第51話 俺を看てないのお前だけかよ
なんだよ、何かと思えば、それのことか。
「気にしなくて良い。無用心だった俺も悪いんだ」
「そんなこと言ったって……」
「覆水盆に返らずだ。次に生かすしかないさ」
「ミカミ……」
ネウレアが尊敬の眼差しを向ける。
まぁ我ながら、よくキマったセリフだとは思ったが。
「なんだ、ネウレアはずっといたのか」
パリス達が帰ってきた。
「エリトリナ、ミカミがさっきからおかしいの。きっと死にかけたからだと思うけど、頭を治してあげて」
同情の眼差しだったようだ。
「大丈夫だ、ネウレアは悪くない。悪いのは、ミカミの頭をおかしくした、例の金髪なのだからな」
頭がイカれた前提で話が進んでいる。
待て、俺は正常だ。
「モグモグ ミカミは大丈夫なの? モグモグ」
乗り場の屋台で売ってた揚げ物を食べながら言うな、腹立つ。
てか、コイツはずっと何かを食ってないか?
ブライバスが揚げ物を完食し、ゴミ箱へ捨てるために、馬車の乗降口にあるのれんを開けた。
ら、そこには同じくのれんを開けようとした、係員がいる。
「お客様が揃ったみたいなので、時間より早いですが、出発して大丈夫ですか?」
「あ、仲間がこれ捨てるので、帰ってきたら大丈夫です」
「了解で~す」
会釈をした係員が他の馬車に行き、ブライバスが出る。
……何だこのシーン。
◇
「出発しま~す!」
ブライバスが帰ってきて、数分後。
時間より少し早いが、馬車が動き始める。
「あぁー、楽しかったのになぁ。まぁしょうがないか」
エリトリナが、遠目に見える火山を馬車の窓から眺めながら、悲しそうにしている。
「また今度、金が入った時に行こうか。まだまだ行けていない場所もあるし」
なんか、申し訳ないな。
街に帰ったら、またいつものように、依頼をこなす日々に戻るのか。
無理やり連れて来られた旅だったが、意外と俺 も楽しみだったのかもしれない。
「ネウレア、水、要るか?」
「……」
パリスは自分が水を飲むついでに、ネウレアへ声を掛けるが、無視された。
「うぅ……ネウレアにスルーされたぁ」
「エリトリナ、パリスの心が傷を負った。治してあげてくれ」
◆
馬車乗り場の屋根の上。
そこに、金髪の女性が腰かける。
「キシシシ、ネウレアァ逃げるつもりぃ?」
金髪が屋根の上に立ち、太陽の反対側に屋根を歩く。
「へぇ、そういうことなんだぁ。じゃあ私も、カンコーにしよっかなぁ~」
◆
また場面転換した。
今度は一体何があったんだ?
「ミカミ、何ボーとしてるの?」
「いや、別に何とも無い」
出発してから、数時間。
流石に、観光地の象徴的なものである火山は、地平線の彼方で見えない。
ちなみに、俺とネウレア以外は全員、馬車の席で座ったまま就寝している。
まだ、夕焼けが残っているというのに、疲れてしまったのだろうか。
「仕方ないよ。何気にみんな、ミカミが起きるまでずっと看病状態だったから」
俺が倒れたのは夜のこと。
それからずっと起きていたということは、昼まで起きていたということかよ。
「意外とミカミって大切にされてるからね」
意外の一言が余計だ。
「ネウレアは寝なくて大丈夫なのか?」
「私はミカミが起きる三十分前まで、普通に寝てたから」
コイツはぁ!
起きた時に深刻そうな顔で俺の名前を呼んでたのに、ちゃっかり昼まで寝てやがる。
さっきの謝罪だけでは済まねぇよ。
「なんて、みんながミカミのこと、信頼してる証拠だよね」
いい話風にまとめるな!
ロリコンでも話しかけない理由が、ヤンデレ以外にも見つかったぞ。
「ところでネウレア」
「なに?」
みんなが寝ているうちに、聞いておくべきことがある。
「夜のことなんだけど、あの金髪は一体?」
「ヤバい金髪」
そうじゃない。それはわかってるんだよ。
「キシシシ」って笑う、ヤバくない金髪が存在するか? いや、存在しない。
「どう考えても、ネウレア、顔見知りだろ」
「ミクゥッ!」
ギクッ! じゃないのかよ。
有名なボーカロイドの名前みたいな動揺を見せるな。
「教えてくれないと……もし後をつけられていたりしたら、街で遭遇するかも知れないんだ。話し難いかもだけど、できれば話してくれるとありがたい」
「……」
下目遣いになり、口をつぐむ。
「あれは、私がまだ十二歳だった頃のこと」
次回もよろしく!




