第18話 普通に考えておかしいことも、言わないのがお約束
「おはよう。……どうしたの? 顔色悪いけど」
遅れて起きてきたネウレアが、俺とパリスを見るなり、心配そうにする。
「ネウレア、エリトリナを絶対に怒らせるなよ……」
昨日は散々な日になった。
あの感覚をはやく忘れたい。というか、尋問に使われるような魔法は身内に使うものなのだろうか?
「ふぅ、ネウレアちゃんも夜は静かに寝ようね。じゃあ、ミカミさんが寝床を見つけるためにも、早く出て仕事探しだよ!」
「そうしないとな。パリスと一つ屋根の下というのは昨日限りにしたい」
「私もお前と居たくていたわけではない。まぁしかし、それなりにサマになっているな。着けるのは初めてだろう?」
そう言いながら、俺の装備をコンコンっと叩いてみたりする。
朝一番に起きて昨日買った装備を着けてみたのだが、思う以上に重い。
まだまだ慣れてはいないのだが、初めてということで仕方ないけれど、いずれこれにも慣れるであろう。
「そういえば、ミカミさんは剣とか使えるの? 洞窟のヒメアントはほとんどパリスが倒していたし、盾を使っているところなんて見たこと無いからさ」
「…………」
それは言わないお約束だ。
というか、フィクションでは主人公は特に、剣を初めて握っても常人以上に使えたり適正あったりする。
「包丁よりは良いだろ。てか、ベルが普通に勧めるから買ったんだけど」
「鍛冶屋が片手剣の装備一式を勧めるのはよくあることだ。弓などと違って練習しなければまともに使うこともできないような難しい武器では無いし、携帯用の武器として誰でも持つべきではあるが、正直言って片手剣のリーチだと、初心者のほとんどは近づくことすらできない時もあるからなぁ」
それを先に言え。
しかし、何度も言うが、包丁よりはマシである。
「まぁまぁ、パリスはまだ小さい時にさ、一度も冒険へ出たことが無いのに身長の倍くらいある大剣担いでダンジョンに行ったことがあったんだけどね」
「おいエリトリナ、そういうの本当にやめてくれ!」
パリスがエリトリナの口を塞ぐ。
コイツの小さい頃の話か、いろんな意味で聞いてみたい。
と、その様子を見ていたネウレアが袖をクイッと引っ張る。
「ねぇミカミ、みんな朝ご飯食べたの?」
「「「あ!」」」
「しまった! 待ってて、今すぐネウレアちゃんの分作るから」
「待てエリトリナ、私も迷惑を掛けっぱなしというわけにはいかない!」
「パリスは料理できないでしょ! ミカミさん達とそこで遊んでて!」
俺は一体何だと思われているのだ。
そう、遅れて起きてきたこの家主のことを全員すっかりと忘れてしまっていて、ネウレアの分を作らずに食べてしまっていた。
「すまんなネウレア、すぐに作るから少しだけ待っていてくれ。……どうした? 後ろに何かいるのか?」
ネウレアはオシャレな柵付きの窓を指差す。
振り替えるとそこには……
「やぁみんな、ごきげんよう! 夜はしっかりと寝られるたかな?」
窓に貼り付くアメスの姿。
俺とパリスは顔を見合せて頷き、箒を持って玄関の方へと走りだした。
◆
「走れ、俺達には無理だ!」
「冗談じゃねぇ! なんでこんな所にこんなヤツらがいるんだよぉ!」
荷物を捨て、泥だらけの男二人で暗い森を逃げ惑う。
後ろからアイツらが迫る。
なんとかして明るい場所へ逃げこめられれば、生きて帰られるかもしれない……!
「ヌーラ! あそこに光が、向こうに行こう!」
「セリトでかした!」
セリトの指す方には、僅かながら光が見える。
明るい場所に出たら、助けを呼ぼう。
少しづつ大きくなる光に希望を懸け、全身全霊で地を踏みしめる。
「セリト、もうすぐだ!」
「わかってる! あぁ、神様、我らに救いを……」
そして、恋い焦がれた光のもとに飛び込んだ。
まぶしくて目が開かないが、きっと俺達は逃げきれたのだろう。
「セリト、助かったぞ! さぁ早く救援をするぞ!」
しかし、返事が無い。
「セリト、セリト? どうしたんだ!?」
恐る恐る目を開ける。
先ほどまで目を閉じていてもわかるほどに白い光に満ち溢れていたのだがそこには、明かりなど一つも無く、ただ暗い森が広がっているだけだった。
「セリト、セリト! 返事をしろ! どこにいるんだ!」
だが、一言も返って来ない。
後ろになにやら近づいて来る気配を感じるが、これはセリトではないだろう。
烏の鳴く森の中で俺はただ、絶望するしか無かった。
◇
「それで、今日はどこを墓場にするのですか?」
「墓場にするって何だよ。いいから、今日はこれを受けるから手続きしてくれ」
ギルドに行くと、いつものように例の受付が表面だけの微笑みで座っている。
「というか、他の受付は何してるんだよ、何で一つしか機能していないんだ」
「人手不足なんです。当然ですよ、冒険者とかいう依頼が無いと生きていけない癖に自分は英雄とか思っている人達と関わりたい奇人なんて世の中にはあまり居ませんから」
「そういうと、お前はその奇人とやらになるのだがな。ーーん?あそこらへん、何やら騒がしいけどどうしたんだ?」
ギルドの掲示板辺りに人がたくさん集まっている。
どうも、受注済みの紙を見ているようだ。
「あぁ、あれはとある二人組の冒険者が受けた依頼の紙ですね。そういえば、そこの地域に行った人が何人か、行方不明になっているそうですからね」
「そうか、俺達も気を付けよう。じゃあ手続き終わったら呼んでくれ」
さっさと立ち去ろうもすると、
「わかりましたけど、そういう風に後ろ姿で手を振りながら去っても全く格好よくありませんからね。むしろそういう考えが見え透けて、思わず引いてしまいますよ」
「…………」
うん、やっぱコイツ嫌い!
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