第44話 慌てて買ったお土産が、ホテル内で売っているのを見ると、かなり萎えてくる
「出発しまーす!」
「はーい、お願いします!」
カレーを食べてすぐ馬車に乗り込み、出発。
車両がガラガラと音を立て、動き始める。
午前とは違い、中ではエリトリナが眠そうな顔ではあるが、しっかりと起きていた。
「フワァー、まだ眠いなぁ。そういえば、私寝ている時、みんなは何してたの?」
「ちょっと雑談とか雑談。あと言い忘れていたけど、雑談だ」
雑談だけだなそれ。
言い忘れていないぞ。
「そうそう、今向かっている火山の麓の街なんだけど、ガイドブックによると真っ青な湖がかったり、温泉湧いてたりするんだって!」
ほうほう、まぁ火山帯あるあるだな。
何となくしか知らないが、地熱とかで火山の付近には温泉が沸くのだそう。
あと、湖といえば綺麗で青い水。
そもそも、汚い水が溜まった場所を湖とは言わないからな。
「それでそれで、初日のプランなんだけどどうする?」
「うぅむ、まずは宿に荷物を置いてから観光に行かないか?荷物持ったままだと、まともに観光できないだろう?」
「パリス、私がそんなことを考えてないと思った?荷物置いてからの話だよ。ちなみに、乗り合い馬車出口のすぐそばに宿あるからね」
「それは便利だねぇ。人間もなかなかやるじゃない」
ブライバス、何の対抗心だそれ。
パリス達が盛り上がっていると、ネウレアがエリトリナのガイドブックをサッと取り、パラパラと読んでいく。
「とりあえず、湖見たいな。綺麗って言ってたし」
「ネウレアちゃん、湖ね。大丈夫、宿出て正面に、なんと大きくて舗装された湖があるらしいんだよ。じゃあ、最初にそこ行こうよ」
宿屋出てすぐ目の前に観光地があるとか、凄くできた話だな。
よほど観光地化が進んでいるのだろう。
「お土産屋はどうする?」
「宿の中にあるんじゃないかな? それか、少し歩いたら小さな商店街みたいなのがあるらしいし」
「温泉はどこにする?」
「宿の中にあるらしいよ」
「飲み物とか、朝ごはんとかを買う場所は……」
「宿で朝ごはん食べられるし、水は中で売ってるって」
「なんか、近くに釣り堀あるらしいぞ」
「宿の敷地にも、管理されている釣り堀が別であるらしいよ」
「ボートで湖を満喫」
「ボート貸す所は宿が運営してる」
「エリトリナ、これはどうだ? 油で揚げた餅の中に……」
「……泊まる予定の宿に、その店があるって……」
宿、万能過ぎだろ。
地球でも温泉宿なら温泉あるし、朝ごはん出るし、飲み物は自販機あったりはしたのだが、温泉からグルメまで、ほとんどを宿が牛耳っていやがる。
観光地を裏で牛耳る宿の存在に引いていたら、ネウレアがこっちにやって来た。
「ミカミ、眠い」
そしてそのまま、俺の膝を枕にして横になる。
「ネウレア、その男はゴツゴツしているから、私の方に来ないか?」
「Zzzz」
熟睡。
パリスの声は、ネウレアに届かないようだ。
「ミカミ、ネウレアを渡せ。というか、私達以上になつかれているのは一体なぜなのだ?」
「年季が違うんだよ年季が。……単位は何時間何分間レベルだけどな」
というか、俺は好きでこうしている訳ではない。
自称神とやらに脅迫され、保護者になることを押し付けられたのだ。
そもそも、なぜあの自称神が自分でやらないんだよ。
それらも含めてクレームが溜まっているーーいつかまた、お告げ擬きが来たらしばいてやろう。
「しょうがないよ。パリスは見た目怖いロリコンのお姉さんなんだし」
「エリトリナ、それはフォローではなく、私への誹謗中傷なのではないか?」
「やだなぁ、事実を言うは誹謗中傷じゃなくて悪口だよ」
「けっきょく悪意しかないではないか!」
「間違いを正すのも、親友の役目だからね」
「良い話風にまとめるな!」
◇
「とーちゃーく」
周りには、たくさんの馬車が一列に並んでいて、続々と乗客が降りて来る。
「うん、空気がおいしい。火山の近くだからゆで卵みたいな匂いがすると思ったけど、そういうのは無いみたい」
荷物を受け取り、持ち上げて宿へと向かう。
「さて、それじゃあこれから、楽しむよ!」
次回もよろしく!




