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12話 2人の決意

 翌日、いつものファミレスに呼び出された僕は、昨晩の疲れが癒えぬままTシャツに短パンといったラフなスタイルで彼女の元を訪れた。


彼女はというと、まるで昨日のことが嘘のようにいつも通りの元気な姿で僕を迎えた。


これでは、この二人のどちらかがもう直ぐ死ぬという問題を出されたときに80%くらいの人は「僕」と答えるであろう。


「ねえねえ!昨日色々考えてみたんだけど!」


僕が席に着くなりメニューも見ずに彼女は話始めた。


「まずは落ち着いて、何を頼むか決めようよ」


僕がそう言うと、彼女は少し口を膨らませて怒っているアピールをしてきた。


「私には悠長に今日のお昼ご飯を悩んでいる暇はないの!今日だって枕元で残りの寿命をカウントされたんだからね!」


彼女はまるで開き直ったかのように、自らの死をネタにし始めた。


僕にはそれがなんとなく耐えられなかった。


「ねえ、そういう話はやめようよ。どうリアクションしていいかわからないし」


思った通りのことを彼女に伝えた。


彼女はやや不満そうな顔をして、僕から目をそらしメニューを見つめた。


「じゃあ、私はこの日替わりランチで!」


そう言うなり、彼女は店員を呼ぶコールボタンをなんのためらいもなく押した。


「ご注文は何になさいますか?」


すると、待ち構えていたかのように店員がやって来た。


今の僕の状況じゃなかったら、どれだけ優秀な店員なんだと思うだろう。


「この日替わりランチメニューで!あとドリンクバーもお願いします!」


彼女は僕のことなど御構い無しに勝手に注文を始めた。


「じゃあ、同じので」


「かしこまりました」


そう言うと、店員は一目散に去っていった。


もし、日本のファミレスが全て回転寿司のように無人接客になれば、こんなに焦る必要もないのに、僕はそんなことを一瞬だけ考えたあと、チラッと前に座る彼女に目をやった。彼女はなぜか笑っていた。


「できる男は女の子と一緒のものを注文するらしいね。なんでか分かる?同じ注文だと早く出来上がって直ぐ届くからなんだよ」


「別に僕はそういうことを意識したわけじゃなくて!」


「いいのいいの。君も私がいなくなる前に一人前の男にしてあげないとね」


彼女はそう言うと、嬉しそうにドリンクバーを取りに向かった。


 昨日、あのことを打ち明けてからどうも彼女の死に関するネタが多くて反応に困る。


そんなことを考えていると、彼女は二つのコップを持ってやって来た。


「はい。カルピスにしたよ。私と同じやつ!」


「ありがとう。けど、ドリンクバーは同じのじゃなくても時間は変わらないよね」


「これは、何を飲みたいか聞き忘れたから私と一緒のにしただけ。違うのを持って来てそっちがいいって言われたら私が困るからね」


彼女は、ピンク色のストローを使って、ジュースを飲み始めた。


手を使わずテーブルの上に置いたまま飲む姿はなんとも行儀が悪い。


だが、注意してもダメだとわかっていたので、何も言わずコップを手に取り、彼女が淹れてくれたジュースを直接口をつけ一気に飲み干した。


「でさでさ、考えたんだけどね!」


 次に口を開いたのはやはり彼女だった。


「小学校の林間学校の時に霧ヶ峰って山に行ったの覚えてる?」


「もちろん。そこにするの?」


「そうしようと思ってる!確かあの近くに親戚の別荘があるからそこに泊まる予定!」


「え?泊まりで行くの??」


「もちろん!一晩中夜空を眺めるんだから泊まらないと無理でしょ」


「確かにそうだけど。でもあそこまでどうやって行くの?僕免許持ってないよ?」


「諏訪湖の方まで電車で行けばバスとか出てるでしょ!後で調べとくよ!」


 そう言うとほぼ同時に、注文していた日替わりランチが2名分やって来た。


確かに思っていたよりもずっと早く来た気がする。


今日のメニューは和風ハンバーグだったらしい。


彼女につられて注文した僕はメニューすら見ていなかったのだ。


「美味しそうだね!それに直ぐ来た!時間のない私にはぴったりだね!」


「時間がない割には余計なことに今まで時間を使いすぎてた気もしないでもないけどね」


あえて皮肉を込めた。


そうすることで今までどおりに彼女に接していく、そういう決意を示したかった。


 彼女は自分の死を受け入れている。


だから、こうやって軽々しく死をネタにできるのだ。


それは決して彼女がお調子者だからとか少し頭のネジが外れているからだとかそういうことではない。


彼女は彼女なりに自らの死が近づいているという事実を受け止め、それでも残された命を悔いなく生きて行こうと決心しているのだろう。


彼女はとても強い心を持った人だ。


もし、僕が同じ立場に立たされたとしたら.こんなに明るく生きていくことはできないだろう。


塞ぎ込んで引きこもるか、もしくは現実から逃避して生きていくか。


いや、そもそもロスタイムライフなど望まなかったかもしれない。


だが、彼女はその僕が思いつく、どの生き方とも違う。


自分の運命を受け止め、強く生きている。


自分の立たされた境遇を忘れぬよう、あえて自分から自分の死をネタにしているのかもしれない。


それなら僕がせめてできることは、その彼女の勇気を受け止めることだ。  


 そして僕は彼女の薄っぺらいような重たい事実を、いつも通り受け答えることに決めた。


僕らしく、彼女らしく。


お読みいただきありがとうございます。


次回


美咲の夢を叶えるための旅が始まります。

旅編前編です。

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