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4話 タイムカプセルには何を埋める?

 翌週のホームルームは、我が校開校50周年記念として、校庭にタイムカプセルを埋めるというイベントの話で盛り上がった。


何やら掘り起こすのは10年後で、その時には学校側からお知らせの手紙が届くらしい。


といっても、この話は前々から噂になっていて、今回はその正式な発表となったのである。


  ミーハーな彼女がこの話題に食いつかないはずがなかった。


昼休みに、彼女は親友の上村晴子と何やらコソコソ話をしていたと思いきや、弁当を食べている僕の元にやってきた。


「ねえ、淳平は何埋めるか決めた?」


これだけ話題になっていたら、彼女からこの質問を投げかけられるのは分かっていた。


が、僕はまだ何を埋めようか決めかねていた。


そんな僕の気持ちを察してなのか、横から助け舟が飛んできた。


「そういうお前らは何にするか決めたのか?」


一緒に弁当を食べていたコータローは大きなおにぎりを頬張りながら、彼女らを問いただした。


「んー。まだ決めてないんだよね。あんま大きいものだとダメだし」


晴子が腕組みをして考え込んでいるアピールをした。


「なんだよ。で、柏木は決めているのか?」


コータローは今度は彼女に同じ質問を投げかけた。


「私はね」彼女は僕の方をちらっと見た。


「もう決めてるんだ。」


「え、何にするの?」


今度は晴子が問いただした。


「それはね…」今度は明らかに僕の方に目配せをした。


「秘密!10年後のお楽しみってことで!」そう言って、彼女は僕の元から離れていった。  


その時の彼女の表情は何かいたずらを思いついた少年のような表情をしていた。


僕には彼女が一体何を企んでいるのか全く見当がつかなかった。


ただ、何か妙なことを企んでいることだけはすぐに分かった。


彼女がああいう表情をするときには決まって何か企んでいるときである。


以前彼女が同じような表情をしたことがある。


 あれは僕らが小学校を卒業したばかりの春休みだった。


そんな表情をした彼女に、僕がどうしたのかと問うと、彼女は2人で旅行をしようと提案してきた。


小学校を卒業したばかりの子供達だけで旅行など、親に言ったらすぐに反対されるだろう。


僕が、親はどう説得するのか、お金はどうするのかなど、至極当然の質問をすると、彼女は、


「親にはもちろん秘密よ。1泊ぐらいならちょっと怒られるくらいで済むよ。あと、お金は大丈夫!お年玉が残ってるから」


彼女は1万円札をヒラヒラと見せびらかせてそう言った。


結局このイタズラは、彼女が家に旅行会社のパンフレットを堂々と置いていたことがきっかけで、バレてしまい中止となった。


だが、彼女は「高校を卒業したら親も文句を言わなだろうし一緒に行こうね。」と懲りる様子はなかった。


彼女が何を埋めることにしたのか。


そんなことばかり考えていたから、その日の午後の現代文の授業では太宰がどんな気持ちでこの文を書いたかなんて一切頭の中には入ってこなかった。


 6限目の授業が終わると、僕は急いで部活の練習着に着替え、グラウンドへと向かった。


僕の手元には、下ろしたてのグラブがある。彼女からプレゼントされたものだ。


僕は昨晩、今までお世話になったグラブをしっかりと磨いて引き出しにしまうと、彼女から渡された紙袋から新しいグラブを取り出し、カバンに入れた。


僕は正直に言うと、タイムカプセルに入れたいものはほぼ決まっている。


今まで使ってきたグラブだ。


スポーツを経験していた人ならこの気持ちはよくわかるだろう。


テニス部ならラケット、バスケ部ならシューズ、形はそれぞれ違うだろうが、高校時代の思い出がたっぷり詰まった、いわば相棒のようなものだ。


ただ、なぜ決めかねているのかと言うと、このグラブには彼女との思い出がなかったからだ。


僕の青春は常に彼女と一緒にある。そんな彼女との思い出が詰まったものを僕はタイムカプセルにしまいたいと思ったのだ。


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