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ヤドカリ少女 2

時間が開いてしまい申し訳無いです。

ちょっとずつでも書いてはいたのですが色々と大幅に書き直してたりとかしてました。

ヤドカリの話はややダイジェスト気味にお送り致します。



 気が付くと私は磯の香りがする波打ち際に居た。岩が多く、打ち付けられる波が優しく分散されていく。天然のテトラポッドの様だ。

 岩に出来た窪みや岩と岩の間に出来た窪み等にたくさんの水溜まりが出来上がり、これまた天然のプールといった様相を呈している。


 私はいったい何に転生させられたのだろうか、視界だけはやたらと良好で真横から真上まで見渡せる、とりあえず近くに危険な生物は居ないように見える。

 代わりに視界の中には自分の物だと思われる脚が見えた。これは甲殻類?成体からのスタートなのは安心したけど、いったい何の生き物だろう。

 私が自分の事を知ろうとした時、何も無かった空間に突如としてゲームのステータス画面の様なウィンドウが現れる。異世界にやってきて始めてのファンタジー要素だ。


【ホンヤドカリ サイズS】

【磯に生息する小型のヤドカリ】

【腹部に身が詰まっており濃厚な味がする】

【小さく可食部位が少ない為素揚げや塩辛がおすすめ】



 何…これ、私のステータス?ううん、違うよね。だって、自分の調理法についての説明なんて…こんなのただの食材扱いじゃないか。


 食材…そうか、私は食材なんだ、クラスメートは皆私を食い殺そうとしてくるはずだ。けっきょく私は食材なんだ。そう思うと体に寒気が走るのを感じた。

 もう…やだ…もう…むりぃ…隠れたい、引きこもりたい。



 そんな時、背中に感じる確かな安心感、そう、貝殻だ。

 ヤドカリのヤドは自前の物じゃ無いから転生時には持っていないかもと思ってしまったが、これは一安心。しかも自分の体がすっぽりと入る収まりの良さ、滑らかかつ厚みのある素晴らしい巻き貝だ。

 分かる、これは本能で分かる。このヤドは極上の仕上がりだ。

 転生時に私の為にあつらえてくれたのだろうか?転生特典にしてはショボいけど、今は自分専用のシェルターに感謝したい。


 貝殻の中に身を潜り込ませ、これからどうするかを考える。

 それにしても…落ち着く。個室に引きこもりながら家ごと移動出来るなんて、陰キャラな私としては案外馴染んでしまいそうで嫌になる。

 本当の家に…帰りたい…。



 ◆  ◆  ◆



 それから何日の時が経ったのだろうか、辛い事ばかりであまり語りたくは無い。


 せっかく手に入れた極上の貝殻は、その日のうちに他のヤドカリに奪われた。

 引きずり出された私の前にあったのは強盗ヤドカリが持っていた穴だらけの貝殻。被ってはみたけど、内部は荒れているし、すきま風も吹き抜ける。

 ヤドカリって…もっとヤドカリ同士仲良く出来ないものだろうか。


 …仲良くなりたい、そう言ってはみたものの、ここまでは望んでいないと思う事件もあった。人間だったら重罪だと思う、ヤドカリにも警察とか居て欲しい。

 急に雄のヤドカリに持ち上げられ、拉致されそうになったのだ。

 最初はクラスメートにバレたのかと思って焦ったが、どうやら違うらしい。

 私を雌としてキープしているのだと気付いて慌てて逃げた。ええ、流石に逃げますよ。


 クラスメートといえば、意外にも誰とも会う事は無かった。

 と言うか、どの生き物がクラスメートなのか分からない上に会話が出来ないのだから確認しあう事も出来ない。小さい生き物を普段から観察でもしていないかぎり違和感なんてそうそう気付かないものなのかもしれない。




