終わらない悪夢はまだ続く
次の日になると、私は寝室で1人あられもない姿で寝ていました。
しばらく寝ぼけていましたが、霞が掛かったような思考が段々と晴れていく感覚と同時に、昨日やってしまった事を思い出します。
そうだ、ザインにミゲルとの行為を見られた事に気付き、逆切れした私は。
――なにって、あなたとの結婚生活なんてくだらないことが分かったんです。
――ほら、見て下さい! ミゲルさんに抱かれている今が一番幸せなんですよ?
「うぷっ! うぇぇっ……」
あんな酷い暴言を、愛する人に言ってしまうなんて。
自分のやってしまったことに堪えられなくなった私は胃の中身を全てゴミ箱に吐き出しました。
しかし、気分はまるでスッキリしません。
悪夢かなにかであると、誰かに言って欲しい気分でした。
何故、あんな心にもないことを言ってしまったの。
いえ、それ以前に……愛するザインがいるにもかかわらず。
私は彼ではない他の男に身体を委ねて、そして――
「う、うそよ……そんな、私……なんてことを」
全身が震えます。
自分のしてしまった事を理解した瞬間、顔から血の気が引きました。
取り返しの付かない事を、私はしてしまったのです。
愛する人を傷つけるような事は絶対にしないと誓っていたはずなのに。
よりにもよって、最愛の人の前でそれをしてしまったのです。
***
気が狂いそうになりながらも、もしかしたらザインがまだ家に居てくれているかもしれないと思った私がリビングの方へと行くと――部屋は荒らされ、将来授かる赤ちゃんのために2人で貯めていた貯金が全てなくなっていました。
テーブルには手紙が置いてあり、そこには『ミゲルより』という文字がありました。
恐る恐る手紙を開くと。
【はよっす、昨日は料理を頂いた上にただで使わせてもらってありがとねエマさん。あと僕今お金なくて困ってるって言ったら、エマさんが赤ちゃんのために貯めていたお金だけど使ってくださいってわざわざ僕にくれたから貰っておくね? 後になって覚えてないとか言われても困るからさ、それだけ伝えたかったんだ~。あ! あと旦那さん昨日凄い怒ってたみたいだけど仲直りできると良いね♪ あんな事言っちゃったからもう無理かもしれないけど(笑)それじゃ、さよなら】
私は手紙を破り捨て、そのままテーブルに叩きつけました。
未来のために蓄えていたお金も、幸せだった日々も、全てめちゃくちゃにしてあの男は既に消えていたのです。
すぐにザインを探そうと思ったけれど、あの男の汚らしい臭いに染まった自分の身体に気付き、シャワーを浴びてから家を出ることにしました。
シャワーを浴びている最中に気付いたのですが……最悪な事に、あの男は避妊の類を一切行わずに私を抱いていたのです。
余りのおぞましさに、泣きたくなりました。
あの男の事だけではありません。
そんな危険な行為をしているにも関わらず、嬉々として受け入れていた自分が一番汚らしかった。ザインに会ったとしても、こんな私が何を言えば良いというのでしょうか? 何を言えると、いうのでしょうか。
彼を探さなければと思う自分と、あんな最低な裏切りをした癖にどの面下げて彼に会おうと思っているのかと考える自分がいました。
だけど、彼を失うなんて絶対に嫌です。
私が愛してるのは彼だけなんだと、それだけは伝えたい。
ザインを愛してる……心からそう思ってるのに……なんで私は。
彼を裏切って、浮気なんてしてしまったのでしょうか……。