒に来た時に買いにくればいいのではないのか、そんなことを考えながらもその商品をカゴに入れ、僕はレジへと向かった。
レジは相変わらず大混雑で、遠くの方でコータローが並んでいるのが見えた。
時間にして20分ほど並んだのだろうか。
一人で待つ20分は親友と一緒だった2時間よりも長く感じた。
会計を済ませて、最後に敬太が待ち合わせ場所に戻って来たのはちょうど1時間後だった。
敬太は、2年ほど付き合っている彼女のために、僕と同じキーホルダーを買っていた。
やはり彼氏が一人で買いに行くパターンもあるのかと一人で腑に落ちていると、その商品が大人気で、これがラスト一個だったと敬太は興奮気味に言っていた。
危なかった、もしもう少し遅かったら彼女との約束を守れないところだった。
恐らく彼女はクッキーよりもこのキーホルダーがどうしても欲しかったのだろう。
安堵の表情を浮かべていると、彼女からメッセージが届いた。「お土産買ってくれた?気をつけて帰って来てね!」もう辺りはすっかり暗くなっており、テーマパーク内で花火が打ちあがった。
お読みいただきありがとうございます。
今回から簡単な次回予告を書いていこうと思います。
次回…
淳平はお土産を渡しに美咲の元へ。
美咲は何故キーホルダーを欲しがったのか…
次回もよろしくお願いします。