第十四話 目紛しい戦局の中で
第十四話 目紛しい戦局の中で
ギルドハウスに三人が戻ると、途端に中は騒がしくなった。
意識が違うといえど、少し前に都民たちを襲ったリノアの姿は変わらない。
警戒する者、中には武器を構える者も存在した。
しかし、ルーエンはその張り詰めた空気に対し、よく通る声ではっきりと告げた。
「ギルドマネージャーの立場で言わせてもらう、今のこの子は人々を襲った暴走状態ではない。それに加えて精霊の魔力核とも言えるものを現在は奪われている。我々に危害を加える力は残っていない。だから、聞いてくれ。今のこの子は脅威ではない、今我々が警戒すべきものは……」
「その核を奪った者、ということか?」
人混みの奥からギルドマスターのグウラが姿を見せる。
「……はい、仰る通りです。件の人物は現在逃走中、何を企てているかがまだわかりません」
「精霊核……か」
顎に手を当て、考える様子を見せるグウラ。
「人間の手に余る代物ではあるな。仮に手中に収めたとしてもまともにその力を利用することはできまい。いや、しかし……」
「マスターグウラ、何か心あたりが?」
「…うむ、数日前ラズラワズリが例の研究施設に拐われた時にルーエン、其方が提出した調査報告に生命魔術に関する記述があったのは覚えているか?」
質問に対して頷くと、ルーエンはすぐに受付台の奥から自身の調査報告書を取り出して近くの机に拡げた。
「件の魔術師がラズラワズリに対して行使していた魔術の痕跡ですね。生物のマナに直接干渉し、対象の生命エネルギーを操る……っ」
そこまで言いかけてルーエンの顔色が変わった。
その理由にクロードも気付いた。
「件の魔術師もその力を得た、と考えるのが妥当であろうな。その目的が何であれ奪われた力は生半可なものではない。穏便に事が運ぶはずもあるまい、奴は必ず仕掛けてくる」
そこでだ、とグウラは言葉を切った。
「この事態に対抗する手段としてクロード、そしてラズラワズリ、其方ら二人の協力は不可欠だと私は考える。暴走していたラズラワズリとの戦いは私も遠視で確認していたが、恐らく其方ら二人には精霊核を得た魔術師の魔術に対抗できる力が備わっていると踏んでいる。理由は、わかるな?」
マスターグウラが言っている事はクロードもなんとなくだが理解していた。
「精霊核がラズラワズリの純粋な魔力核だとしたら、その魔力に抵抗力のないもの、例えるなら魂を抜き取られた一般人たちのように此処にいる屈強なギルドメンバーたちも魂を奪われかねない、そういう意味ですね?」
「そうならないように事を運ぶつもりだが、万が一ということも有り得る」
ふいに慌てた様子のルーエンが会話に割り込むような形でグウラに報告する。
「報告!ファーラーン中枢部、現在警報を受けて多数の都民が避難している寄宿舎にて強大な魔力反応を確認しました!このタイミングで人命が多数集まっている場所に現れたということは……!」
「その魔術師で間違いないだろう。ルーエン、魔術部隊の指揮は任せる。対魔力の少ない戦士職はクロードとラズラワズリに続き、各員これを援護せよ。呉々も件の魔術師には近付きすぎるな。私は人命の保護を優先して動く、各員心してかかれ」
その言葉を最後にギルド内の戦闘要員は魔術部隊はルーエンの元に、物理部隊はクロードの元に集まってきた。
緊張した面持ちは皆変わらなかったが、ギルドマスターからの指令を無碍に逃げ出す輩はいなく、またそれを蔑ろに単独で突っ込もうとする者もいなかった。
その様子を見て、リノアはふいに頭を下げた。
「巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。仮約束のようで不本意ですが、力が戻ったらもう二度と人間に捕まらないよう然るべき手段をとります。だから、今だけは……皆さんの力を貸してください」
暴走した精霊、ラズラワズリという名前で呼ばれ、辺りに警戒心が沸き立っていた中でリノアは真摯に謝罪の言葉を述べた。
それを素直に受け止める者だけではなかったとしても、その言葉はギルドの戦闘員たちの警戒心を少しだけ解した。
「皆、宜しく頼む。行くぞ!」
クロードの掛け声にギルドメンバーたちの鬨の声が響く。
終焉の火蓋は此処に、戦士の残響と共に精霊は覚悟を決める。




