前編
きょーう、きょうの事でした。
あるお家に、とても仲の良いおとうさん、おかあさん、そして、とてもちっこい、ひとりのむすめが住んでおりました。
この三人はとても仲が良く、朝ご飯も三人一緒。夕御飯も三人一緒。夜寝るときも、三人一緒でした。
そんな仲の良い三人家族ですが、お昼の時間だけはおかあさんとふたりきり。
おとうさんと三人一緒になったことがありません。
……ですが今日は違います。何でかは良くわかりませんが、この日だけは一日中おとうさんといられるのを知っています。
むすめは、おとうさんといられるのが余程嬉しいのか、布団の中でもぞもぞし、いつもよりもとても早起きします。
そして布団からかおを出し、そのまま抜け出すと窓へ駆け出して勢い良くカーテンを開けます。
するとそこには、じめんには白い絨毯がしかれ、頭には白い帽子をかぶったお家がいっぱい。庭の木々は白い上衣を着ていてめずらしくも美しい世界がひろがっているではありませんか。
それを見たむすめは、何だかとてもうきうきしてしまい、急いで部屋の外へ出ると、おかあさんのいるだいどころへ一目散に走っていきます。
だいどころでは、おかあさんが朝ごはんの用意をしていました。昨日、むすめがみんなで食べたいと言ったおにぎりをたくさん。せっせ、せっせとにぎっていると、腰のところにむすめが元気良く抱きついてきます。
おかあさんはびっくりした声を出しておにぎりを落としそうになってしまいます。
おかあさんは落としそうになったおにぎりをお皿の上に置くと、むすめと目線を合わせるように床にしゃがみ、いきなり腰に抱きつかないように注意をします。
だけど、むすめはそれどころではありません。両腕をめいいっぱい広げてふりふりすると、おかあさんのうでをつかんでお外を見せてあげようとぐいぐいと引っ張ります。
おかあさんは、むすめに引っ張られるがままにだいどころを出て、居間にある窓からむすめと一緒に外を覗くと……外はさっき、むすめがひとりで見た景色とはちょっとだけ変わっていました。
まるでお空から、しんしんと音がするみたいにまあるい雪がたくさん舞い降りて来たのです。
それを見たむすめはもう大喜び。左手で窓を指差しながら、足をその場でふみふみして、右腕を胸のところで、ぎゅっ、とすると
おかあさんと一緒にお外で遊びたがります。
おかあさんは、むすめの頭をやさしくなでて、にこりと笑うと、おかあさんはむすめがお外で寒くならないように、まふらーとてぶくろ、そして、暖かいもこもこの上着をもって来ました。
むすめは、てぶくろを自分でつけると、もこもこの上着とまふらーはおかあさんにしてもらいます。
とても暖かくなったむすめは、元気良く玄関に駆けていくと、取っ手をがちゃがちゃと回します。
急いであとを追いかけてくるおかあさん。背中からほわりとむすめを抱っこすると、取ってをかちゃりと回して庭へ雪遊びに向かいます。
おかあさんは、白いじゅうたんにむすめを降ろすと、むすめは、きゃっきゃっ、きゃっきゃっ、と楽しそうにあしあとをつけていきます。
むすめは、白いじゅうたんから雪を取ると、両手できゅっ、きゅっ、とまるめてゆきだまをつくると、それをおかあさんに投げてみたり、お空から舞い降りるまあるい雪を大きな口を開けてほおばってみたり、白いじゅうたんを両手でお空にきらきらと舞い上がらせてみたりと、とても楽しそうにあそんでいました。
……おかあさんとふたり、とてもとても、楽しそうにあそんでいました。
それなのに、むすめは何かに気づいたかのように、お家の方を見つめます。
そして、むすめは忘れ物をしたかのように、おかあさんを置いて家の中に戻っていきました。
おかあさんは急いでむすめを追いかけ家の中に入ると、むすめはだいどころにつくりおきしておいたおにぎりをひとつ手に取り、みんなでおねんねしているお部屋に走っていきます。
むすめはみんながおねんねしているおふとんの上に、正座するようにちょこんと座るとまくらの方に向けて、手に持ったおにぎりを大事そうにさしだします。
いつまでも、おねんねしているおとうさん。
いつまでも、起きてこないおとうさん。
むすめは、そんなおとうさんを起こしに来たのです。
大好きなおにぎりをあげれば、起きてくると思って……
そんな可愛い姿を、後ろから見つめるおかあさん。むねがきゅう、となります。
……でも、おかあさんは知っています。おとうさんはいつまでたっても起きてこない事を……。