第35話 ファッションは我慢が必要
「あ、あれは……」
それは、前にブライバスが俺達に向けて撃とうとした魔法。
魔力が足らなかったため、放たれることは無かった魔法。
「「"ペインデス・ムーンナイフ"！」」
魔方陣は輝き、光の粒子が集まる。
そして、二つの光線が放出され、地面に降り注いだ。
ドゴォン
地面にビームが突き刺さり、大爆発。
結界の中の冒険者は、一斉に吹き飛ばされた。
辺りには土煙が立ち込め、やがて収まる。
地面には、二つのクレーターができ、それを囲む様に冒険者が倒れている。
「ぐぅ、やりやがったな」
ブライバス達魔族は、ゆっくりと地面に降りる。
「フゥ、これで動けるのは向こうの魔法使いだけか。お前達、踏ん張りどころだよ！」
「ブライバス様、ここは我々にお任せください」
兵士を取りまとめていた、初老の魔族が言う。
ブライバスはウム、と頷き、
「では三人に任せよう。行ってこい！」
ブライバスの言葉に合わせて、三人の魔族が魔法使いに向かっていく。
「ちょ、マジで!？ パリス達は動かないし……」
「仕方ないよエリトリナさん。それに、そんなこと話している場合じゃない」
ローブの青年が、エリトリナをなだめた後、詠唱を始める。
今まで、どれだけ詠唱を唱えたのだろう、声はもうガラガラだ。
「人間の魔法使いは、確か接近戦が苦手なんだよなぁ！」
魔族は、魔法を撃たれる前に近づき、鎌を振り回す。
魔法使いは詠唱どころではなく、散り散りに逃げて行く。
「ハハァ！ ざまぁ見たか、調子乗っていると、痛い目に逢うんだぜ！」
そして、ラサットがエリトリナに接近し、鎌で一閃しようとした。
「まずはアンタからだぁ！ せいぜいあの世で、ゴホ、……グハァ！」
ラサットが、咳き込みながら吐血する。
「な、何だ？ これは……」
ラサットの胸元には、謎の魔方陣が出ている。
「それは、呪い!？ ラサット、どこでそんなものをもらってきた！」
風邪みたいな言い方だな。
しかし、呪いか。どこかで聞いたな。
慌てるブライバスに、部下が駆け寄る。
「ブライバス様、森で休息を取っていた時のことです。地面に謎の魔方陣が出たのですが、もしかしたら、それが原因かもしれません」
「なぁ？ 何なのだそれは。というか、なぜアイツだけなのだ？」
すると、部下は青年魔族の方を顔をしかめつつ、腕につけたブレスレットを指差す。
「ラサット様は、変なアクセサリーがお好きなのはご存知ですよね。
今回の遠征には、使う予定も無いのに、カッコいいからと呪いの力を増幅させる、ブレスレットをつけてきているのですよ」
「な、それは、自業自得ではないか！」
なにそれ。
というか、魔方陣が出た？
それはもしや、アレかもしれない。いちおう聞いておこう。
「おいブライバス！ お前ら、昼の間はどこにいたんだ？」
そばにいる部下に確認して一言。
「確か、常夜の森に、だが……」
あれだ。
アメスの被害者、発見。
次回もよろしく！
