第17話 ホワイトデーはバレンタインの付属品
パリスと協力し、アメスを家から追い出す。
そして、ネウレアが落ち着いたら手錠を外し(自分で鍵を持っていた。なぜ自力で外さなかったのだろう)、ようやく寝る準備。
なのだが……
「待てミカミ、どこに行くつもりだ」
「どこにって、別に俺の部屋だが」
「お前の部屋などあるかぁ! ここはネウレアの家だ。……部屋割りを決めるぞ、ミカミとエリトリナはどこで寝るのだ?」
「私ミカミと寝るの? えー、初対面レベルの男の人と寝るのは、流石になー」
「しかし、誰かがミカミを見張っておかないとどうなるのか……」
「ちょっと待て、俺はそういうヤツじゃない。てかむしろパリスの方が危ないんじゃないのか?」
「何だミカミ、やるのか?」
「まーまー、二人とも。ここはとりあえず、じゃんけんで決めようよ」
と、拳を握る。
この世界、じゃんけんがあるのか。
「じゃんけーん、ポン」
◇
「何で俺がパリスとなんだよぉ!」
「うるさい。さっさと寝ろ、こっちはお前と違って疲れているのだ。それに、近所迷惑になる」
床に布団を敷きながら、パリスがそう答える。
じゃんけんの結果、俺とパリス、ネウレアとエリトリナという組み合わせになった。
「はぁ、お前間違って襲うなよ。あいにく俺は抵抗できるほどの力なんて無いし、眠りが深いタイプだから、お前がイタズラしようとしても気付くこともできない」
「なるほど。お前が寝たら、この短剣で刺せば簡単に暗殺できるということだな」
「するんじゃねぇ。やろうとしたら大声で『パリスに性的なイタズラされた!』って叫んでやるからな」
「声がでかい! ミカミに何してないからな!」
パリスは敷き終えた布団に、やれやれと言うような顔で入る。
「いいかミカミ、指一本触れてみろ? その瞬間お前の両手の指全ては吹き飛ぶ。わかったな?」
「誰かー、パリスに脅されていまーす! 助けてくださーい!」
「脅しなどではない! というか、お前が何かをしようとしたらの話だ! その場合はしっかりとした正当防衛になるのだ!」
「それは過剰防衛な。というか、お前に触りたがるような奇特な性癖を持つヤツなんてこの世の中に存在するのか?」
「うるさい! 私のことを好きになるような人は……一人くらいはいるはずだ……はずだ」
だんだんと声が小さくなり、やがてうつむきながら、ボソボソと独り言を呟き始める。
あ、地雷だこれ。
しばらくして向き直り、
「と、とにかく私はもう寝る。何かしようとしたのならば、お前は一生後悔することとなるだろう」
「なになに、一生後悔するようなそういう目に逢わせるだって?」
「だから、お前はどれだけ欲求不満なのだ!」
「なんだよ『そういう目に』っていうのは別にエロいこととかじゃないって。むしろパリスこそムッツリなんじゃあないのか?」
「やかましい! もう何時だと思っている!」
「そうそう。二人とも何時だと思っているの。パリスとミカミさん、一緒に盛ってないで、さっさと寝ないと……ね?」
ドアを開けて影のある笑顔を浮かべるのは、杖と包丁持ちのネウレアを連れたエリトリナだった。
「え、エリトリナ、違うんだ。これはミカミのせいで……」
エリトリナはネウレアに「ちょっと下で待っててね」と告げ、杖を両手で握り締める。
「パリス。ミカミさんも悪いけど、何気に一番騒がしいのはパリスだよ。まぁ、二人とも連帯責任だからね」
「ま、まってくれエリトリナその詠唱は! おいミカミ、お前も謝れ! これは本当にマズイ!」
「お、おいパリス、これは何の詠唱だ? 聞いたこと無いが、ヤバいヤツなのか?」
「とびっきりの魔法だ。それも昔は捕虜に情報を吐かせるために使われていた最悪の尋問魔法で、これを受けた人間は必ず精神が崩壊すると言われていた……」
「ちょマジか! ごめんなさい、許してください何でもします! ほら、パリスも土下座しろ!」
パリスの頭を掴み、無理やり土下座をさせようとするが、
「おい、何をする! 止めろ! お前の住んでいた地域でそれは何を意味するのかわからないが、それは女性に対してやってはならないものだ!」
「え、マジで?」
さっきまで、形だけでも笑顔だったエリトリナの顔は次第に紅潮していき、真っ赤なだけの真顔になる。
「エリトリナ、頼む! コイツは世間知らずだから許してやって欲しい! ミカミ、詠唱を止めろ! 終わり際だがそれしか方法は無い!」
「パリス、ミカミ。それじゃあ二人とも、お休みなさい!」
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」」
一生忘れられない夜になった。
次回もよろしく!




