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トリ少年

今回はナパーム視点をダイジェストで。

リョウ君こんな人でした。



 ◆  ■  ◆  ■



 何でも良かった。何かに逆らいたかった。それは何だって良かった。

 人に言われた事以外をしてみたかった。本当に何でも良かったんだ。何でも良いから自分の意思で何かをしたかった。


 衝動に駆られるままに動画を撮ってみた。俺でも自分の意思で何かが出来るんだと証明したかった。動画投稿サイトでなら全く違う自分になれるんじゃないかと思ったんだ。

 普段の俺なら絶対やらない事をしよう。そう考えた時、買い食いを思い付いた。買い食いは悪い事、そう思いフードコートに入った俺は目を丸くした。制服を着た生徒達が普通にポテトやクレープを食べていたのだ。俺が悪い事だと思っていた事はよくある日常風景でしかない事を知った。俺は世間を知らないボンボンなんだと思い知った。

 それなら…、俺は買った物を食べずにゴミ箱へと放り込んでやった。どうだ、こんな事する奴は居ないだろ。はは、ははははは。自然と笑みが零れていた。


 …でも後になって分かった。本当に自分のやりたかった事をしないと意味なんて無かったんだ。そう理解した途端絶望した。俺のやる事は全部親が決めるからだ。自分のやりたい事なんて考えた事も無かった。…何不自由無く全てを持っている俺は、俺自身を持っていなかった。


 動画に対するコメントも散々な物だった。俺の行いは粋がった陰キャの気持ち悪い行動でしか無かったのだ。

 親が資産家で、学校の成績はトップ、クラスの皆が友達で、女子から告白される事も多いこの俺が…なんとも酷い醜態を晒したものだ。


 動画は消そう、明日からまた優等生を演じよう。親の期待に応え、友達に良い顔をして、リーダーシップの取れる人間を演じ続けて行く。そう、俺はソレで良いんだ。



 次の日の午後の授業が始まって少しもしないうちに舟を漕ぐ様にうつらうつらと揺れる男子が一人、ユウゴだ。奴とは腐れ縁で昔から関わりがあった。数多く居る友人の中でユウゴだけは特別だった。…特別、疎ましかった。

 ユウゴは俺とは正反対な人間だ。自分の生きたい様に生き、周りの事など気にしない。とにかく神経の図太い男だ。俺の宿題を強引に写すし、何度注意したって聞きやしない。

 でも、それでも、ユウゴと一緒に居る時だけは素の自分になれているような気がしていた。疎ましいのと同じくらい…心地良さも感じていた。



 そんないつも通りの日常は突如として終わりを迎えた。

 終わりを告げたのは宙に浮いたバカでかい猫だ。食の魔王だと名乗るその猫は俺の動画を見てご立腹…な演技をしていた。普段から自分を演じてる俺には分かる。この猫は動画を上げた犯人が俺だと知ってて尚も演技を続けている。この猫にとっては本当は誰が犯人だろうと興味が無いのだろう。

 …だが、俺にはそれは大問題だ。俺が犯人だとバレたら親は俺を許さないだろう。友達からの信用もガタ落ちになり俺という存在は価値を失う。

 たとえ異世界で過酷なサバイバルを余儀なくされても、たとえクラスメイトで凄惨なデスゲームをやる事になっても、俺は自分の価値を失うのだけは怖かった。



 猫魔王は犯人を知りつつも黙っている。それなら俺が自白しなければ良いだけだ。と…高を括っていた俺は一人の女子の発言により背筋が一気に冷えた。


「あの…私その動画見ました…。犯人は…だん…」


 動画を見た奴が居たのだ。犯人に目星が付いている様な事を言いかけた時、冷えた背筋とは裏腹に頭が沸騰していくのを感じた。


「犯人はあの女子だ!俺はその動画見たぞ!顔も映ってた!間違いない!てめぇ、俺が黙っててやってたのに何言おうとしたんだおい!」


 自分でも支離滅裂しりめつれつだったと思う。ユウゴにしか見せた事の無かった素の自分が出ていた。「しまった」と、そう思ったがクラスメイトも皆頭が沸騰していたらしい、皆が俺の言葉を信じ、疑問も持たずに一人の女子を責め立てた。

 俺はこの時「助かった」という思いでいっぱいになっていた。犯人を押し付ける事が出来た事に対してでは無い、ユウゴが寝ていた事に対してだ。

 あのマイペース男なら周りの流れなど無視して俺に疑惑の念を抱くだろう。ユウゴに嫌われてしまったら俺は素の自分を受け入れてもらえる相手を失ってしまう。

 それは…自分の価値を失うよりも…怖いと感じた。



 異世界に渡った俺には翼が生えていた。自由を持たない俺に生えた自由の翼。随分と皮肉が効いている。

 猫魔王は俺が犯人だと知っているはずだ。このデスゲームは俺が食い殺された時点で終了、ならば俺を手の届かない空に上げてしまえぱ体裁を保てるって算段に違いない。


 まぁ、あの嘘つき猫が約束を守るなんて到底思えないけどな。…それに、もう元の世界に戻りたいだなんて微塵も思わない。猫魔王には感謝すらしている。

 俺は、違う自分になりたかった。自分の思うままに生きたかった。そんな俺にとって鳥としての人生は楽しくて仕方なかった。

 人間と鳥は双方最も進化した生き物だと言われている、人間の頭脳と鳥の飛行能力を持った俺は正に進化の最先端だ。気分が良いに決まっている。

 その後上位の魔物となり、空を支配し炎を操る怪鳥となった俺は自分が神にでもなったかの様な多幸感に支配されていた。

 もっと上を目指したい、人間なんてその為の贄にしか見えない。…でも、他の魔物には手を出せずにいた、脅威を感じていた訳では無い、最強は自分だ、怖い訳が無い。

 …ただ、ユウゴが何の魔物になったのか、うっかり殺してしまわないか、それだけが気がかりだった。それだけが俺の心を人間に留めていた。



 あいつがユウゴかもしれない。そう感じたのは一匹のカニだった。

 小さいカニの姿のままなのに的確に俺の天狗の鼻をへし折ったカニに俺はユウゴの面影を感じ取ったのだ、しかしそれは俺の願望に過ぎないのかもしれない。俺を止めたのはユウゴであって欲しいというただの願望。


 その願望が確信に変わったのは日本語で書かれた落書きだった。その落書きは地面や木の幹等至る所で見かけた。


『 ハンニン ハ ヤシガニ 』


 誰かが気付いたのだろう、あの時俺が濡れ衣を着せた女子は今はヤシガニの様な姿をしていると。ならばあの村で見た大きなヤシガニがあの時の女子だという事になる。

 あのカニが今もヤシガニと共にあるのなら間違いなくユウゴだ。犯人疑惑のある魔物と行動を共にするような奴はユウゴくらいしか思い付かない。あの騒動の中昼寝を続行し、周りの意見に流されないマイペース男のユウゴらしい行動だ。


 なら、次に会う時はおまえの友人として立ち振る舞おう。

 あの時の女子…確か名前はアヤメだ。ユウゴがアヤメの味方をするのなら俺はアヤメに償いをせねばならない。そうじゃなければもうおまえの友人は名乗れない。



 ■  ◆  ■  ◆



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― 新着の感想 ―
[一言] やはりデブ猫は邪悪……邪智暴虐の魔王は滅ぼさねばならない……
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