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魔女が来る!  作者: うちだいちろう
1.魔女と虫と森の中
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魔女は共に戦う 4-9

「見ての通り、私達は大勢の生物を配下としています。操っているとはいえ、生物というものは生きるために食事が必要です。大量の配下を生かすためには、大量の食料も必要で……その点このガルムデル大樹海は便利と言えるでしょう。ほぼ無尽蔵ともいえる生命の宝庫です。私達の配下も好きなだけ増やせますし、食料もその都度用意できます。そして食料は、別に生きている必要などありません」


 ジアは……言った。聞きたくもないような事を。


「死んだ軍人さん達は、もう全て食料として配下達が消費しました。あなた方に殺された生物も、全て食料とします。無駄にはしません。ただ腐らせて土に還すなどというのでは、あまりにももったいないですから」


 全員、返す言葉もなく、動きを止めた。

 なんでそんな事を、この姉妹は平然とできるのか。

 到底、理解はできない。できるわけがない。


「貴様ァ!!」


 ついに激情を噴出させたレグゼムが、叫びと共にジアに小銃を向ける。

 が、その射線の前に自ら進み出て立ち塞がったのは、他の誰でない五人の仲間達だ。


「……ぐ」


 唇を噛むレグゼム。彼は引き金を引けない。


「こちらの五人が、皆さんへの贈り物です。ご自由に殺し合って下さい」


 サラリと、ジアは言った。実に簡単な事のように。


「どうして……」


 ミディオレが、前に進み出る。足は震え、瞳は涙ぐみ、声も揺れていた。それでも彼女は訴えた。


「どうして貴女は! こんな事ができるんですか!? こんな事をして楽しいんですか!?」


 ジアの視線が、ミディオレを向く。ミディオレもそれを、正面から受けた。


「楽しいですよ、とても……」


 両手を胸に添え、まるで今の雰囲気にそぐわない、優しげな顔をするジア。


「私は今、とても楽しいです。やっと……妹と二人、誰にも束縛されず、悩まされず、自由に生きていける……それだけの力と場所を手に入れたんです。私と妹のメリエは今、この時のために生きてきた、そう言っても過言ではありません。ですから、私はとても楽しいです。幸せです……」


 嘘を言っているとは思えない。誰もがそう感じてしまう、慈愛の籠もった表情、雰囲気だった。

 これもまた、ジアという女の姿なのだろう。理解なんて、到底できはしないけれど。


「……もし、この贈り物が気に入ったのであれば……」


 ジアが表情を消し、口元に薄い微笑みを浮かべる。


「次は是非、私達の所まで来て下さい。私だけ皆さんと会うのは狡いと妹が申しておりまして……次は妹共々、お会いしたいのです。それをもって、最後の場としましょう」


 最後の場、とジアは言った。


「決着をつけるって事?」

「はい。大分配下も増えてきましたから、私達もひとつ所に留まると少々不便でして。できるなら手早く片付けたいのです」

「……ああそう」


 自分達が負けるなんて毛ほどにも感じてないな、こいつら。


「私達の所に来るというなら、邪魔はしません。逃げると言うなら、追い詰めて捕獲、もしくは殲滅します」

「いいよ、わかった。姉妹揃って叩き潰して泣かせてやるよ」

「まあ……それは楽しみです……ええ……うん、そうね……妹も楽しみだと言っています」


 水晶の塊を耳に当て、妹と会話しているようだ。


「では、私は一旦これで失礼させて頂きます。こちらの五人との殺し合いは、そちらの準備が整い次第始めて下さい。それに合わせて動かしますので。それと、私達の所には、夜明けまでには来て下さいね。場所はわかるようにしておきます。来ても、来なくても、夜明けになったらこちらは動きます、そのつもりで。それでは皆様、ごきげんよう」


 言いたいことを告げ終わると、本当にジアは輿を猿達に担がせ、去っていった。あれだけいた他の猿やトカゲ、フクロウなんかも姿を消していく。


 さほど時を置かずに、この場にはあたし達三人と、物言わぬ五人の男達が残された。他に目につくのは……大量に転がる猿やら何やらの死体だけである。ひどい光景だよ、まったく……。


 操られている五人はもちろんだが、レグゼムとミディオレの両名も、先程から全然喋らず、黙ったままだ。

 死体に溢れた空間に満ちる沈黙……まるでこの場に生者がいないみたいじゃないか。


「……レグゼム」

「なんだ」


 あたしはレグゼムに話しかける。奴はこっちに振り返りもしない。


「なんだったらあたし一人で──」

「だめだ」


 言葉は途中で遮られた。ようやくこっちに向けられた瞳に浮かぶのは、年相応の、疲れたみたいな色。


「これは、俺達でやる」

「……」


 今度はあたしが、言葉に詰まった。


「ええ、そうです」


 別方向から、ミディオレの援護射撃。


「私達でなければ……ならないんです」


 泣きそうな顔でそんな事を言われたら……選択肢、ないよなぁ……。


「……わかった。でも」


 ため息をこらえて、これだけは告げておく。


「万が一あたしが危ないと感じたら、問答無用で援護するからね」

「ああ、でも──」

「わかってる。援護以上の事はしない。約束する」

「……すまん」

「いいって」


 さっさと回れ右して、その場から立ち去った。やや離れた所の木に背を預け、彼等を眺める。蜘蛛達も周囲に散らせ、同様に距離を取って待機させた。


 そうして……またいくばくかの時が流れた後、殺し合いが始まる。

 第六偵察小隊の仲間同士での、容赦のない、命の奪い合いが。


 あたしはただ、それをじっと見守っていた。

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