 と、まぁ…色々あって私は今ホンヤドカリからオカヤドカリへと進化している。


【オカヤドカリ サイズS】

【陸生の中型のヤドカリ】

【腹部に身が詰まっており濃厚な味がする。量は少ないが刺身でも美味しい】

【塩茹でや塩辛にするのが一般的】


 進化なんていうシステムがあった事には驚いたけど、陸生のオカヤドカリに進化出来た事で陸での活動がしやすくなったのは有難い。

 進化先は選択式で、やっぱり海よりは陸の方が良いと思い名前に丘の文字が入ったオカヤドカリを選んでみた。というか、もう一つの進化先のヨコバサミっていうのが何なのか分からないから怖かったっていうのもある。



 と、なれば陸を探索してみたい。出来れば海辺からは離れた所に拠点をおきたい。

 海というか…タコのいない場所に行きたいのだ。触手で絡めとられて頑丈な歯で甲殻類をバリバリと砕いて捕食する所を何度も目撃してしまった。

 私が生きているのは運が良かっただけだと思う。タコ怖い。


 タコだけじゃない。海に逃げ込んだカニが大きな魚に食べられたのも見てしまった。シマウマみたいな縞々模様の魚、名前なんて分からないけど魚も怖い。


 人間だった頃は分からなかった。命という物はこんなにも軽く失われ、なおかつこんなにも重い物だったなんて。




 今は自分が生き残る事で精一杯。元々人間だったのだから陸の方が安心感があるというものである。

 とは言え私は今はヤドカリ、陸を攻めるにしてもたまには水を補給したい。という事で川沿いを歩いてみる事にした。それなら川沿いを戻れば最悪元の場所には戻れる。



 実際に行動を起こしたのはサイズがMになり、身体が硬化した後だった。

 というのも、脱皮は済ませた後の方が安全だと思ったからだ。それにしても…普通のヤドカリってこんなに成長早いのかな?

 まぁ、私は別に生き物博士でも何でも無いのだから考えるだけ無駄だろう。




 そうしてしばらく川沿いを歩いていた時、ふと…奇妙な音がするのに気付いた。

 カッ…カッ…と、硬い物を硬い物で叩いている様な音。

 それだけなら気にはならないのだが、妙にリズミカルなのだ。


 音のする方に目を凝らすとそこには花柄をあしらった綺麗なアンティークカップが置いてあるのが見えた。そして、何故かそれを叩くサワガニも居る。

 私はその叩き方に既視感を覚えた。…あれはスマホのタップ操作に似ている。あ!今スワイプした!間違いない、元人間だ。サワガニの生態なんて知らないけど、あれは元人間に違いない。カップをスマホと間違う程にスマホ依存性だったのだろうか?


 とりあえず敵意があるかどうか分からない以上は見付かるのは不味い、死角に移動して速やかに立ち去ろう。


 ……でも、あのカップは綺麗だったな、頑丈そうだし、軽そうだし、滑らかだし、私の体にピッタリなサイズなんじゃ……あー、そう思うとヤドカリとしての本能が疼いてしまう。

 ちょっとだけ近付いてみようか、あのサワガニからは見えないとこから、ゆっくりと。サワガニにあんなカップは必要無いはずだ、いずれ飽きて捨てるはず。



 そう思った次の瞬間、岩陰からサワガニの脚が見えた。不味い、外の様子を確認しに来たんだ、隠れなきゃ。慌てて貝殻を被り身を潜める。


 ………


 行った?もう行った?そっと貝殻を持ち上げて岩陰を注視してみるがサワガニの姿は無かった。…もしかして、もうどこか他の所に行ったのかな?

 カップは置いて行ってくれただろうか?もうちょっと近付いてみよう。


 そうして少し近付いた時、また岩陰からサワガニの脚が見えた。まだ居る!私は再び貝殻を被り直して身を潜めた。


 ………


 流石に…もう来ないだろうか?貝殻を少しだけ持ち上げて確認してみるとサワガニは岩陰へと帰って行くところだった。良いタイミングだ。これならまた暫くはやって来ないはず。


 そう思い再び移動を始めた時、サワガニが見事なステップで舞い戻って来た。うん、それはもう反復横跳びかと思う程に華麗なフェイントだった。

 この芸当は人間にしか出来ないだろう。何?このサワガニは自分が元人間だと隠す気が微塵も無いの?クラスメートに襲われる心配とかは全くしてないって事?もしくはあのクラスメート以外にも転生者とかが居るとか?


