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幸せだったあの日が崩れ去るまで

 私には愛する人がいました。

 ザインと出会ったのは数年前です。私が街の酒場で働いていた時、酔った人から絡まれていたところを助けてくれました。


 それから、度々酒場に来る彼と私はお話をするようになりました。

 一緒に過ごす回数を重ねていく度にザインの優しく素敵な一面が分かり、彼を好きだという気持ちが強く湧き上がります。


 そして出会ってから2年ほどたったある日、私は彼に告白しました。

 ザインはそれを笑顔で受け入れてくれて、想いが伝わった嬉しさの余り泣いて抱き付いてしまったのを覚えています。


 付き合ってからは、街の色んな場所でデートを重ねました。

 1人で行ったらつまらない様な場所でも、彼と一緒だと不思議と楽しくなるんです。ザインはいつも私を気遣ってくれて、そんな彼に甘えて過ごすのが心地よかった。


 初めてのキスは私の方からしました。

 とても大事にしてくれているのは分かりましたけど、奥手なザインに任せていたら何時になったら先に進めるのか心配でしたからね。なにより、心だけじゃなくて身体の方も私は早く彼と結ばれたかったんです。


 最初は照れた様子の彼でしたが、沢山している内に吹っ切れたのか、あちらからしてくれる事も多くなりました。愛情の籠った情熱的なキスを何度もしていれば、当然お互いもっと先に進みたくなります。


 私達が、身体を重ね合うのも時間の問題でした。

 愛し合った後に、彼は「俺と結婚してくれないか?」と微笑むように告げてきました。それを聞いて嬉しくなった私は身体をぎゅっと押し付けながら、「はい」と一言だけ返しました。


 ここからは、待ち望んでいた幸せな結婚生活の始まりです。

 今まで貯めていたお金を出し合って、私達は家を買いました。


 2人の愛の巣が出来ましたね、だとか……あの時の私は、浮かれた様子でそんな事を言っていたと思います。


 新しい仕事をザインが見つけ、私は専業主婦となりました。

 疲れて帰って来る彼を笑顔で出迎え、愛情を込めた料理を食べてもらい、夜は愛し合う。とても幸せな日々でした。





 けれど、そんな幸せもあっという間に崩れ去ります。


 それは、ある豪雨の日でした。

 外が激しいどしゃぶりとなり、ザインの事を心配していた時……玄関の扉を叩く音が聞えたんです。もしかして彼が早く帰ってきたのかなと急いで扉を開けると、そこに居たのは知らない男性の方でした。


「突然申し訳ありません。ちょっとの間だけでいいので、雨宿りさせてもらえませんか? 宿屋に行こうとしたのですが、雨足が強くて。このままだと風邪引いちゃいそうです」


 よく見れば、その男性は全身ずぶ濡れのようでした。

 しかし、どこの誰かもわからない男性を家に上げるなんて流石に出来るはずがありません。だから断ろうとしたんです。


 なのに、いつの間にか私は男性を家に上げていました。


「いやー助かりました。迷いもなく聞き入れてくれるなんて、とても優しい人ですね。良かったら、名前を教えてくれませんか?」

「……エマといいます」

「エマさん、ありがとね。あっ、ついでで悪いんだけど何か食べ物とかあるかな? お腹減っちゃってさ」

「はい、すぐにご用意します」

「うひひ、マジで優しい人で助かっちゃうなー」


 心ではすぐに追い出さなければいけないと思っているのに、何故か私は彼の言葉に逆らう事が出来ませんでした。言われるまま自分の名前を答え、料理を作り、その人に出しました。


「うわ、ちょーうめぇ! この家大当たりだな。ん? あの写真って……もしかしてエマさんって結婚してんの?」

「はい、結婚しています」

「ふーん……まあ、そんな可愛いなら当然だよね。旦那さんの名前はなんて言うの?」

「夫の名前はザインと言います」

「仲良さそうで、いいねぇ……あっ、おかわりもらえる?」

「はい、今ご用意します」


 彼と私の写った写真を見ながら、男はニヤニヤしながら料理を平らげました。

 食べ終わった彼は、まるで自分の家にいるような動作でテーブルに脚を乗せると手招きして私を呼び寄せます。


「げっぷ! ふぅ、食った食った、エマさん料理上手だね。こんなに美味いものは久しぶりだったよ」

「ありがとうございます」

「それでさ、なんだか食欲を満たしたら……ムラムラして来ちゃった」

「そう、なんですか?」

「これってつまり、僕の食欲を満たしちゃったエマさんの責任でしょ? だったら、それを解消する義務があるよね?」

「あの……仰っている意味が、わかりません」


 そう言うと、彼の手が私の身体に触れました。

 知らない男性から身体を撫でまわされていると思うだけで、嫌悪感が身体中を駆け巡ります。それなのに、逆らう事が出来ません。

 しばらく私の身体を撫でまわしていた彼が、ふと立ち上がると耳元に顔を近づけこう言いました。


「だからさ、僕と愛し合おうよ?」

「い、嫌ですっ……ザイン以外の男性とは、そう言う事、したくありません」


 嫌悪感が限界に来たからなのでしょうか、理由は不明ですが多少の自由を取り戻した私は振り絞る様に否定の言葉を発しました。

 愛する夫以外の人と身体を重ねるなんて……絶対に嫌だったから。


「あれ、効きが甘かったのかな? それとも愛の力って奴? すごいね」

「ザイン……たす、けて」

「でも無駄だよ。絶対逃がさないからさ」

「もうやだ、やめて……」

「ひひひ、一杯愛し合おうねエマさん」


 逃げようとしましたが、身体が動きません。何かされるのだと思い、必死に目を閉じましたが無駄でした。再び逆らえなくなってしまった私はそのまま男と夫婦の寝室まで行き。


 そして。


 ザインのことを裏切り、他の男と身体を重ねてしまったのです。

不定期です。

エタはしませんがお待たせするかも知れませんので、気が向いたら読んでくださいな!

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