第六話 依頼の後始末
第六話 依頼の後始末
往来の人通りは昼間より若干少なくなってはいたが、まだまだ日は沈んでいないとばかりに賑わっていた。
その中を縫うように歩き、リノアの手を引きながら目星をつけていた店を渡り歩く。
「ふーむ……どこもそれなりに混んでるな、まあ時間帯が丁度夕食時なのもあるか……」
「クロード? 戻ってきていたのか?」
道端で考え込んでいると不意に往来の向こう側から声が聞こえ、銀髪の人間の男性が歩いてくるのが見えた。
「っ、ルーエン!」
「全く、依頼が終わったならきちんとギルドに戻って報告するようにと忠言したはずだぞ。 ん……?」
クロードに苦言を呈しながら、ルーエンと呼ばれた男性はリノアを見て、言葉を飲み込んだ。
「クロード、この子は? 君は見ず知らずの子供を連れ歩くような趣味はないと思っていたが……」
「ああもう、悪かったって。 それと、この子は見ず知らずじゃない。 ちゃんとリノアって名前もあるし、経緯が必要ならちゃんと話すよ。 ついでにギルドに顔も出す。 それでいいか?」
ルーエンの説教節にやれやれという顔をしてクロードが返事をすると、ルーエンはそれでいい、と頷き二人の前を歩き始めた。
「リノア、悪い、少し時間をもらうな。 話の内容が仕事関係だからギルドの建物の入り口あたりで待っててくれるか?」
「……うん、わかった」
人通りから少し外れた道にある傭兵派遣のギルドに入って、リノアと分かれたクロードはカウンターでルーエンと今回の依頼について話し始めた。
「……というわけなんだが……」
依頼を請け負い、その途中でリノアを荷車から発見して依頼を一方的に破棄して皇都まで戻ってきた経緯を手短に話す。
「ふむ、まぁそれは災難だったとしか言いようがないが、依頼不履行はこのギルドの評判にも関わることは理解……しているな? 図らずとも人身売買に加担しかけた、というのはとても同情に値する事実だが、それとこれとはまた別だという事も判るだろう」
ルーエンの言葉にうぐっとクロードも口籠る。
自分の起こした行動が如何に不利益を生む行為だったということは理解していたつもりだったが、普段から親しげに話していたギルドの受付人兼依頼仲介人の言葉の端々に若干棘がある事には些か後悔という念を植え付けられずにはいられなかった。
「まぁ、何も私とて君に悪のレッテルを貼ろうという訳じゃあない。 ならばどうするか。 まぁ察しはついているとは思うが……」
「日照り、か?」
ため息を吐きながら口にしたクロードの言葉を、ルーエンは端的に頷く事で肯定した。
「しばらくの間、君にはこちらから大きな依頼を渡せない、それだけは理解してくれ。 他の傭兵達への名目もある。 君だけを甘やかすことはギルド自体の規制が緩くなるのと同意義だからね」
了解した、と肩を落としながら返事をした彼に、そっとルーエンは耳打ちした。
「何も仕事が全く渡せないというわけではないから、そう気を落とすなよ。 宿に借りている部屋の借り賃くらいの仕事は水面下で渡せる。 まぁ選り好みは出来ないことだけは覚悟してくれ、としか言いようがないが……」
「それだけでも充分助かるよ。 ルーエン、恩に着る」
ぽんぽん、とクロードの肩を軽く叩き、まぁ頑張りなと目配せしてくれたルーエンに軽く頭を下げて、クロードはカウンターから離れてリノアの元へ向かった。
「遅くなった、要件は終わったからとりあえず飯にするか」
ふわり、と薄桃の髪が風に揺れ、振り向いたリノアがクロードを見て少し嬉しそうな顔をする。
けれど、ふとクロードも『それ』に気付かずにはいられなかった。
通行人、一般人や商人、職人や傭兵など往来にはまだ様々な人間が行き来していたが、その殆どが一瞬リノアに視線を寄越している。
いや、正確には『魅せられている』というのが近いのだろう。
長く柔らかな薄桃の髪と透き通るような蒼の瞳、整った顔立ちに華奢な体付きのリノアは十二分に人目を惹きつける要素を持ち合わせ過ぎていた。
被験体、というリノアの言葉からは未だ想像することしか出来ないが、記憶を失う前に何処かから攫われたというのはあながち間違っていない気がした。