第21話 たまにはバトルもいい感じ
鼓膜の震えを感じるほどの咆哮を上げたバーンライオが爪を振りかざし、パリスへと襲いかかる。
パリスは臆することもなく冷静に、常に自分が背中に背負っている大剣を引き抜くと、バーンライオの牙を重低音を響かせながら防ぎ、一瞬見合った後に繰り出されたクローも一撃一撃大剣で弾く。
「うぉぉぉぉ!」
暫時の隙を突き、パリスは大振りの斬撃をくり出すも、避けられる。
……なにこれ、胸熱バトル展開。ジャンル違うだろ。
そして後ろを振り向くと、詠唱を開始したエリトリナは、パリス達の攻防に――詠唱を忘れるほど見入っていた。
「ちょ、エリトリナ! 詠唱は!?」
「あ、ごめん、忘れてた。今からやるね」
「急げ! 早くしないとパリスの体力がもたない!」
と、慌てて詠唱を開始。
ちなみにエリトリナと仲良く繋がれたネウレアは、寝込んでいるアメスの方に包丁を持って走り込もうとし、手錠を外そうとして暴れている。
「おいネウレア、止まれ! ……たく、男見た瞬間襲いかかるのかよ」
小さく囁いたつもりだったが、ネウレアにはしっかりと聞こえたようで、頬を膨らませながら
「ムゥ、淫乱みたいに言わないでよ」
半分はくらいなら合っているけどな。赤くてドロドロしたのがお好きなようで。
そして、ネウレアからヤンデレ式の寵愛を受けているアメスはというと、やっと気が付いたようで……
「ここはどこ、異世界? ボクは誰?」
お前から見たらここは異世界じゃねぇよ。
あと、お前はお前だ。
「おいアメス、そういう茶番はどうでも良いから、さっさとライオンと遊んで来い。あ、お前おもちゃな」
「サッカーしようぜ、お前ボールな! みたいに言われても……。あと、ボクは囮になる前提なんだね」
「なぜサッカーを知ってるんだよ。それと、さっきからいろいろと設定が矛盾するから黙っていてくれ」
「メタいこと言われてもなぁ。ちょまま、蹴らないでよぉ。もう少ししたら行くからさ」
と言いながらも逃げようとしているので、顔面にドロップキック。
そうしたら、アメスは思いの外遠くまで吹き飛び、バーンライオの前足の所に着地した。
その後の展開はもちろんお察しの通りで、アメスは噛まれたりゴロゴロされたりと、遊ばれていた。
「パリスー。詠唱終わったけど、アメスいるからどうしよう?」
「構わんエリトリナ、盛大に撃て」
アメスのお蔭で、バーンライオから離れて後退することができたパリスは、親指を立てエリトリナへゴーサインを出す。
「えぇ、人がいる所に撃つのは気が引けるなぁ。……パリス、ミカミさんが提案した時は、いちおう反対したからね。それしか方法が無かっただけだから」
「なら仕方ないが、魔法って食らう側になるとかなり怖いモノだからな」
パリスは泣き叫ぶアメスの方に嬉しいのか悲しいのかよくわからない視線を送る。
「ギァァァァァ! エリトリナさん、冗談だよね、まさか他人に魔法を放つなんてことはないですよねぇ!」
エリトリナはにっこりと笑い、
「そう言えばアメスさんは人ではありませんでしたね。なので他人ではないです。それに、もうこのまま維持するの限界ですから……」
笑顔を真顔に戻すと、杖を天にかざす。
すると、空に暗雲が立ち込め始めゴロゴロと音が鳴り出し、
「"ボルト・デストロイヤ"!」
紫の落雷が、バーンライオごとアメスに突き刺さった。
次回もよろしく!




