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いつか綻ぶ幻想花  作者: 羽乃雪文
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第十二話 クロードの決心

第十二話 クロードの決心


 たどり着いた先は表立って騒々しくはなかったが、どことなく物々しい空気が漂っており、その雰囲気は戦前の兵士たちを感じさせた。

 ギルドの奥にいたルーエンがクロードの姿を確認し、手招きする。

 それに応じてクロードはルーエンが先導した先の作戦会議室に入った。


「ルーエン、先程噴水広場で起こった騒動の元凶は古代樹ラズラワズリの仕業で合っているか?」


 ファーラーンのギルドマスターであるグウラ、隻眼の老師はルーエンにその旨を問うた。

 それに対し、ルーエンは静かに頷き、言葉を返す。


「はい、けれど正確に言えばアレは伝承に残っているラズラワズリではありません。先日報告した研究施設の生き残りと思われる魔術師による何らかの魔術によってその在り方が歪められていると推測されます」

「ふむ……何にせよこのまま放置するわけにもいくまい。クロード、何か語るべきことはあるか?あれをファーラーンに連れてきたのは其方だろう?」

「……今のリノアが、古代樹ラズラワズリが人に危害を及ぼすことは十分に理解しているつもりです。故に、マスターグウラ、リノアを殺すつもりだと言うのなら、その役は俺に」


 その言葉を聞いてルーエンが思わず息を飲んでクロードを見つめる。


「リノアを助けたのは俺です。あの子に昔の俺の影を重ねた、それ以上にこの短い期間であの子の存在は俺にとってかけがえのないものになった。だから」

「クロード、其方の言い分は理解できる。だが、それ故に杞憂するのだ。アレを殺す機会を万に一つも逃すわけにはいくまい。其方、本当に決心はついているのか?」


 その杞憂はもっともなものであり、けれどクロードは視線を逸らすことなく頷いた。


「俺が、殺します」


 ふむ、と顎をひと撫でして、グウラは頷きクロードにあるものを手渡した。


「これは……」

「魔狩りの短剣、傷を負わせたものの魔力を大気中に霧散させる働きのある鉱石で造られた特殊な武器だ。古代樹ラズラワズリ、伝承の中の幻の存在と言われたもの。実在していたというならば本来ならばそれを殺すことはとても惜しい。だが古い伝承に残るということは何かしらその情報を残す必要があった、ということだ。人間にとって有益であれ、有害であれ、な。仕留め損ねるなよ」


 ルーエンはリノアのことを精霊の一種と言っていた。

 意思を持った魔力の塊、その中でもかなりの力を持ったものが精霊と呼ばれている。

 ギルドマスターがこの短剣で殺せと言っているのは即ち、傷を負わせることで精霊の魔力を根こそぎ大気中に放つ効果を利用して無力化するためだろう。

 短剣を握りしめ、クロードは小さく呟いた。


「……必ず」

「ルーエン、お前はクロードの補佐に回れ。迅速に古代樹の居場所を割り出し、動きを封じろ。クロード、お前はその隙を絶対に逃すな。人数を集めればそれは奴の奪える魂を増やすことに繋がる。できるだけ少人数で速やかに仕留めることを今回の任務とする、以上だ」


 クロードがルーエンの方を確認すると、ルーエンは頷き作戦会議室から出て近くの広めのテーブルを借りると、腰に下げていた鞄の中からこの前より大きめの地図を取り出して拡げた。


「アレは空を移動する術を持っていた。地上だけを網羅する地図じゃあ限界がある」


 手際良く空中に魔術式を複数展開しながらルーエンは縮小した皇都の地図にある魔術を施した。

 ルーエンの展開していた魔術式から地図に魔力が注がれ、徐々に平面だった地図を立体化させていく。


「これは私の記憶も利用した魔術だ、地図に記した情報に私の記憶を重ね合わせて空間を立体成型している。次はこれに……」


 立方体になった地図に己のペンデュラムを垂らすルーエン。

 するとペンデュラムの先の宝石から一際明るい青の光が立体地図全体に響くように届いた。


「クロード、君がこちらに来るまでにマスターグウラには都民たちに身の安全を確保するため、速やかに自分たちの家や近くで匿ってもらえるような場所への移動を勧告してもらった。ギルドマスターの勧告はこの都において緊急の警報と同等のもの、よほどの命知らずでなければ今外に出ている人間はいないはずだ」


 つまり、とルーエンが言葉を続ける。


「今この立体地図に唯一現れている翠の強力な魔力反応、これが古代樹だ。居場所は……時刻を知らせる鐘の塔の天辺、か。よし、向かうぞ」

「ルーエンはどうするつもりだ?戦いは本職じゃあないんだろう?」

「補佐とはいえ自分の身ぐらいは守れるさ。心配するな」


 それより、とルーエンは声音を落としてクロードに耳打ちした。


「……本当にあれを殺す覚悟はあるのか?」


 手にした短剣の重み、それを確かめてクロードは頷いた。


「リノアがあの状態で人を襲い続けるのなら、俺はそれを止めなきゃならない、それがリノアを助けた俺の責任だ。止めるということが殺すということなら、やるしかないんだ」


 そうか、とため息をついてルーエンは立体地図に注ぐ魔力を止め、地図を畳んで荷物を纏めた。


「行こう、ルーエン。リノアを、止めないと」


 足早にギルドハウスを出た二人は特に会話もないままひたすら鐘衝きの塔向けて走った。

 クロードの表情は強張って固いまま、ルーエンは時折それを視認しては目を逸らして何かを考えることを繰り返していた。

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