表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/45

第7話 パニック・ビーチ

最近投稿遅くて申し訳ないです。

ブクマが減る悲しみよ…。

今回は砂浜が舞台ですね。いやぁ、実は私はB級パニックホラー好きなんですよ。ええ。


 川に沿って下って行くと次第に水が濃くなっていく感じがした。少しだけまとわりつく様な潮の香りに海を感じる。


 海が近付き、淡水と海水が混ざり合う。

 川の流れに乗って下り、海の波に流された先の海岸に砂浜があるはず。

 でも流石に水流に乗って移動するなんていう愚かな事はしない。海に放り出されたら魚の餌になるだけだろうしな。

 海老で鯛を釣る、なんていうことわざがあるくらいだからきっと鯛は甲殻類が好きに違いない。俺は正に甲殻類だ。ごちそうが海にダイブするようなものだ。

 …あかん。海って実はかなり危険だったりする?


 いやいや、海にダイブしなければ良いだけの話さ。イージーな話さ。はははは。

 …は、はは、…はぁ。早く砂に潜りたい。奥深くまで潜りたい。



 とはいえ獣にさえ会わなければわりとどうとでもなるようだ。流石はスピードスタースナガニ。え?あのでかいカニどうしたって?小足見てから回避余裕でした。



 えー、右をごらんください。沖の方までせり出した岩礁地帯でございます。

 えー、左をごらんください。細かい砂が敷き詰められた砂浜でございます!新たなマイホームでございます!ビーチに家作るって素敵だよね!

 まぁ、言うても景色とか見れない超竪穴式住居だけどな。

 それでもスナガニとしての本能が告げているのだ。砂に潜れと!


 本能というのは侮れない、直感とでも言い換えようか。それは知性を得る代りに人間が失った能力だと言える。スナガニである俺なら危険を察知して体色が砂に溶け込む色に変わったりする。

 ほら、こういう風に黄褐色に変わるんだぜ、凄いだろ?

 ……あれ?今色変わってんな?ん?もしかしてヤバいの居る系?


 とりあえず目立つ場所に居るのは悪手だ。さっさと砂場に移動して景色に溶け込むべきだろう。そしてやはり砂場に移動してみて確信した。俺の体は砂浜に特化している。馴染む、実に馴染む。

 遮蔽物の無い広い砂浜は俺にとっては舗装されたサーキットの様なものだ。そしてこの体色は砂上に溶け込んで目立たない。



 さて、砂浜に降りたは良いけど、何をしたら良いの?やっぱり穴掘り?

 なんて呑気に考えていたが、今は穴掘りが急務であると告げる物が…いや、者が視界に入り込んでしまった。


 小さなカニを襲う一回りだけ大きなカニが見えた。太い胴体に太い鋏。カニ博士でも何でも無い俺にはそれが何ていう種類のカニかは分からない。だがそんな事はどうでも良かった。


 問題はそのカニ目掛けて飛来してきた茶色い羽毛物体。そう、鳥だ。カワセミよりも一回り大きいくらいの地味な鳥。

 もう正直うんざりだ、鳥はどこにでも居るし空から一方的に攻めてくる。しかも今回の奴はクチバシがやたらと長い。あれ絶対カニ食べに来てる顔してる。

 そして案の定摘み上げられて胃袋へと収まる先程のカニさん達、漁夫の利とは正にこの事、カニ同士の喧嘩の続きは鳥の腹の中でやることとなってしまった。



 って…いや、いやいやいや、他人事じゃねぇわ。俺もカニだわ。

 とは言ってもそこまで危惧する事もあるまいて、砂上でこのスナガニと追いかけっこでもしようものなら先に心が折れるのはお前の方だぜ!

 せいぜいとろくさいカニでも摘んでな!




 なんて…息巻いていた俺の心は今…バッキバキです。

 ごめんなさい、生意気言ってごめんなさい。だから勘弁してください。

 空を仰ぎ見てる俺の目には絶望以外の物が映りません。


 あの鳥…渡り鳥だ。分かります?渡り鳥。長距離飛んで住処を移動しながら生活してる鳥ね。うん。スケールの大きい遊牧民ですよ。別に家畜飼ってねぇけど。イメージはしやすいでしょ?

 何が言いたいかっていうとね。…群れで移動してんだよ。

 何だよあの数、空の模様みたいになってんじゃねぇか。百羽くらいはいませんかね!?百名様ご案内?団体様お断りだこの野郎!


 着陸する前に穴を掘らなければ…って、ここの砂割と堅めだよ!?掘るのは時間がかかりそうだ、浅い穴だとあの長いクチバシで掘り出されて詰む!

 ダメだ、圧倒的準備不足!タイミング悪いにも程がある。



 海中に逃げ込む?

 ダメだ。唯一の取り柄である逃げ足を失う。


 一か八か穴を掘る?

 ダメだ。深く掘るまでの間に自分が狙われないなんて希望的観測に過ぎない。


 森まで走って逃げる?

 これは…割と有りかもしれない。よし、このプランで行こう!



 山の方へと行き先を定めた俺だったが、自分の決断の遅さを悔やむ他無かった。

 鳥が次々と着陸してきてしまったのだ。そりゃそうだ、鳥の滑空スピードの方が速いに決まっている。走力では勝っていても基本的には鳥の方が速い。


 山側にも海側にも、見渡す限りの砂浜を占拠し始める渡り鳥という名の悪魔の群勢。その一羽一羽が当たり前の様にカニをついばむキリングマシーン。

 俺は今、カニ生活始まって以来最大の絶望感に襲われている。



 詰んで…ませんかね?

