後編
おかあさんは、おにぎりをさしだしたまま動こうとしないむすめの頭を、うしろからほたほたとなでると背中からほわりと抱っこして、そのままみんながおねんねしているお部屋を出ていきました。
居間のテーブルにむすめをすわらせたおかあさんは、つくりおきしておいたおにぎりを、おおきなおさらにたくさんのせて、だいどころから出てくると、むすめのまん前に置いて、むすめのとなりにすわります。
だけど、むすめはたくさんのおにぎりを目の前にしても、起きてこないおとうさんが気になっているのか、けしょん、と下を向いまま、おとうさんの分のおにぎりを、だいじ、だいじ、にして両手から離しません。
そんなむすめを気にしたおかあさんは、むすめの頭をほみほみとなで、むすめが手に持ったおにぎりを、まほうのことばでちいさなおさらのうえに置かせます。
そして、ふたりはおにぎりがたくさんのったおさらから、ひとつずつおにぎりを取ると、おいしそうにほおばります。
おかあさんとむすめ、仲良く向き合って、ぱっくん、ぱっくん、ほおばります。
むすめは、おかあさんより二個、多くおにぎりを食べると、ふたりは向かい合って両手を合わせて、声をあわせて、ご馳走様をしました。
おにぎりを食べ終えたむすめは、またおとうさんを起こすために、おにぎりを両手に、だいじ、だいじ、にしてみんながおねんねしているお部屋にぱたぱたと駆けて行きます。そして、おふとんのうえにちょこんとすわると、だいじ、だいじ、なおにぎりをまくらの方に向けて差し出します。
でも、やっぱり、おとうさんは起きてきません。おかあさんは、起きてこないおとうさんに首をかしげるむすめを、うしろからほわりと抱っこすると、かなしそうな顔をしながら、みんながおねんねしているお部屋を出ていきます。
その後も、むすめはおとうさんの分おにぎりを、だいじ、だいじ、に持っては、なんどもなんどもみんながおねんねしているお部屋にぱたぱたと入って行って、なんどもなんども、ちょこんとすわって、まくらの方に向けて、おにぎりを差し出します。
おかあさんと遊んでても、ごはんをふたりで仲良く食べてても、忘れ物をしたかのように、おとうさんを起こしに行きます。
その度におかあさんは、むねの辺りがきゅっ、てなって、それでも、なんどもなんども、うしろからほわりとむすめを抱っこします。
……おそとはすっかり暗くなりました。それでも、おとうさんは起きてきません。むすめはひとり、暗くなったみんながおねんねするお部屋で、ちょこんとすわり、あきらめないで、おとうさんを起こしに来ます。
その健気なうしろすがた見るたびに、おかあさんはとても可愛くも、せつなくなります。
だけど、こんどはおかあさんはむすめをほわりと抱っこしません。
え? どうしてかって?
それはね、そろそろ……
ほら!!
玄関から聞き覚えのある、大好きな声!
みんながおねんねしているお部屋で、健気にすわっていたむすめは、手に持ったおにぎりを、だいじ、だいじ、に急いで玄関に走っていきます。
そこに立っていたのは……大好きなおとうさん!! むすめは、大喜びでおとうさんに抱っこを求めます。
おとうさんは、まなむすめを片手で抱っこすると、今日いちにち、一緒に居られなかったことを、むすめに、ごめんなさい、します。
むすめは、おとうさんをにこにこ笑顔で、いいよ、というと、だいじ、だいじ、にしていたおにぎりを、おとうさんの目の前に差し出します。
おにぎりは、すっかりつめたくなっていましたが、おとうさんはそれを、とてもとてもおいしそうにほおばります。
そのしゅんかん、むすめは、ぱあっ、えがおになりました。
それを見たおとうさんも、ぱあっ、とえがおになりました。
そのふたりを見たおかあさんも、ぱあっ、と、えがおになりました。
おにぎりを食べ終えたおとうさんは、むすめを床に降ろすと、だいじ、だいじ、に手をつないで、むすめと一緒に居間に向かいます。
そしておとうさん、おかあさんとむすめ、仲良くテーブルをかこんで、たくさんのおにぎりを食べ合いましたとさ。
――めでたし、めでたし。