第16話 ヤンデレに「攻め」と「受け」という概念がそろそろできるのではないかとか思っている
アメスと名乗る男はソファーを陣取り、ご機嫌な様子でリビングに入ろうとした俺達に挨拶をする。
「ネウレア、コイツ知り合いか? というか、お前独り暮らしって言ってたから家族ではないと思うけど、当たり前のように居るから親戚な何かか?」
と、聞きながら見下ろすが、ネウレアは居ない。
「ちょっ、待てネウレア! ミカミ、ネウレアを止めろ!」
パリスの声でアメス(自称)の方を向くと、ネウレアはアメスの元へ走り込んでいる。
そして、テーブルを飛び越えアメスをそのまま押し倒し、懐から包丁を取り出す。
あとはもう想定通り。
興奮した表情のネウレアがザクッとアメスの腹を突き刺す。
「おい、ネウレア! エリトリナ、今すぐ救急車を!」
「キュウキュウシャって何!? それよりも早く行って治療しないと! でも、ネウレアちゃんに刺された人はまず即死だから、治癒魔法が効くのかどうか……」
遅れてアメスの元に駆け寄るエリトリナが顔を青くする。
返り血を浴びたネウレアはその場を離れず、しばらく眺めた後、
「なかにだれもいませんよ」
更に二、三回アメスの腹を刺す。
まずい、このままでは冗談無く(いろいろな意味で)取り返しのつかないことになる!ネウレアが包丁を振り上げた時を見計らい、ネウレアの細腕を両手で掴む。
「ネウレア、止まれ! なんでこんなに力が強いんだよ……」
しかし、見た目やステータスに似合わないようなとてつもない力で振り払われ、思わず離してしまった。
コイツ、どこにそんな力が!
「エリトリナ、まだ息がある! もしかしたら効くかもしれないから詠唱を始めてくれ! 私とミカミはなんとかしてネウレアを止める!」
「わかった! ……ねぇパリス、この人の傷がだんだん修復してきてるんだけど」
傷が修復している?
先ほどまでモザイクを必要とするほどのグロ状態に陥っていたアメスの腹。その腹の傷が徐々に塞がっていき元通りになりつつある。
そして、何事も無かったかのように起き上がり、
「ゴホッゴホッ、いやぁひさびさの包丁は効くなぁ。こんなに素晴らしい経験ができるとは、旦那様に感謝をしなければ」
「「「しゃっ、しゃべった!?」」」
「いや驚く所そこじゃないよね! さっきまで当たり前のように話してたでしょ! ……申し遅れたね。ボクはアメス、人形さ!」
名前こそさっき言っていただろ。
……ん? コイツ自分のことを人形と言ったか?
それはつまり、どういうことなんだ?
「ボクは昔、旦那様に作られた不死人形。とある魔法をかけられ、魔力だけで生きている元死体。ということで、今日からよろしく!」
「いや、よろしく! じゃねぇよ、ツッコミ所多すぎるだろ不審者人形!」
「おやおや、不審者人形ってそれは不審者の人形だろ? 不審者というより、ボクは不審物、もしくは不審人形と呼ぶべきなんじゃないかな?」
「呼び方なんてどうでも良いだろサンドバッグ」
「待って、ボクは人形であってそういった道具ではないからさ、ボクを傷つけていいのはヤンデレだけなんだよぉ」
何コイツ。
◇
詳しく話を聞くと、コイツは『旦那様』と呼ぶ魔導師に魔法を掛けられ甦った、元死体なのだそう。
ここに来た理由はネウレアの調査のためらしい。
そして、ヤンデレが大好きでヤンデレに刺されることを生き甲斐としているのだそうだ。
刺されることが生き甲斐とか、よくわからないが……
「そういうこと。さて、場も収まったしそろそろ寝る場所を決めようかな」
「場なんて収まらねぇよ。不法侵入してヤンデレに刺されることを喜ぶ変態となんて居られるか」
「そんなことを言われても、ボクは命令されてここにいるんだからそうするしかないよぉ」
「お前の都合なんて知らねぇよ。パリス、エリトリナ、アメスを放り出すから手伝ってくれ……なんで手錠なんてあるんだよ」
パリスがハイっと手錠を渡してくる。
「ネウレアが持っていたのだ。何個かあったので借りて使おう。ちなみに残りは全てネウレアを止めるのに使っている」
奥では、暖炉の柵に繋がれ目を見開き暴れるネウレアの姿が。
「パリス、それ虐待。てか、人の手錠を勝手に使って良いのか?」
「良くはないが、緊急事態だし……とりあえずアメスとか言う変態人形を縛りあげよう。手伝うぞ」
「了解。それじゃあパリス、そっちからお願い」
アメスは逃げることもなくさっさとお縄につく。
「あの、これは何かな? 外れないんだけど君達はそういうプレイが趣味……」
「「やかましいわぁ!」」
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2020年3/11(火)
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