第47話 修学旅行とかでこっそりホテル抜け出して夜の街を歩こうなんぞ、小学生だとだいたい十年、中学生ならだいたい五年、高校生は卒業まで早いんだよぉ!
ネウレアはそのまま宿を出て、真っ直ぐ最初に行った湖の方へと向かっている。
付かず離れずの距離感を保ちながら、ネウレアの後を追って行くと、やはり湖のよく見える高台へたどり着いた。
ネウレアは柵に肘を置き、満月が綺麗に映る湖を眺めている。
「眠れないのか?」
話しかけると、ネウレアはビクッと驚き、恐る恐る振り返る。
「み、ミカミもでしょ?」
「いや、部屋出て行くのわかったからさ」
「バレてたんだ……」
ドッキリがバレたみたいに、残念そうにするなよ。
何となく、俺も隣に行く。
「まぁ、馬車で今みたいなシチュエーションの回想してたのもあるけど」
「なんだ、そんなことなら話さなければ良かった」
そんなに夜更かしを満喫したかったのかよ。
満月の映る夜の湖というのは、なかなかの価値があると思うが、こっそり抜け出してまでのことなのか……
もしかしたら、修学旅行で夜にこっそりホテルから出て、夜の街を冒険しようとする輩と、似たような心理なのかもな。
「ミカミ、何考え込んでいるの?」
「いや、俺の国にも似たような奴らがいるんだよなぁって」
「それってどういう意味」
「『物好き』みたいな?」
「ムゥ」
ネウレアが頬を膨らます。ちょっと可愛い。
「そういえば、最初はお前のこと寡黙なヤツだと思ってた。けど最近は、なんだか饒舌になってきたよな」
「そうなの? 自分のことだからよくわからない」
最初はミステリアスなキャラだったからなぁ。
近頃は単純に出番が少ない、ただの幼女風女性キャラになりつつある。
まぁ、パリスやエリトリナのような、わかりやすいキャラに出番を持ってかれているだけなのだけど。
「そんなこと言ったら、ミカミはほとんど個性無いよ。紅一点ならぬ黒一点というだけで、主要メンバー入りしてるし」
「ただの黒一点で悪かったな。てか、ここ最近メタ発言多すぎだぞ」
「ミカミついさっきしてたじゃん、地の文で」
悪かったな。
てか、メタ発言増えてるのは俺達だけではないと思うぞ。……たぶん。
風が吹き、水面が揺れる。
それによって月の光が乱反射でユラユラし、風と共に俺の頭に白いモノが乗る。
ネウレアは、柵に置いた両手へと顔を埋めた。
「そういえば、しっかりと聞いてなかったことがあるね。ミカミは、何であの日私を探していたの?」
あの日とは、俺が街に初めて来た時のことか。
言われてみれば、そもそも俺とネウレアがこのように二人きりで話すことなんて、初の快挙だ。
快挙は少し言い過ぎかも知れないが、初期の二人だったクセして、こんなシーンが無かった。
「そういえば、言ってなかったな。ネウレアを探してたのは、とあるヤツに頼まれてだったんだよ」
「『とあるヤツ』って?」
「自称神の変なジジイ。強制的にやらされてさぁ。でも、今はこの日々が何となく楽しいかな、まだ一週間経つか経たないかだけど」
本当は、自分の世界に帰りたくもあるけど。
それはそれ、これはこれ、だ。
「そうなんだ、どこかで聞いたみたいな話だね」
どこかとは。
俺と似たようなモンが、ネウレアの元に来たことがあるのだろうか?
「どこかって、どこで聞いたんだよ」
「それは忘れた」
忘れるな。意外とそういうの、重要なんだぞ。
「それに関係してだけれども、ミカミのいた『ニホン』はどこにあるの?」
「とある星の東側。そう言っても伝わらないよなぁ」
「適当過ぎるよ。でも、あの魔族が知ってたから、そっち関係にある国なの?」
「魔族は関係ないな。てか、魔族はここ来た時初めて見た。こんな生物、実在したんだなぁって半分くらいは感心してさ」
「そんなに……田舎なんだ……」
場所による。
都会になるの、この世界のどこよりもあらゆる文化や研究が進んでるからな。
ネウレア達は知りようがないけど。
あと、魔族って都会に出るものなのか?
ブライバスは村とか言ってたのに。
「ところで、いつまでボクを放置する気だい?」
頭の上にいる白いナニかがしゃべる。
さきほどの風に乗じて、さらっと乗ってきたヤツか。
「やぁ、ネウレア久しぶり。ボクはキュ○ベ」
「エェェェェェ!」
黒のり付きのコイツを両手で掴み、左右に引っ張る。
そして、上顎に指をがっちり食い込ませ、湖へ振りかぶっての投げ込んだ。
「ミカミ、不法投棄だよ」
「安心しろ、○ュウベエはゴミではない」
汚れはするかも知れないけど。
「ネウレア、なんかパロディのせいで曖昧になったが、馬車での話は本当なのか?」
馬車での話とは、あの白いモノと契約した代わりに、ネウレアがヤンデレになったというもの。
ジジイの話では、この世界のバグみたいな経緯だったらしいから、その話は正しいのだろうか?
次回もよろしく!




