第39話 サスペンスとスキャンダルは主婦の嗜みらしい、という何番煎じかわからない話題
朝日が部屋に差し込む。
魔族との戦いが終わり、丸1日が過ぎた。
昨日から街は、相変わらずの復旧作業だ。
幸いにも、ネウレアの家に被害は無く、しばらくの間、俺やパリス達も、そのままここで寝泊まりすることにした。
まだ眠いが、部屋を出て螺旋階段を降りる。
一階から何やら音がするので、既に誰かが起きているのだろう。
「おはよう、早かったなっ……」
リビングに入った瞬間、俺の目に飛び込んで来たのは、仰向けのアメスに乗り包丁で刺す、ネウレアの姿だった。
「あ、ミカミ。おはよう!」
血の跳ねた顔で、ネウレアははにかむ。
「『おはよう!』じゃねぇ! 朝っぱらからそれかよ!」
「え?ミカミ、もう朝だよ! おはよう以外に、一体何を言うの!?」
「論点が違う! 誰かが刺されている時のおはようなどあるか!」
思い切りツッコむと、階段の方から足音がするのに気付いた。
パリスとエリトリナも、ようやく起きたのだろう。
「ミカミ、朝からうるさいぞ。……ネウレア、元気そうで何よりだ」
元気過ぎて、後片付けが困る。
「うわぁ、ハデにやったねぇ。血とか取れにくいんだけど……」
エリトリナからは、とても生活的なコメントを頂いた。
ネウレアのグロっぷりには、もう慣れたモノか。
「というか、アメスはどこから入ったんだよ。掃除が大変だから、今後は侵入しないでくれ」
アメスは血ダルマのままに、体を起こす。
「ボクは掃除より優先順位が下なんだね。というか、ボクも泊まる場所が無いからここに住みたいんだけど」
「お前は人形だからな。最高でも物置小屋だぞ」
「酷いなぁ、これでも一応、今回の件では貢献したのに」
「貢献という名の妨害だろ」
まぁ確かに、コイツの失敗が、まさか防衛戦を成功させるとは思わなかった。
「そんなことはどうでと良いから。さっさと帰れよ」
「えぇ、しょうがないなぁ。ボク、昨日は働いたのに」
自業自得だろそれ。
アメスは、不満げな表情をしながらも立ちあがり、そのまま玄関に向かおうとした。
ら、アメスが立ち止まった。
「あ、手錠プレイしてたの忘れてた」
「お前にとって、それはプレイなんだな」
SMにありそう。
ネウレアから、勝手に借りている手錠の合鍵を使い、アメスから外す。
「ほらほら、もうここに来るようなことが、金輪際無いようにな」
「そのセリフ、牢屋から釈放された気分がするよ」
アメスは、そのまま玄関から出て行った。
今回はやけに素直だが、きっと昨日のことを気にしているからだろう。
反省しているのならばよしとする。
俺がアメスが出るのを確認して鍵を閉めると、エリトリナは雑巾を持って来る。
「おはようってとこで悪いけど、この血を拭かないとだめだからね」
床にベットリと付いた、赤黒い血を指差す。
見るからに頑固な血痕、これは長くなりそうだ。
◇
床掃除を終え、朝飯を食べた後。
俺達は、半壊した冒険者ギルドに向かった。
今回の戦いで、大きな被害を負ったギルドを街の冒険者で修復しているのだ。
朝早く来た訳では無かったが、今回は会議の時とは違い、人があまり来ていない。
「どうも来るのが早かったようだな。まぁ、昨日あれだけやれば、疲れて起きてないヤツも多いだろう」
少しだけいる冒険者も、まだ眠そうな顔をしていたり、椅子に座って二度寝している者もいる。
そういえば、受付もまだいないな。
暇過ぎたのか、エリトリナは持ってきた工具をパリスに渡し、俺に話しかけてくる。
「そういえば、ミカミさん。この街でブライバスと二人きりになった時、何を話していたの?」
レストランでのことか。
パリスに置いてかれて、強制的に愚痴聞かされたやつだ。
「話してたって言っても、一方的に愚痴られてただけだったんだがなぁ。まぁ、アイツも大変そうだったよ」
「へぇ。パリスの話で、ブライバスは村の長みたいな立場らしかったけど、内容は部下の話とか?」
やけに食いつくな。
スキャンダル好きならまだわかるが、愚痴ってそこまで聞きたいものなのか?
「なんだったっけな。部下じゃなくて、隠居したのに口出ししてくる大老とかへの悪口だったと思うけど」
「なるほど、実権だけ握られてるってやつね」
エリトリナは名探偵が考えている時のポーズを取る。
「まぁでも、もしかしたらブライバスが地位剥奪になっちゃうかもね。本人が権力無いんだし、場合によっては逃げるかも」
「そこまでは無いと思うけどなぁ。それに、部下と仲良さげだったし」
「そっか。そういえば、まだ来ないね、必要なのに」
エリトリナが視線を送るのは、受付用の椅子である。
昨日の受付はあの席に座って、復旧作業している冒険者をふんぞり返って見ていた。
冒険者は続々と集まっているし、もう既に昼の時間にもなろうとしている。
確かに、来るのが明らかに遅い。
「もしかしたら、魔族と何かあったのでは?和睦中の魔族側とのパイプ役を買って出たのは、アイツだったのだから」
すると、冒険者達が騒ぎ出す。
冒険者は道を開ける。そこを通るのは、なんとブライバスと受付嬢だった。
「えぇ、魔族の元村長のブライバスさんです。村を追い出され、ここに亡命してきたとのこと。そんな哀れな魔族を今日泊めてあげられる、警戒心の無い方かそういう展開を期待してしまうおバカさんは、ここにいらっしゃいますか?」
次回もよろしく!




