第29話 家の施錠は念入りに
受付嬢への報告を終えて、ネウレアの家へと帰ってきた。
「お帰りミカミ。もうみんな先に食べてたから。ミカミの分はちゃんと机に置いてある――勝手に食べていて」
一足先に帰っていたネウレア達は既に遅い夕飯を食べ終えて寝る準備を始めている。
そういえばだが、俺も含めてだがパリス達もすっかりここの住人扱いなんだな。
手を洗い、リビングへ入ると俺の分としてなのか、木箱があった。この世界の弁当のような物なのだろうか。
家を出る際にすぐに食べられる物をリクエストしていたので、きっと運びやすい容れ物に入れていたのだろう。
蓋を開けると、そこには板チョコが入っていた。
……え?
「ネウレア、これ何?」
「チョコだけど」
いや、チョコだけどじゃなくて。
なぜチョコが、それも板チョコというどこかで見たパターン。
「バレンタインのやつ、まだカカオが余ってたから」
だからってまた板チョコかよ。
カカオにも使い方まだあるでしょうが。せめて板チョコはもうやめて。
というか、この期に及んでバレンタインを引きずっているのかよ。
「い、頂きます……」
ちなみにチョコは旨かった。
◇
究極必殺技、場面転換。
チョコはスタッフ、ではなく俺が完食しました。スタッフって誰だよ。
まだ皆起きているが、寝る準備が俺だけできていないので、今まで寝ていた部屋に来ている。
今日は、昨日のようにエリトリナからとばっちりを食らわないために、俺は一人で寝ることになり、ネウレア達は三人一緒に寝ることとなった。
慣れた手つきでロウソクに明かりを点ける。
このぼんやりとした光が暗い部屋を照らしだす様子は、何となく幻想的というかぼんやりとした感覚で、とてもクセになる。
ベッドメイキングを終え、荷物を置きベッドに座り込むと、今日の疲れが急に押し寄せた。
――明日、魔族が来る。
不安なことが次々と頭をよぎっていく。
街に帰った時にそれを突然知らされたが、その時は焦っていて今後のことなど、ほとんど考えられていなかった。魔族達はたどり着けなかったみたいだが。
この住み慣れた街――そこまででは無いか。
とにかく、過ごした時間は全く長くは無いが、この街が危険に晒される。
それも、自分で決めてしまったことだが、明日もしも負ければ、ネウレアを含めてどうなってしまうのかはわからない。
ネウレアを差し出すわけにはいかない。しかし、こんな俺が決めてしまったせいでこの街は……
「悩み事、かな?」
後ろから、最近よく聞く声がする。
振り向けば、宙に浮くアメスが窓の外からこちらを覗いていた。
「アメス、お前どうやって空に立ってるんだよ」
「魔法だよ。こっそりと入ろうとしたけど、どの部屋もしっかり施錠されていたからね。とりあえずネウレアにも会いたいし、中に入って良いかい?」
「却下」
◇
「それで、魔族と戦うことになったということだったんだね」
心外ではあるが、アメスを部屋に入れて、事の一部始終を話した。
「確かに、ミカミはまだ強くない。そもそも、今までの依頼は全てネウレアに頼って報酬だけ持っていこうとしていたんだろ?それで怠けていたら魔族襲来からの親玉級登場でネウレアのために宣戦布告。だけどミカミは勝手に街を戦いに巻き込んだことに負い目を感じているってことでしょう」
「まぁだいたいは合っている。少し辛口な部分もあるけどな」
部屋に一脚だけあった椅子に腰掛け、アメスはやれやれみたいな顔をしている。
やっぱりムカつくな、やはり部屋に入れたのは間違いだったか。
「でもミカミは――自分で決めたんだよね。それを聞いている限りは能動的に。受動的では無くてさ。ミカミには事情があるからかもしれないけど、結局は自己判断の域にある。結果から言うに、それはミカミがそうしたかったからだろ?」
先ほどまで何となく殴りたくなる顔で話を聞いていたアメスは一転、まったりとしながらも真剣な表情になる。
頬杖を付き、足を組むその姿はまるで、どこかの領主のよう。
「ミカミはさ、後悔する必要なんて無いよ。極論を言ってしまえば、常に安全な場所なんて世界中探しても見つからない。それに、実力の無い人間が、すぐ側にいるいたいけな少女を庇って、一体何が悪いんだ? 力が無いなら借りれば良い。間違っている?」
更にアメスは続ける。
「そんな事でウジウジ悩んでいられると、こっちも困っちゃうんだよ。実力をつけるのは一朝一夕では成り立たない。だから明日に間に合わないのは当たり前。キミがやるべきなのは一つだよ。それは……」
それは……!
「はぁぁぁ、ごめんもう我慢できない。ネウレアどこ?」
と、アメスは席を立ちドアを開ける。
どいつもこいつも、何でいつもシリアス展開の邪魔すんだよぉ!
最近毎回これだよ、特にブライバス! 明日文句言ってやる。何回盛り上げておいて、ラストで落とすんだよ。飽きるわぁ!
次回もよろしく!




