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第34話 ボーンブレイド


 カーラの身を案じていた時に、ふと視界の中に音も無く現れた人影が一つ、そいつが現れたおかげで大蛇と怪鳥の争いは意外な結末へと向かって進む事になる。

 目の前に現れたのは予想外の人物だった。何故こいつがここに現れたのかは分からない、こいつとは半月以上も前に別れたはずだ。

 蛇に気付いて駆け付けた?それとも違う理由?

 骨で出来た鎧を身に纏い、骨で出来た剣を携えた男、勇者ラフロイグ。

 その男は空を見上げてため息をついた。


「流石に…届かないな」


 今度はこちらを見て少し嫌そうに語りかけてくる。


「ベートカ、リベットが追い付くまでの間で良い、手伝え。流石にナパームは元人間だろうと生かしてはおけない。あの鳥を撃ち落とせるか?」


 なんと、俺と共闘したいと申されるか、そりゃまぁ殺戮を楽しんでいたナパームは許せないし、今は蛇に夢中だが終わればこちらにも牙を剥くだろう。それにラフロイグが来てくれたからには蛇とて討伐可能なはず。たとえクラスメイトだとしてもこの二人を野放しにしていては俺の平穏は訪れない。ラフロイグの申し出は願ったり叶ったりだ。


「それとも…同族殺しはやはり抵抗があるか?」


 無いと言えば嘘になる、…が、殺さねば殺される状況だ、やむを得ない事だろう。…なんて思えてしまう俺の心は既に人間では無いと思う。元の世界に帰れたとしても、俺の心は人間に戻れるのだろうか。でも、それでも、今は前に進むしかない。

 俺は川から上がり、脚で地面を強く掴み、砲塔を上へ向ける事で返事とした。


「…良いんだな?なんて…聞くのは野暮か。飛ぶ鳥を捉えるのは至難の業だ、蛇とやり合ってる今がチャンスなんだ。…頼んだ」


 装填してある球は「砂岩と砂利のキャニスター弾」が5発。しかし実質チャンスは1回だと思った方が良い。警戒されたら当てる事なんてもう出来なくなる。

 幸いな事に今の弾丸は散弾だ、チャンスさえあれぱ高確率で当たる。しかし同時に散弾というのは不幸にもリーチが落ちる。チャンスは少ない。

 チャンスがあるとしたら高度を落として吸血行動に入る時しか無いのだが、蛇も同時に撃つ事になるし、あの凶悪な二人から同時にヘイトを稼ぐ事になってしまうのは正直怖い。強くなった気でいたけど、俺はやはり雑魚ガニでしか無いんだと実感したばかりの俺の脚は情けなく震えていた。


『ふひ、ひひひひ、あ…あるじぃ、らしく無いんじゃないかぁ?もっとテンション上げていこうぜぇ…ふひ、ふひひヒヒヒィッハァアアアア!もうなるようにしかなんねぇだろ主様よぉ!細かい事考える余裕無いだろぉ?主様の太くて長くて硬いその筒から熱いの派手にぶちかましてやろぉぜぇ!』


 ふぉ!?テ、テルマ?だから下ネタやめなさいって前も………いや、ありがとうなテルマ、元気付けてくれたんだろ?


『ひぃあ!?…ふひぃ…』



 テルマのおかげで決心は固まった、撃つ。そう決めた途端に震えは治まっていた。

 ナパームが降下してきたタイミングで照準を合わせる。それを更にテルマが微調整してくれた。テルマが居なかったら俺の大砲はただの飾りだったに違いない、ひょんな事から俺の体に住み着いた寄生虫にここまで頼る事になるなんて、人生…いや、カニ生何があるか分からない。


『ふひひ…いくぜぇ…いくぜぇ、主様よぉ!ひゃっはぁあああ!!ふぁあいああ!!』


 砲塔から撃ち出されたキャニスター弾は空中でバラけて散弾となりナパームを捉えた、当たる。そう確信した刹那、弾に気付いたナパームが旋回しようとする…が、一手遅い。

 直撃とまではいかなかったものの散弾はナパームの片翼に無数の穴を空けた。


『主様よぉ、惚けてる時間は無いぜぇ、もう一発だぁ!』


 ナパームは体制を崩しながらも羽ばたいている。このままでは前と同じだ、逃げられる。もう一発、もう一発だ。それでナパームは確実に落ちるだろう。…だが。


『…主…様?』


 撃って…良いのかな、土壇場で思考が濁る、弱ったナパームを見て少しだけ余裕が生まれたせいだろうか。同情…してしまったのだろうか。

 大蛇をやり過ごせたのはナパームのおかげだった。ナパームは俺らを助けに来た?何らかの方法で俺らの正体に気付いたとしたら、俺か、ロベリア…本名はアヤメだったか、どっちかの知り合いなのではないだろうか。


 そんな葛藤の中、ナパームは地上へと落下を始めた。

 落としたのは俺では無い、蛇だ。思えば至極当然の事だった、動きが鈍れば蛇がそれを見逃すはずなんて無かったのだ。

 ナパームは俺の近くへと降ってくる。

 落ちてきたナパームの頭部が俺の目の前に転がっている。

 身体は離れた場所に落ちていた。

 地面が赤く、赤く染まっていく。

 勇者ラフロイグの白い剣に赤い液体が滴っていた。



「終わったのかしら?」


 そこに現れた三つの人影、今の声の主であるリベット、そしてカーラとプルメリア。カーラの顔には怒りと悲しみが混在しているように見えた。


「リベット、早かったな。ナパームは終わった。次は化け蛇ドーラだ」


「だ…そうよ、満足かしら?…カーラ」


 カーラは息が荒く、何度も肩を上下させている。


「うぅぅ……分かんない…分かんないよお!」


「そう…そうよね、まぁ…そういうものよ。まさか一回きりの私への連絡がナパームを殺して欲しい…なんてね、流石に驚いたわ」


 なるほど、そういう事だったのか。勇者を呼んだのはカーラだったようだ。仇が空に居るのに気付いていても立ってもいられなかったのだろう。

 


「まぁ、良いじゃないか。ナパームは最優先駆除対象だ。空から一方的に町を焼き尽くす事が出来る魔物なんて手に負えないからな」


 そうだ、ナパームだ。俺は目の前に転がるナパームの頭にそっと鋏脚を乗せる。おまえは…いったい誰なんだ?…弾丸生成。


【リョウの焼夷弾、1つ獲得】


 リョウ、それは俺の友達の名前だった。



友達の名前を変えたのを忘れてたので少しだけ修正しました。トモキ→リョウです。申し訳ない。


リョウが二人の事に気付いたのは二人の筆談を広めた犯人が居るからですね。そして二人の筆談を見ていたのはカニの目すら誤魔化すナナフシさん。

これは伏線はありますが念の為言っておこうかと。


そしてリョウがロベリアまで助けたのは別の理由があるので、それはおそらく次回で!

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― 新着の感想 ―
[一言] ナパーム君は因果に追いつかれちゃいましたね。 カニ君のメンタルが心配です。
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