第36話 氷そっくりの砂糖をホットコーヒーに入れたら、人はアイスコーヒーと勘違いするのだろうか?
「グハァ、ゴボァ」
「く、誰か、解呪の魔法を持つ者はいないのか!?」
ブライバスは、呪いに掛かった部下を持ち上げ、後方に運ぶ。
「残念ながら、今回の作戦には使わないということで、そのような者は……」
「あぁもう、呪いを掛けたのは誰なのだ!」
敵だけどすいません。
後でアイス奢らせて頂きます。
ラサットの昏倒で、魔族側は攻撃の手を緩める。
また、幹部級が倒れたことで、魔族の兵にも不安が漂ったおり、困惑しながら戦っているようだ。
だが、こちら側もそこを突くことは無かった。
先ほどの魔法に撃たれた冒険者達は、動ける者は負傷者を運び、魔法使いは彼らを街の奥へ運んで行く。
一時休戦、とまでは行かないが、半数以上が戦闘を止め、そちらに回っている。
俺は幸いにも軽症で済んでいるので、近くの冒険者を運んでいた。
そうしたら、魔族から逃げるエリトリナの姿がある。
「あ、ミカミさん! ちょ、助けて!」
ごめん、俺には無理。
「あ、無視しないでよ! キャア、こっち来てるー!」
「こっちに魔族連れて来ないでくれよ! 怪我人運んでいるんだし! てか、アメス見なかったか?」
エリトリナは、全力でこちらに来ながら、周りを見渡す。
「いないけど、何でアメスを?」
「魔族が一人、呪いを発症してる。おそらくアメスを連れていったら交渉の材料になるんじゃないかって」
「……ミカミってちょっといやらしいよね」
それは素直に傷つく発言だ。
だけど、このまま朝まで続けるのは、お互いのためにならない。
「エリトリナ、俺はコイツ連れていくから、アメスを探して来てくれ」
「う、うんわかったよ。落とさないでよ、その人」
エリトリナは、街まで走って行く。
「……」
俺も街の中心部まで運んでいるので、エリトリナと同じ方向だった。
気不味いんですけどぉ!
◇
「やぁミカミにエリトリナ。外はどうだい?」
避難所では、アメスは呑気にお茶を飲んでいた。
お前、参加した方がいいか?とか聞いてただろ。
まさかの不参加者発覚でもあるが、エリトリナは知っていたのか。
「アメス、不本意ながらお前が必要になった」
「不本意とは何さ。ボクは至って優秀だからね。で、要件は?」
「お前の呪い魔法の被害者が見つかった。優秀とか言ってないでさっさと来い!」
あぁなるほどね、と余裕そうに立ちあがる。
「早くしろよ、こっちはピリピリしてたんだよ」
マイペースなアメスと共に避難所を出る。
すると、ガラガラと大きな音が、街の入り口の方向からした。
「ゴーレムが崩れたぞ!」
ネウレアがゴーレムを完全破壊したそうだ。
これで、多少は有利になった。
戦場は、先ほどと変わらない。
無益なことを変わらずやっている。
「ブライバス、いたら出てこい! 話がある!」
◇
「二人だけとは昨日ぶりだな。ミカミ、話とは何だ? 予想はつくが、和解案は昨日破棄したはず」
互いに一時休戦し、負傷者の救護に専念。
話の場として、即席ではあるが、戦場のど真ん中に、一対の席を設けた。
そこに対面して座るのは、俺とブライバス。
「和解案だけど、昨日と違う。まぁ、ゆっくりしていこう」
「ゆっくりと言われても、あと数時間で夜明けなのだが……」
ごちゃごちゃ言っているが、焦るものでは無い。
リラックスするために、カップのコーヒーに砂糖を入れて飲む。
「あっつ! ホットかよ!」
「熱いなら、アイスを入れれば良いのではないか?」
なるほど。ってそうじゃない。
本当にアイス好きだよな。
「それで、新たな和解とは?」
痺れを切らし、ブライバスが聞く。
早く終わらせないと、魔族には不利になるからだろう。
「ではまず先に。お前の部下に一人、呪いにかかった奴がいたろ?」
「あぁ、ラサットのヤツ、何をつけているのだか」
「早い話、お前の部下全員呪い掛けられてるぞ」
ブライバスがコーヒーを吹く。
「な、なぜなのだ!? というか、なぜミカミがそれを?」
「いや、馬鹿馬鹿しい話、なんだけどさぁ」
それから、バーンライオの時にあった一部始終を話した。
「で、昼くらいにはお前の部下全滅なんだよ」
「なんと言うことだ! というか、よくもやってくれたな!」
「ちょっ……ゴホッ首締めるなって! というか俺がやったんじゃないから」
ブライバスの腕を俺の首から引き剥がす。
「まぁ、それで、提案ってわけなんだけどさ……」
次回もよろしく!




