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イヴァンカ・トランプの服を着た彼女

作者: 時枝 雅

訪ねた料理屋を、その時々のシチュエーションでドラマ仕立てにしております

夏の盛り、イヴァンカ・トランプの真っ青なワンピースに身を包んだピアニストの彼女と待ち合わせに選んだのは銀座・交詢ビル、バーニーズ・ニューヨークだ。


170cmを超える背丈に青一色を纏った彼女は、ここ銀座界隈にあっても一際映える。服の色だけがそうしているわけでもなさそうだ。舞台でスポットライトを集めているオーラというやつなのだろう。


そんな彼女とわたしの接点は10年前に遡る。

とはいえその接点とやらも、TVの中の彼女と茶の間のボクで、彼女はTVパネルの向こう側でピアノを弾いていた。

儚げな音色に、不意音を強くしようと力強く打鍵するその姿が後々記憶に残ることになる。


そんな彼女と急接近したのは、ボクが体を壊してカイシャを休職をしていたときだ。

真夏の太陽が照らす真昼間の、やはりその時も銀座でボクたちはよく冷えたアイスコーヒーを啜っていた。

その時ボクはTVでしか見たことのない彼女を前に幾分緊張しながら上ずった声で、とにかく間を持たせようとどうでもいいことを喋り続けていたように思う。

何せメディアに登場した彼女だ、存在感もある、そしてテーブルには2台のスマホ。

「仕事用とプライベート用なんだ」と言ってのけるそれにボクは得体の知れない畏怖とも羨望とも分からぬ感情が綯い交ぜになって、やっぱり彼女は只者じゃないぁと心中ざわついていた。


どれだけ喋り続けても明かりの色を変えない夏の日に「こんなに日差しが照りつけているとボクは本領を発揮出来ないんだ。今度は夜に会いたい」と、その辺の女子高生が聞いたら『キモッ』と一瞥されるようなことを言って別れたのを覚えている。

しかしそこは大人な彼女、ほくそ笑んで了解してくれた。

それから幾月日巡って、取っておきの夜の蓋を開けることになったのだ。


目的は、東京思い出づくり。

ボクが不意に東京を去なければならなくなったのだ。


今宵思い出づくりに選んだお店は、銀座の歓楽処7丁目、8丁目エリア。


・てんぷらまさ

 http://tenpura-masa.net/


・GINZA S

 https://tabelog.com/tokyo/A1301/A130101/13020503/


ちょっとほの字の気持ちを抱いている女性と訪ねるには申し分無いお店じゃないか。


てんぷら真、白木造りの店内とそれを照らす光量はまるで歌舞伎舞台のようで神々しさがある。

そしてGINZA S。一転、漆喰の闇に包まれるが目が慣れてくると、非常にユニークな酒瓶がバックステージに並んでいるのが見えてくる。あまりお酒は強くないという彼女でさえ、目をくりくりさせて興味津々だ。


まぁそんなわけで(時間の中身、話題の内容はともかく)ボクなりの本領発揮を示し得れたと思うわけで、今宵はこれでお開き。


GINZA Sの扉を開けて通りに出ると、そこは並木通りだ。

そこでタクシーを拾って、住吉方面に住んでいるという彼女を自宅近くまで送り届けた。

タクシーの中で彼女は、家に着いたらまもなく迎えるライブの音源仕上げの続きをやるんだと言っていた。ボクにはそれがどういう作業なのか、いまいちイメージが出来なかったので「大変だね」ぐらいの相槌しか打てなかった。


それでこの記事は、彼女を降ろした後のタクシーの中でスマホに入力し続けている。

時折顔を起こして窓外に目を向けると、ウルトラマンと戦った怪獣ゼットンのような灯りを放つ押上のスカイツリー、それから隅田川川面に映る街灯り。やがてタクシーは晴海通りに入り、一際眩い白い灯で照らされる歌舞伎座が目に飛び込んでくる。


スマホを打つ指は完全に止まっていた。

こうして東京の光を目に当てていると、なんとも言えないザワザワした感じになる。

土着的な、どれだけ歳月を費やして東京のアスファルトを踏みしめても垢抜けない核心部分が、嫉妬とも羨望とも取れぬ想いを綯い交ぜにして混乱させるのだろう。


東京を去らなくてはいけなくなってしまったこと、本当に悔しい。

でも今夜言わなきゃ。


サヨナラ東京、


イヴァンカ・ブルー。

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