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魔女が来る!  作者: うちだいちろう
1.魔女と虫と森の中
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魔女は出撃する 1-5

 真っ暗な道なき荒野を、蜘蛛の背中に乗って揺られること数時間。すっかり夜中と言える頃になって、あたしは現地に到着する。


 見た目はただの森と荒野の境目、といった感じで、目を引くような目標物などは何もない。

 ここに来るまでの道中でも、何の異常も異変もなかった。


 繰り返すが、今回は蜘蛛の背中に乗ってここまで来た。武装を彼等に付けたまま、召喚や送還はできないのだ。装備を付けた状態のまま消す──召喚を解除すると、装備だけがその場に残されてしまう。なので、蜘蛛達を引き連れ、あたし自身も騎乗、というか蜘蛛上(?)して、荒野を爆走してきたと、そういう次第である。

 こうしないと、いちいち装備をトラック等の車両に満載して、あたしがそれを運転して移動。到着したら蜘蛛達を召喚してあたしが装備を付けて……とやらなきゃならない。そんな面倒な事やってられっかという話だ。

 車両の運転も装備も、それ用の人員を引き連れて……という手もあるが、大所帯だとどうしても動きが遅くなるし、機密任務である関係上、現場に携わる人間はできれば少ないほうがいい。

 そんなこんなで、この方法が今回はベストと言えた。

 装備を積んだ状態でも、体感で時速五十キロ程で走れたので、時間的にも、車両を使った場合と大差なかったろう。蜘蛛達は基本的にタフで疲れを知らない。

 あたしの方はといえば、ただ乗っているだけだから、仮眠もできて言うことなしだ。


 ここまでの道中が荒野しかなく、人目を気にしないで良いというのもあった。

 こんな物騒なモノを積んだ大型の蜘蛛達を引き連れて街中を疾走したりなんかしたら、パニック間違いなしである。これ以上、あたしの、虫の魔女の変な悪名を広めるわけにはいかない。重要事項だ。既に遅いという意見もあるが、知ったことか。


 蜘蛛の背から降り、うーんと伸びをひとつ。

 来る前に見せられた、何事かの異常が発生している、と諜報第四班が予知したのが、このあたり、目の前に広がる森の中のどこか、である。地図でも確認したが、間違いない。


 さて、一体何事が起きているというのか。

 毎度の事だが、そこまで詳しく予知の言葉は出ない。実際に確かめるのが、あたしの役目だ。位置もアバウトだから、後は自分の目と足と腕っぷしが頼りという事になる。あたしの仕事は、いつもこんな感じ。


 腰のホルスターに差したソウドオフショットガンを一度抜いて残弾と動作を確認。同じく腰のパウチの中にある爪を入れた小瓶やナイフ、予備の弾、両手の指の付け根に巻いた髪の毛、その他もろもろを一通りざっと見て、よし、と頷いた。

 一応自動小銃くらい持っておこうかとも思ったのだが、今回は蜘蛛達の装備があるのでパスだ。

 最後に、一体の蜘蛛の側に寄り、台座の上に銃と並んで置かれた無線機のレシーバーを手に取ると、スイッチを入れた。


「こちら認識番号2431462、目標地点に到達。これより行動を開始する。オーバー」


 レシーバーのボタンから手を離して待つこと数秒。


「了解。現時刻を起点として2431462の任務行動の開始を記録。任務の無事達成を祈る。オーバー」


 味も素っ気もない、事務的な返答が返ってきた。

 一応、これから任務遂行のための実行行動に入る、という際には、このような連絡を入れることが望ましい、との規則がある。が、なし崩しにいきなり行動を始める場合も多い。昼にトカゲと戦闘になった場合なんかがいい例だ。そしてあたしの場合はないのが殆どだったりする。別にしなくてもお咎めはないのだが、今回は今の所まだ余裕があるのでやっといた。こうしておけば、より正確に、あたしの行動が記録として残るという寸法だ。後で提出する報告書の行数も少しは減る。これ大事。


 無線機本体にレシーバーを戻すと、あたしはあらためて森へと向き直った。

 人工的な明かりなど何ひとつないこの場所においても、森はなおも深い暗黒のシルエットとなって、目の前いっぱいに広がっている。


 ガルムデル大樹海。総面積はざっと六百万平方キロを超え、複数の国や地域の境界となっている。あまりに過酷でデタラメな環境は、人の手による開発をこれまで数千年単位に渡って退け続けてきたという、まさに魔境である。緑の地獄という通称は、大げさでもなんでもない。

 あたしも何度か入ったことはあるけれど、せいぜいちょこっとその辺まで、というレベルでしかない。過去には複数の国が全面バックアップの上で大規模な探検隊を何度も奥地に送り込んだようだが、結果はどれもこれも全滅かそれに近い惨憺たるモノだったという記録が残っているだけだ。


 ──人が手を出すべきではない領域。


 そう締めくくられた報告書はあたしも読んだことがあるし、実際にそんな風に思っている人も多いだろう。

 これからあたしが向かうのが、まさにその真っ只中である。まあ、奥の方にまで行く気なんてないけどね、もちろん。


 背後に目をやると、そこに居並ぶのは言うまでもなく、あたしの蜘蛛達。

 今の所は、全部で十二体召喚している。

 うち八体が、背中に銃座を乗せた戦闘用。武装は軽機関銃とグレネードランチャーという点は変わらない。各個体の特性に合わせて、機関銃が二丁だったり、グレネードランチャーと一丁ずつだったりする。あと、小型だが強力なサーチライトも追加されていたが、これは点灯すると目立つので、今は消している。必要な時だけ使う予定だ。

 銃座ではなく、カーキ色のコンテナボックスを積んでいるのも二体いた。中身は主に予備の弾薬と、その他もろもろだ。ロミルとスタッフ達が実に良い笑顔でこれでもか、と各種色々詰め込んでくれた。

 残りの二体は、何もない素である。彼等は斥候と、弾薬補充のアシスト役だ。弾倉の交換も教えたらできたので、それならばと、彼等に任せる事にした。本当に器用であたしは助かる。


 一通り蜘蛛達を見渡すと、自然と口元に微笑が浮かぶ。不安はない。あるはずがない。

 あたしは虫の魔女。我が存在は、常に彼等と共にあるのだから。


「じゃあ、行こうか」


 まっすぐに、歩き出す。

 さーて、今回は一体何が待っているのやら。

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