寝取られた女の未練は止まらない
私は、ザインが味わった苦しみを何もわかっていませんでした。
酷い事をしてしまったのだと自覚しておきながら、彼に会えばきっと元に戻れるなどと考えていたんです。
どうしてあの男に身体を許してしまったのか、今でもわかりません。
ふしだらな女と言われても仕方ありません。けれどそれでも、私の気持ちは今でもザイン一筋だという事を伝えたかった。
彼に謝って、あの男ではなく愛しているのはあなただと言いたかった……。
信じて、欲しかった。
だけど、実際は裏切った私の謝罪なんて彼は望んでいませんでした。
考えてみれば当たり前ですよね。
他の男性との情事を見せ付け、彼を散々罵倒した女の言葉なんか心に響くはずがなかったんです。
ごめんなさい……。
本当にごめんなさい。
あなたの心を傷つけて、ごめんなさい。
あなたの信頼を裏切って、ごめんなさい。
なんであんなことしてしまったの?
ホント、信じられないよね……狂っていたとしか思えないよね。
あの時は妙な感覚だったんです。
夫以外の男性との行為なんて嫌なはずなのに、まるで最愛の人に抱かれているような安心感と強烈な快楽を感じてしまって。
ザインが目の前にいるって頭では分かっていたはずなのに、止まれませんでした。
声を我慢するという事すら忘れて、はしたない声を何度も何度も上げて。
その度に、どれだけ彼の心が傷ついたのかも考えずに……私は。
***
彼に追い返され、宿を出ると外は雨が降り始めていました。
ザインから別れると言われ、放心状態となった私は傘を差すことすら忘れてそのまま雨に打たれながら街を歩きました。
ある意味、離婚というのは当然の選択なのかも知れません。
だけど私は、あえてその未来を考えませんでした。
……ううん、考えたくなかった。
酒場で私が絡まれていた所を助けてくれた時から、彼の事が好きになっていました。
人生で、初めて好きになった男性だったんです。
助けられたことを切欠にザインと話していく内に、その想いは益々強いものとなりました。
思いやりがあって、一緒に居ると温かな気持ちにさせてくれる。
だからあの日、勇気を出してザインに告白したんです。
この人と生涯を共にしたいと思ったから。
彼の妻として、添い遂げたいと心から願いました。
そんな私の想いに、彼は応えてくれたのに……っ。
幸せにするよって……抱き締めてくれたのに。
私はそんなザインを裏切って、浮気してしまったんです。
ザインが私を見る目は、今まで見たことがないほど冷たいものでした。
今まで積み重ねてきた愛情や信頼を踏みにじってしまった償いを、どうやってすればいいのか……どうしたらもう一度、彼と共に歩めるのか……いくら考えても答えは出ません。
白々しいと言われるかもしれませんが、ザインの事を今でも愛しています。
彼以外の男性なんて、ありえません。
勇気を出して告白して、ようやく大好きな人と結婚できたのに、何でこんな事になってしまうの? 何で……こんな、ことに。
「うっ、うぅ……やだ、ザインと別れるなんて、やだよぉ」
彼の言葉を思い出すと、また涙が出てきます。
雨と一緒にいつまでも止まらず、私は泣き続けました。
……今はまだ、私はザインの妻という立場ですが、もしも離婚となってしまった場合、彼との絆は完全に断たれてしまいます。
あの充実した日々も、彼の優しい温もりも、幸せな未来も全て、消えてしまう。
そんなの、絶対に嫌です……‼
彼と別れるのも嫌ですが、なによりも……別れた事によって彼が私以外の女性と結ばれてしまう可能性もあるんです。
ザインが他の女性と結ばれるなんて、考えただけで身体の震えが止まりませんでした。
とにかく、もう一度ちゃんとザインと話したい。
そして傷つけてしまった彼の心と身体を、癒してあげたい。
あんな酷い事をして、今更かも知れないけれど。
お願いします……許してください。
もう一度だけ、チャンスをください。
浮気なんて二度としません。あなただけをずっと愛しています。
だから。
私を、捨てないで下さい。