第12話 横穴はハプニングに最適
「さて、休憩も済んだ。そろそろ動き始めよう」
ようやくパリスはネウレアを解放した。
あのあと、小一時間くらい抱き締めたままだったため、ネウレアも「やっとか」みたいな顔をしている。
「なぁエリトリナ、パリスってそういうヤツなのか?」
「パリスはね、昔から子供が大好きなんだ。実はネウレアちゃんが20歳ってことを知らないんだけどね」
ほう、それは良いことを聞いた。後で夢をぶち壊してやろう。
道を少し行くと、パリスが歩みを止める。
「見ろ。こんな所に道がある」
先ほど通った時は全く気づかなかったのだが、俺達の目線とは一段低い所に横穴があり、その先は更に続いている。
「この先に重要な場所があるのだろう」
「そうだな、俺達は匍匐前進しないと入れないだろうが、アイツらなら普通に通れるだろうな」
と、全員の視線が俺に集まる。
「なんだ? こっちばっかり見て」
「なんだ、わからないのか?お前が行けってことだ。適任だろ?」
普通に酷い奴らだ。
こういうときは大概向こう側に何かあり、下手をすれば即死系の罠だったりするのだ。
モブ斥候はすぐに死ぬ。
これファンタジーの鉄則。
「おいおい待てよ。パリスはその体型じゃあ確かに無理だが、別に俺以外でも良くないか? それに、レディファーストとか言うだろ?」
「誤解を招くような言い方はやめろ! その一言で読んでいる人の持つイメージが一気に変わったではないか! あと、レディファーストはそんな時に使う言葉ではない!」
と、声を荒げる。
というか、その口調のパリスにスレンダーなイメージを持つ人はどれくらいいるのだろう。
アマゾネスよりも女騎士のイメージの人が大半だと思うのだが……
というか、ろくな装備の一つも無い俺が先に行ったら、それこそ噛ませ用斥候である。
と、いうことで
「まぁでも、パリスには無理だよなぁ。パリスは後ろから偉そうに命令だけする無能権力者が向いている気が……」
「よし、ならば私が行こう! 言い訳を垂らすだけのヘタレとは違うのだ!」
かかった!
パリスはさっそく背中の大剣をエリトリナに預け身軽になり、横穴に入ろうとするのだが……
「……狭くて動けない」
「だから言ったじゃねかぁ。ほらほら、さっさと出てこいよぉ!」
「ミカミ、後で覚えておけ。エリトリナ、全然動かない、というか本当に冗談抜きで抜けない」
そう叫びながら、上半身だけ横穴に入ったパリスがもがいている。ざまぁ
だが、ここが塞がれると他に行く場所が無いので、置いていくことはできない。
「ミカミさん、どうしましょう」
「うーん、俺としてはこのまま置いておきたいけど、仕方ない。エリトリナ、岩を崩せる魔法って無いか?」
しばらく考えた後、言いづらそうに、
「あるにはあるのですが、こんな場所で魔法を撃ったら、洞穴が崩れてしまうかもしれません」
「そうか、だが仕方ない。緊急事態だからな」
「え、本当にやるんですか? もしかしたらパリスが崩落に巻き込まれるかも」
「その時はその時だ。さぁ、俺達は下がっているから」
と、ハマったパリスはジタバタしながら
「お、おいエリトリナ、何をする気だ? まさかこんな場所で魔法を撃とうとしていないだろうな?」
「そのまさかだよ」
そう言い放つと、パリスはしばらくおとなしくなった後、急に体をねじらせたりして暴れ始め
「ちょ、おい、嘘だろう、なぁ嘘だろ!? そのブツブツ言っているのは魔法の詠唱じゃあないだろうな? エリトリナ、ミカミ、ネウレア? ……おい、返事をしろ!」
「パリス、ごめん! "フレア・スフィア"!!」
次回もよろしく!




