第31話 罠には気を付けよう
鳴り響く魔族の太鼓の音と共に、骸骨の騎兵やイノシシ型の魔物が冒険者に向かって襲いかかる。
しかし、冒険者達は殺気立ちながらも、その場を動かない。
当然、後ろで高みの見物を決めている魔族達は首を傾げる。
「うん? 人間共は何をボーッと突っ立っているのだ?」
「おかしいですね。ブライバス様、何かの罠かもしれませんよ?」
「そうか? しかし1日でこんな何もない場所に仕掛けるものなどあるか?」
――かかったな。
魔族の兵達が、あと数十歩で冒険者の元にたどり着くような場所。
そこで彼らは一斉に、何か壁のようなものにぶつかっていく。
後ろの兵まで、急に止まることができず、次々と前の兵らと衝突。
あるものは落馬。またあるものは後ろの魔物に踏まれたりサンドイッチにされて押し潰されたり。
これは、ある冒険者が言ったとある案を応用したもの。
結界を張って凌ごうというものだったが、半日で街を覆うことなどできるはずがない。
しかし、結界を街の一方にだけ張ることはできる。
そして、魔族が観測されたのは丁度街の入り口前方の森だった。
よって街中の魔法使いが1日かけて、街の入り口前方に渡り、強固な防護結界を配置。
これで第一波をしのぐというのが作戦だ。
「見事にひっかかってくれたなぁブライバス!」
「よくもやってくれたな。仕方ない、ここはあの結界を破壊するまでだ! "インフェルノ"!」
魔族は兵を一旦退かせ、続々と魔法を放ち結界を破ろうとする。
だがそれも想定済みだ!
魔法使い達は、魔族の詠唱と共に、同じく詠唱を開始する。
「「「"ミラーリフレクター"!」」」
今度は、結界の前に丸い鏡のようなものが現れる。
それに魔族の魔法が当たった瞬間、魔法は反射されて、魔族の兵の元へ。
「次は反射魔法か! ……アーバル、ラサット、お前達はあの鏡を直接破壊してくれ。ダムドは残った兵の体勢を整えさせ、待機!」
ブライバスの指示を聞き、右からマッチョ、左からは細身の青年のような魔族がそれぞれ飛来する。
一方、二体の魔族の後に指示を受けた魔族は、半分混乱状態の兵達を沈静化させ、体勢を整えさせている。
「来たぞ! やっちまえ!」
そして、両翼から来た魔族が結界の元にたどり着き、反射魔法の破壊を開始。
彼らに武器を手に前衛の冒険者が突撃して行った。
魔族と人間の激しい攻防。
あぁなんだろう、俺は今まで待ち望んでいた光景を目にしている気がする。
今までの異世界生活を振り替えれば、とても滑稽でドタバタな毎日だったが、ようやく俺にまともなファンタジーライフが……
来なかった。
魔族に突撃していく冒険者。
けれども、それは何とも言えないズッコケ展開を招いた。
先ほどの魔族の兵達と同じように、結界に自ら衝突していく冒険者達。
あるものは剣を振りかぶり結界にかぶとわり。
またあるものは、顔面から結界に飛び込み。
あんたら……自分の罠にかかってない?
策士策に溺れる、とかそういう格好良いものではなく、完全に自滅している。
「プハハ! キミ達、自分のトラップにかかるとかぁ、バカじゃないの?」
青年魔族は嘲笑し、ゴリラ魔族はそれを見て、若干困惑している。
まぁ、だよね。
幸いにも、最前列以外の冒険者はそのことに気付き留まったのだが、前衛の、それも勇敢な(バカでもある)冒険者達はほぼ全員巻き込まれてしまった。
「パリス、結界があるから気を付けて行けよな」
少し苦笑いしながらも横を見るが、そこにパリスはいない。
「ミ、ミカミ! すまない、巻き込まれた!」
人が積み重なっている場所から、パリスがうめきながら返事をする。
アンタもか。
残念ながら助けることはできない。よって放置。
とりあえずブライバスを確認。
この様子を見て、ブライバスはどこかから湧いたコウモリに指示を与えていた。
使い魔なのだろうか、コウモリはすぐに影となり消えていく。
一方、ブライバスの部下二体は、冒険者が取り込み中の間に、反射魔法を破壊。
そして、至近距離から魔法を詠唱して放ち始める。
おそらく、このまま結界も割ってしまおうという魂胆なのだろう。
だが、それを魔法使いが黙っていない。
「"コキュートス・レイン"!」
「"ボルト・デストロイヤ"!」
空の上から、魔族目掛けて魔法の雨あられ。
結界があるので、直線上に放たれる魔法は使えないが、空や地面から発動するものは、結界とは関係なく使用できる。
「ほぅ、結界に範囲系魔法での攻撃。これはなかなか考えたものだな」
「アーバルのおっさん! 油断してると当たっちまうぞ――っと!」
魔族に危なげなく回避されるが、結界への攻撃は緩くなった。
魔法使いが頑張っている間にようやく体勢を立て直した前衛達が魔族に向き直る。
「この野郎! さっきはよくもやってくれたなぁ!」
冒険者の誰かが叫ぶ。
いや自滅だろ。
そして、未だに前線に出てこないブライバスも、苦笑いしながら、
「……それを私達のせいにされても……お、どうも来たようだな」
ブライバスの元に、先ほど消えたコウモリが再び現れる。
「人間よ、ここまでよくやったな。だが、それもここまでだ!」
ズシーン、ズシーン。
大地が揺れ始める。
そして、地平線の彼方から、一体の巨大な影が。
「これぞ我らの最高傑作! 人間よ、その姿に恐れおののくがよい!」
白っぽい岩でできたゴーレムが、ブライバスと並び立つ。
次回もよろしく!
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