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時間はすっ飛び

プロット表がどこかへ行ってしまったので

アドリブで書いてます。

 なんか国が対策を立てるのがばからしくなったのか、それとも経済をまわさないのが応えたのか、非日常を一階フロアに設定した異次元の二階建て住宅は規律を模範とする日常を内在したままカオスに歌舞いている。感染者数はうなぎのぼりだが誰のせいでもなく個人の責任として隣組よろしく市井の人々を監視し始めた。


 底なし沼けんじは正月の角兵衛獅子気取りか毎日うちにやってくるようになった。彼氏かと色めき立つパパに、品定めをするママ。私はただの押しかけ人に気を紛らわせている。


「一人コント 閻魔大王と レンタル話し相手」

 奴のネタ見せが始まった。おそらくトレンドを意識した人物設定はネットを意識したというより、知っている外の世界がネットしかないのだろう。外出は禁止、夜の店も自粛じゃ仕事のないお笑い芸人は陰干しされるしかなく、SNS以外の世界を知らないのが見て取れた。


「君はこう言いたいのでしょう。悪行の報いと」

「なんかつまんない」

私の正直な突っ込みに、顔を曇らせるけんじ、ふにょふにょとした芝居が生暖かい空気のながれを遮って停止する。


「何なら良かった」

 どこをどういじったらいいのかわからないらしく、けんじは不満げな表情を浮かべているが怒りをほっぺたの下あたりにしまい込んでやさしく尋ねてくる。

「全部よくない」


 けんじのシャツから夏の匂いがほどけていった。冷たい汗が体表を走り去る。

「どうもありがとうございましっ」

投げやりな返事を残してネタ切れなお笑い芸人は、靴のつまさきを床に軽くぶつけて、すぐに床をこする音に変わって去っていく。


 けんじは知り合いが私しかいないのか、それとも好意があるのかは表情からは読み取れないけれど、一週間に三回ほど家を訪れてはネタを見せに来る。お笑い芸人もモニターライブに出れるのは少数なので芸の研鑽にはげんでいるのだろうけど、笑い声という反応が得られず勘が鈍っているようだ。でも私はゲラじゃないので、けんじはさぞかし不本意だろう。


 ナオミでも連れてくればよかったかな。彼女はゲラなのですごく受けると思う。とにかく笑う。教師がワイシャツを着ているだけで笑う。黒板が緑でも黄色でも笑う。そんな女だ。


 散歩に行く。目に見えないエネミーは運の悪いいけにえを狙って牙を研いでいる。そんなさなかに私は外へ出る。巣ごもりの生活は息が詰まりそうで、目に映る背景を見飽きた壁紙から瞳に心地よい木々の緑に変えたくなったから。しかし、その期待は一瞬で裏切られた。真夏にマスクは暑い。視界を覆っていた不満という心証が、外に出たら口元に集中してきた。鼻から下が感じる閉塞感という信条描写。肌にまとわりつく暑さや湿気が顔の一部に集中してくる。


 この終わりのないいやらしさはいつまで続くのだろう。そこにいる脅威をないことにして過ごそうとしても一枚の布が体の一部になっていつまでも不安をささやき続けるのだった。

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