第14話 地図にある広い部屋、扉の前の宝箱に入った大量の回復アイテムというなんとなく察してしまうボス部屋ってどうにかならないのだろうか?
「やぁぁあ!」
先行したパリスが、目の前に立ち塞がるヒメアント達を次々と切り伏せる。
そして、詠唱を終えたエリトリナは杖を天に掲げつつ、
「パリス! できたよ、下がって!」
「わかった。すぐにやってくれ」
パリスは大きくバックステップし、エリトリナはそれを確認した後、
「"フレイム・スフィア"!!」
先ほどの横穴にぶつけたものと比べ、倍以上ある火球を放つ。
当たったヒメアントは着火しながら吹き飛ばされ、巻き込まれた仲間ごと燃え上がり火の粉を撒き散らす。
「ふぅ、疲れた。パリス、炎には気を付けてね」
「何、いつものことだ。気にするな」
パリスは再度、燃え盛るアリ達に斬りかかっていった。
俺はというと、エリトリナの炎に当たらなかった横にいるアリ達を一体一体斬り捨て、エリトリナ達に近づけない。
「エリトリナ、それじゃあもう少ししたら次の魔法を……エリトリナ、後ろ!」
エリトリナが振り返った先には、一体のヒメアント。それも大きい個体だ。おそらく天井を伝って後ろを取ったのだろうか、距離的にも間に合わない。
「キャア! ――ネウレアちゃん、ありがとう!」
間一髪、エリトリナの近くにいたネウレアが凄い顔をしながらも、ヒメアントを一刺し。
「大丈夫。それに最近出番無かったから……」
あ、それ気にしてるんだ。
「ありがとう、ネウレアちゃん。帰ったら何かの魔法、教えてあげるね!」
そして向き直ると、今度は先ほどとは違う詠唱を開始した。
アリ達は奥から次々と出てくるが、炎とパリスのおかげで、ほとんどのアリは俺達もとに来ることがない。
こちらにまで来た少数のアリも俺が対処し、奥に溜まってきたら、パリスを下がらせてエリトリナが魔法を撃つというのを何度も繰り返して数時間。
「1034、1035、これが最後だ。ようやく終わったな」
パリスが最後のアリを仕留める。そして、後続が来ないのを確認した後、エリトリナが水の魔法で炎を消した。
「はー、詠唱しすぎて喉がガラガラだよ。パリス達は大丈夫?」
「大丈夫だ、なんともない。しかし、ここから出てきたアリがやけに多いな。ここの先に何かあるのか?」
「そうだな、女王がいるのかもしれないな。とりあえず休憩してから行こう」
◇
休憩を挟み、ヒメアントの大群と激闘をくり広げた空間を後にする。
やがて、俺の持ってきた松明に勢いが無くなってきた頃、今までで最も広い空間に出た 。
その奥にいるのは、何百匹もの働きアリに囲まれている巨大な白の腹を持つアリ。それが、こちらを見下ろすかのように待ち構えていた。
言うなれば、ここの巣穴のボスのようなものだ。先ほど、ネウレアとエリトリナの一連の流れを見て、思ったことがある。異世界に来たんだ。どうせなら冒険らしいことをしたい!
そして、こんな『ボスと対峙する緊張の場面』という冒険らしいことをするチャンス、滅多にないのである。
「ーー出たな、女王だ。パリス、エリトリナ、気を……」
気を引き締めて行くぞ、と言おうとした時、パリスが思い切り走り込んで行く。そして、辺りにいる働きアリ達を蹴散らし、女王目前で飛び上がり、振りかぶった剣で女王を縦に一刀両断。
体液を撒き散らしながら、女王は地に沈んでしまった。
「よし、終わったぞ。どうしたミカミ、そんな顔をして」
「…………」
……盛り上がっていた俺の気持ちを返せ。
次回もよろしく!




