第8話 「未知との遭遇」2
俺の姿を見て気絶してしまった女性をそっとソファーに運んだ
勿論埃は念入りに払ってからだ
(そうだ、水を用意してあげなきゃ)
目を覚ました時にまた怯えられてしまったら話を聞くどころじゃない
キッチンに向かうとコップを探した
汚れてはいるが1つまともなコップを発見したので水を…
(水道がない…)
考えたらこのキッチンには水道どころか流し台もない
(もしかしたら井戸とか?)
目覚めた直後よりは体も動く様になり
多少ぎこちないが廃屋から出て辺りを見回すと
すぐ脇に古ぼけた井戸を見つけた
滑車も桶も縄も壊れかけてはいるがダメ元で動かすと運良くきれいな水を汲む事が出来た
コップをよくすすいで水を注ぎ廃屋へと戻る
ソファーに横たわっている女性はまだ目覚める気配はない
(あ、このままだと目覚めても怖がられるだけだ…)
容姿はどうしようもないがせめて会話が成立しないと化け物でしかない
立場が逆なら再び気絶するか抗って攻撃を加える事絶賛だ
女性が目覚める前に発声練習を繰り返す
「あ゛…あ゛あ゛ぉ…」
無理だっ‼
何じゃ?このモンスター語は?
こんなんじゃ自分が害のない存在などと到底思われない
全身全霊で言葉を発せられる様に努力をする
「あ゛…あ゛い゛…う゛…」
よ、良し‼何とか一歩前進だ‼
1つ1つ五十音を発声していく内に聞き辛いが何とか判別出来るレベルになってきた
「だ、だぃじょ…ぶで…しか?」
うーん、まぁ及第点か?
他人との付き合いは第一印象でほぼ決まる
第一印象は「最悪」だった
せめて(怖くないからね)と伝える為の最低限の言葉は相手を気遣う「大丈夫?」しかない
女性が目覚める前に俺は更に発せられる言葉を増やすべく努力に努力を重ねた
「た、助かった?」
あ、目覚めた様だ
「ぐ、ぐがぁぁ?」(だ、大丈夫かい?)
っ‼失敗だーっ‼
目の前の女性はみるみるうちに青ざめて恐怖と諦めの混じった表情を浮かばせる
(このままじゃダメだっ‼)
化け物として認識されたら例え会話が成立したとしても話し合いに発展する予感がしない
必死に次の言葉を紡ぎだす
「ぐ…ぐが…き、気付い…た…かい?」
(あ、何とか言葉になった)
突然言葉を発した人物?に目を見開いた女性は暫し固まったが慌てて謝ってきた
「私ったら…貴方をゾンビと勘違いしちゃって…ゴメンなさい」
少し落ち着いたのか謝罪の連呼をやめて改めて謝意を示してきた
女性が目覚める前に発声練習と共に行ったのは鏡に向かって強張る顔で必死に作った「微笑み」だ
自分が見てもゾッとするが敵意はないと示したかった俺の最上級の表情だ
その表情は効を奏し女性もぎこちないが微笑みを返してき…?
ーポロっ?ー
自分の体から何かがボロッと落ちた
目の前のテーブルの上にはさっきネズミにかじられた「耳」が落ちていた
「な。。。何じゃこりゃーーーーーー⁉⁉」
女性がグラリと倒れる様を横目に俺は全力で叫んだ