第56話 世界とヒロイン。どっちを選ぶかはヒロインによると思うが、たいていのヒロインは可愛かったりするので結局迷うのが世の理
帰ってきて、そっち方面の誤解を解いたら、いつの間にか夜になっていた。
「もうこんな時間か。エリトリナ、そういえば晩御飯食べてないな、手伝ってくれ」
「いいよいいよ、パリスは疲れてるはずだし。そこでミカミさんと遊んでてよ」
どういう意味だ、それ。
エリトリナはパリスを置いて、台所に向かった。
毎回思うことだけど、パリスはなぜ晩飯を作らせてもらえないのだろうか?
パリスが手伝おうとする度に、エリトリナは拒否する。
「あ、ネウレアちゃん台所借りるね」
「待って、私もやる」
「ネウレアちゃんも、練習で今日は疲れてるでしょ。明日もあるんだし、しっかり休んで」
俺がいない間に、エリトリナ達は何かやってたようだ。
ろくなことの気がしない。
「ネウレア、俺がいない間に何をしてたんだ?」
「ミカミには秘密」
と、顔を背けた。
怪しい。特に、『ミカミには』の部分が。
ネウレアは口を割らないと思う――ので、ここはもう一人に吐かせよう。
「パリス、お前達三人は何を企んでいるんだ? 場合によってはお前をロリコンとして検挙することになるが」
「意味わからない事を言うな! ロリコンで検挙などされるかぁ!」
「自分がロリコンなのは認めるんだな」
「うぐぅ……そんか訳あるか!」
パリスがロリコンなのは確定として、俺にはやらないといけないことがある。
「ミカミ、どこに行くのだ?」
「俺の部屋だけど。パリスは散々いろいろ言ってきた癖に、俺がいなくなったら寂しいのか?」
「だから、ここはネウレアの家だからお前の部屋など無い! せめて借りていると言え!」
パリスの批判が終わる前に階段を登り、部屋に入る。
「やぁ」
そこには、アメスの主人である杖の青年が、ベッドに座っていた。
「『やぁ』じゃないですよ。それ、不法侵入ですって」
「悪いね、彼女達には見られたくないから」
主人従者、揃って不審者だ。片方は人形だが。
さてと、と青年はベッドから立ち上がる。
「それで、見つかった?」
「さっき帰ったばかりじゃないですか。それに、ネウレア達ともまともに話をしていないし」
「そんなこと言われても、実はもう、時間が無いからね」
時間が無い? つまりどういうことだ?
「ヤツがこの街にいる。氷刀の黒魔術師が」
青年は、さっきまでの温和な眼差しから一転、突き刺すような眼でキメる。
でもすみません。
その中二病みたいな名前、初耳です。
「あれ? 僕らが街で待っていたのをよそに、観光地で会ってたじゃないか」
観光地で会ったヤツと言えば。
そう、あの金髪である。
「あのイカレ金髪が、この街に来ているのか!?」
「あぁそうだとも。君との話が始まった時に、この街に来たようだ。あんな明らかにヤバい人なのに、城門の兵は何をしていたんだろうね」
それ、見張りが侵入者を見逃すという、物語のお約束です。
「ネウレアが契約したことにアイツが関わっている。とすると、ネウレアが世界を滅ぼす未来に、氷刀が関わっているかもしれないからね」
「そんなこと言われたって、どうすれば良いんですか。つい最近、アイツに殺られたばかりなのに」
「とりあえず、今はまだ戦ってはいけない。ネウレアは死なないけど、君たちはどうなるかわからない」
青年は、机の前にある椅子に座って続ける。
「もし誰かが死んだら、次は暴走。なんてことがあるかもしれない。これは、方法を見つけるまでの安全策さ」
「わかりました」
「じゃあ最後に、質問ある?」
青年は立ち上がって椅子を引き、窓を開ける。
「じゃあ一つ」
「何だい?」
「ネウレアが世界を滅ぼさないための方法。本当に、ありますか?」
この質問は、この人の言葉によるものだ。
街の郊外。あの神とやらから衝撃の事実とやらを聞かされ、消失させた。
そこ後にアメスのご主人が、小さい声でそっと言ったことだ。
「さあね。でも、一つだけ」
窓に足を掛けて、振り返った。
「ネウレアを救えるのは、キミだけだ」
◇
不法侵入したアメスのご主人を窓から見送り、晩飯を食べる。
そして、風呂に入りみんなが寝静まった夜中。
なんとなく寝られず、ずっと起きていた。
部屋の机にあるロウソクに、火を灯す。
そういえば、この部屋には本棚がある。
この世界の本は、討伐対象生物の図鑑以外、あまり読んだことが無い。
適当に手に取ると、その本には「僕らの家族見聞録」というタイトルが付けられている。
埃を被った分厚いそれは、誰かの日記であった。
最初のページは、楽しそうな家族の絵。
日本で言うところ、小学生あたりの歳の子が書いたのだろう、日記の絵はクレヨンで描かれている。
パラパラと捲っていくと、誕生日だったりこの世界のお祭りの様子だったり。
しかし、真ん中辺りだろうか。その日を境として、後のページ全てが空白になっている。
空白の前のページには、こうあった。
「明日から旅行。楽しみ」
俺は本を閉じ、本棚に日記を戻した。
次回もよろしく!




