第168話 「パージの旅路part3」
(母さん…母さん、今まで育ててくれて…守ってくれてありがとう…)
パージは事切れて物言わぬ母の胸に顔を埋めた
眉間に杭を当て目を瞑る
そして手に持った金槌を一気に振り落とした
「ただいま…」
パージは妹の部屋に戻る。
(もう物言わぬ)妹の下へ…
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」
パージは狂った、狂いながら妹の眉間に杭を打った
それからどれ位時間が経ったのかは分からない
家族の最後を見届けた後、自分で断つ筈だった自らの命…正気を失っていた為にパージはゾンビとなっていた
パージはフラフラと家を出る
そこかしこにパージと同じ「断ちきれなかった」動く屍がフラフラと動いていた
(俺…は…何故…こんな…)
朦朧とした意識で考えようとするが纏まらない
ただ他のゾンビと違ったのはパージは「食事」を摂らなかった
それにより違いが出た事をパージも他の元村人も気付く事はなかった
一度人肉(遺体)を貪れば思考は更に濁り続ければ一切の思考を手放してしまうらしい
最初の頃は沸き上がるカニバリズムの衝動と葛藤していた様に見受けられていた元村人も日を置くと躊躇いなく元家族を貪っていたのだ
パージは鈍る思考を何とか纏め固く決意する
(誰も傷付けず(食べず)に朽ちよう)
この決意は新たな「違い」を産み出した
欲望の赴くままに貪っていた元村人ゾンビがどんどん腐敗が進み活動を停止していったのだ
元々消化も吸収もしない体に腐肉を入れ(食べ)たら腐敗が一気に進んだのだろう
一方パージは食べておらず腐敗は最小限に抑えられていたが乾燥が進み所謂ミイラ化が進みつつあった
どちらにせよ先のない命(?)には変わりがなかったのだが。
1人、また1人と村人ゾンビは倒れていく。
もう村には食べるモノがなかったが移動する知恵も腐敗を防ぐ知恵もなかったのである
そしてパージは「1人」になった
明けても暮れてもパージは自宅とその周辺を徘徊する
まるで生前の記憶を思い出す様に
死ぬ事も叶わず生きるに値しない存在…パージは濁る思考で結論を出したのだ
そしてそんな絶望の淵をさ迷っていたパージに一筋の光明は突然やって来た
「…こんにちは?」
「グ…グガァ?」(誰だ?お前は?)
「…俺の言ってる事、分かるかな?」
「グガァ」(分かるけど)
パージはカズヤという「仲間」と出会い「神様」と通じ限りなく「元のパージに近い」存在となった。
幼馴染のノアとも再会し、声と思考を取り戻し朽ちる事もなくなって職すらも得る事が出来た
更に嬉しかったのは母や妹、そして村人の殆どを墓地に埋葬し供養出来た事だ
墓守という仕事を与えてくれたカズヤが真っ先に提案してくれたのだ
「パージの家族とか供養してあげたら?」と
カズヤには返し切れない程の恩を受けた
パージは今日もまた墓地の掃除に出掛ける
明日も明後日もずっとこの生活は続いていくのだろう。