 サワガニと目が合い体が強張る、サワガニの意図が全く分からない。

 分からない…けど、楽観視はしない方が良いかもしれない。

 私の方が大きいけど、怖い、どう考えても私に興味を示している。

 い…いざとなったら私の鋏で攻撃するしか……ぅぁー…やっぱり…むりぃ…。クラスメートだったら怖過ぎる。

 あ!今サワガニ動いた!?無理!絶対無理!


 貝殻を被り直してみる。…もうバレてるから意味無さそうだけど、早く私に興味を無くして欲しい。私の方が大きいんだから捕食目的では無いだろうし、ただのヤドカリだと思ってもらえれば何もしてこないはず。だよね?



 ……あれ?何もしてこないな、本当に興味無くしてくれた?

 貝殻から出るとサワガニの姿は無くなっており、代わりにあのアンティークカップが置かれていた。…え?くれるの?

 何だろう?ただの良い人だったのかな?これはこれで怖いけど、貰える物は貰っておきたい。正直欲しい。




 思っていた通りカップの内側はすべすべで肌触り抜群、それに安心感のある厚み、それでいて軽い素材。そして何よりとても可愛い。


【「オシャレする」達成】

【進化先が追加されました】


 え?何今の?でも…人間だった時は自分の服装とか興味無かったけど、着飾るというのは存外悪く無い…なんて、人間やめてから思うあたり私もだいぶズレているのかもしれない。



 ……て、あれ?サ…サワガニが……きゃあああああ!覗いてるぅ!?

 え!?もしかしてこれが目的だった!?ヤドカリの着替え覗きたいとかド変態じゃない!?いや、カップをスマホと間違えてたくらいだから私の事も何か脳内変換してるとか!?


 どっちにしろ…変態だあぁぁぁああ!!



 …はぁ…はぁ、…あ、しまった。さっきまで被ってたヤドでサワガニ殴ってしまった。

 大丈夫かな?甲羅割れてないかな?…うん、大丈夫っぽい。悶絶してるけど大丈夫。


 でも…今ので私が元人間だとバレたりしてないだろうか?

 意思の疎通は出来ないのだから最悪しらばっくれてしまえば良い…のかな?



 意思の疎通は出来ない、会話が出来ないのだから当然のようにそう思ってしまっていた。身ぶり手振りのボディランゲージでは限界がある。


 しかし、このサワガニは何と…筆談を持ちかけてきたのだ。

 岩肌に小石を並べて文字を作り始める。日本語で書かれたたった2つの文字。



『  ダ  レ  ?  』



 一瞬で血の気が引いた気がした。このサワガニはクラスメートだ。元の世界に帰る為に私を探している。冤罪なのに、私を殺せば帰れると思っているクラスメートだ。


 私がクラスメートだとバレている?は、早く返事を、返事をしないと。クラスの誰かを演じるんだ。…でも誰を?このサワガニがそのクラスメートを詳しく知る人物だったら?

 ど、どうしよう。返事が遅れれば遅れるほど怪しまれる。



 その時、サワガニの鋏が私に向けられた。もうダメだ。こんな所で…死にたく無い。


 私は咄嗟にサワガニの鋏脚を掴み、へし折ってしまっていた。

 オカヤドカリの鋏は太く、サワガニの細い鋏脚は思いの外簡単に破壊出来た。…破壊…してしまった。私は自分のクラスメートの腕を…引きちぎったのだ。


 私は…何て事をしてしまったのか。…いや、正当防衛…だよね?そう思わないと…心まで人間をやめてしまった様な気がして辛くなる。


 サワガニは…気が付いたら私の前から消えていた。




 ■  ◆  ■  ◆



流石にゾエアから始めるのはアレですからね(笑)

サワガニも稚蟹からでは無く成体からでしたし、基本的に成体のみで書いていきます(笑)


はい、次からサワガニのターンに戻ります。

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