 この体色のおかげで最後まで見つからない…なんてこと…。

 ありませんよね!ええ、分かってましたよ!後方より鳥接近!スナガニの視野が広くて助かった。まるで上から見下ろす視点のアクションRPGみたいに周りの状況が良く分かる。

 だからこそ絶望感も増し増しなんですけどね!


 頭上から振り下ろされるピッケルの様なクチバシ。見えてはいてもやはり速い。鳥の首を振る動作って何であんなに速いんですかね?

 しかぁし!来ると分かってさえ居れば避けるのは容易い事ですよ!

 華麗なステップで即死のピッケルを回避。スナガニを舐めないでいただきたい。


 まぁ、あれですよ。ここまでは良いんですよ。元々地上での追いかけっこで遅れを取るとは思って無かったですからね。

 問題は数!走って逃げた先にも違う鳥がスタンバイしてる地獄絵図。


 この全てを掻い潜り森の中に逃げこむ事が出来れば俺の勝ち。

 鳥の攻撃が胴体に一撃でも入れば俺の負け。

 いやぁ…これ…クソゲー過ぎませんかね?



 なんてボヤいてる間にも次のクチバシが振り下ろされる。

 上からホーミング機能付きのギロチンがたくさん降ってくるアトラクションだと言えば分かりやすいかな?分かりたくも無いよね?…俺もだよ。




 …いったいいくつのクチバシを避けただろうか、この小さな体で8本ある歩脚を動かしているのだからかなり消耗が激しい。

 避ける為に急停止と急発進、無理な方向転換まで繰り返し、脚を動かす力が次第に失われていくのを感じた。


 それでも止まれば死ぬのだから死ぬまで脚を動かし続けるしかない。もはや自分がどこに向かっているのかも分からなくなるほどにひたすら逃げ惑う。

 負けが確定している詰将棋、あと何手目で詰むのだろう。



 疲れ果て、とうとう脚を動かす力も尽きた時、最期の時というものは至極当然の様に訪れた。俺の身体はクチバシで挟まれ、いとも容易く持ち上がる。

 ああ…こんな終わり方は嫌だったな。



 彼女が欲しい人生だった…。いや、今はカニ生?え?待って、つまり彼女作ろうと思ったらカニの女の子探さないといけないの?

 いやぁ、元人間としてはカニと恋愛するのは少々ハードルが高いよ?

 そもそもカニって恋愛感情あるの?…はぁ、なかなかに絶望的だわ。


 あれ?てか死ぬまでの時間妙に長くね?



 そう思い冷静になって周りを見渡すと、何故か渡り鳥の群れはこちらを警戒し、威嚇しながら遠ざかって行くのが見えた。

 俺の身体を掴んでいる物は鳥のクチバシでは無かったようだ。しかし決して安心して良い物でも無かった。あきらかに鳥よりも危険なクリーチャーがそこに居た。

 クリーチャーとは言っても神話生物では無い。実在するクリーチャーだ。流石にカニ博士では無くともコイツくらいは知っている。


 地上最大の甲殻類にして地上最強の甲殻類、ヤシガニ。

 鋏の力はライオンのあごの力にも匹敵するとかいう常識外れのカニ。…いや、確かどっちかと言うとヤドカリの仲間だったか?


 そして問題なのは今正に俺の胴体がその常識外れの巨大な鋏に掴まれているという事。俺を潰すにはあまりにもオーバースペックな凶器だ。



 いや…もう…抵抗する力も無いし、騒ぐ元気も無いわ。

 抵抗出来るはずもねぇけどな。鳥では無くヤシガニに食われるのか。俺からしたら捕食者が変わっただけの話でしか無い。



 …しかしこのヤシガニ、なかなか俺を食べようとしない。

 それなら悪足掻き…もとい命乞いでもしてみようか。

 最後の力を振り絞り、自分の小さな鋏脚をヤシガニの巨大な鋏脚に打ち付ける。一定のリズムを刻みながら何度も叩いた。


 ・ ・ ・ ー ー ー ・ ・ ・


 三回短く叩き、三回長く押さえ付け、また三回短く叩く。

 最も有名なモールス信号。SOS。救難信号だ。

 もちろんこれしか知らないし、ヤシガニに通じるはずも無い、ただの悪足掻き。

 後はこのヤシガニの気分次第、文字通りの神頼み。


 はぁー、もう、疲れた。


 これ以上はもう、何も…できな…い。



 ……… ……… …… … …





 っは!どうやら少しの間寝てしまったようだ。寝たというより気絶してたのかな?まぁ、それは置いといて、ここは…あの世だったりする?

 うーん、地獄では無いよなぁ、潮の香り漂うのどかな浜辺だもんなぁ、どっちかと言うと天国…かなぁ?え?違う?……さっきまで居た砂浜じゃん!


 え?俺生きてる?渡り鳥は!?……居ない、セーフ。

 ヤシガニの姿も見当たらない。もしかして…SOSを理解した?あのヤシガニも元人間だったりするのか?ヤドカリに続いて二人目の元人間との遭遇だった?


 あー、いや、待てよ。ヤドカリ?ヤシガニはヤドカリの仲間だよな?もしかして…あのヤシガニ、あの時のヤドカリが進化した…とか?

 あの時のアンティークカップのお礼をしてくれたのかな?何だよ、意外と良い奴じゃないか。もっとちゃんと話してみたいものだ。喋れねぇけどな。



 というか…だ。…ズルくね!?オカヤドカリからヤシガニって!最強進化じゃん!俺なんてサワガニからスナガニなんですけど!?


 はぁ…もういいや。今のうちに穴掘ろう。穴に引きこもろう。



ヤドカリさんは3つ目の進化でだいぶ大きくなりましたね。

スナガニ君の次の進化にも期待して欲しいです。もうちょっと後になりますけどね。

次は急展開、結構大事なお話になる予定。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