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第32話 クロキクチナワ


 プルメリアの処置が良かったのかカーラの身体は次第に治っていき、自分で歩けるくらいまで回復していた。カーラの若さも治りの早さに貢献しているのだろう。

 それでも半月はかかってしまっていた、その間魔物に出会わなかったのは本当に運が良かった。そして一つ分かった事もある。俺もロベリアもサイズアップしていないのだ、俺はSサイズのまま、ロベリアはMサイズのままという事になる。上位の魔物になってからは時間経過では成長しないようだ。

 強く大きく成長したければ魔物同士殺し合い、相手を喰らえという事なのだろう。全く持って趣味の悪い話だ。

 装備で自分を強化してSサイズのまま強くなっていく俺は例外だと思う。

 Lサイズまで到達した魔物はいるのだろうか?…有り得るとしたら海岸で戦った大ミズダコかもしれない。じゃあ…Lより上は?


 ……これも考えても分からない事だな、意味は無い。


 そう…意味なんて無い。考えなきゃいけない事は一つだけ、ソレに出会ってしまった時、どうやって逃げるか、それだけだ。


 いや、少し違うか。ソレに出会ってしまった今、どう見逃してもらうか、だな。



 俺は目が良い。広範囲を見渡し、遠くの敵まで見える。だがこの相手には意味なんて無かった。気付いた時には手遅れだった。

 微かに這いずるような音が聴こえ、周りを見渡したが音の出処が分からない。そして少しするとまた違う所から音がする。

 囲まれてる?否、敵は一体、たった一体の敵に…包囲されている。

 ようやく見える所まで近付いてきたソイツの身体は木々や倒木に紛れるような薄灰色をしており、木々の隙間を縫うようにしてゆっくり、ゆっくりと動いていた。

 見えた、と言ったが見えたのはほんの一部分。太さの直径が4~5メートル程の長大な縄の様な生き物、全体が見えていない為長さは分からない。だが流石にアレの正体くらい分かる。間違いなく蛇だ。蛇だが…あまりにもでかい。

 蛇は捕食に特化した生き物だ。それでもあれだけのサイズになるのにいったいどれほどの魔物を…クラスメイトを食べたのだろうか。

 …それも考えるだけ無駄なのだろう。どうせ俺も食われる運命だ。

 円を描きながらゆっくりと移動する蛇、円の中心は俺達。逃げ場が無い。今はゆっくりと移動しているが俺が気付いた事に向こうが気付けばきっと襲ってくる。


 大ミズダコ戦は退路があった。しかし今回の大蛇戦は退路が無い。一か八か木に登って蛇の身体を乗り越えて逃げるか?まぁ、それが出来るのは俺だけだろうけど。ロベリアは逃げるのに向いていない、必ず捕まる。

 全員が生き残るには戦って勝つしかない。……いやいや、無理ゲー過ぎるでしょ。


 突破口を見い出せぬまま時が流れ、ロベリアもソレの存在に気付いた。ロベリアが気付いた事でプルメリアも気付き、プルメリアを介してカーラも気付いてしまった。

 カーラの身体が強張り、既に目に涙が溜まり始めている。失神されるよりかはマシだが…カーラが気付いた事に大蛇も気付いてしまったようだ。大蛇の動きが止まった。

 ここが戦闘開始距離…かな。まぁ、早いか遅いかの差だ、カーラは悪くない。

 蛇との距離は…ざっと100メートル?蛇の動きは円を描いている事以外は不規則で正確な距離は分からない、せめて頭の位置は知りたいものだ。


 その時、ふと空が暗くなるのを感じた。はて?まだ夜には早いはずだが?なんて冗談言ってはみたもののカニの視野なら頭上くらい把握済みだ。しかしてこれは冗談では無い。全く持って冗談では無い。むしろ冗談であって欲しい。

 頭上にあったのは巨大な蛇の頭、俺の相棒のロベリアは体高3メートルを越えるヤシガニだが奴にとってはおやつにしかならないだろう。

 つぶらな瞳は黒く、意外にも可愛らしい。細長い下をチロチロと出し、口には長い牙、牙の先端が湿っている様に見えるのは間違いなく毒だろう。

 ふむ、あの可愛らしい顔立ちならば本当は優しい奴かもしれない。というかそうであって欲しい。そうじゃないと詰む。

 …なんて、現実逃避ですよね、分かってる。ここまで巨大化した奴に慈悲があるとは思えない。その証拠に大蛇はこちらに向かって大口を開けて攻撃態勢を取る。口の中は驚く程に真っ黒だった、影になってるから~とかでは無い、本当に真っ黒だ。少なくとも日本では見た事の無い種類から進化した蛇である事は間違いない。

 ここまで長大だと敵との距離など関係無い、どこに逃げたって奴のリーチ内だ。


 しかし蛇はなかなか攻撃に移らない。俺もロベリアも甲殻類だしトゲトゲしてるからな、丸呑みして良いか悩んでるのか?まぁ、元人間だしな、カニ丸呑みは抵抗があるだろうよ。そういえば昔ネットでカニをちぎってから食べる蛇の動画見た事あるな。

 ……ん?風切り音が…ふぁ!?尻尾振り下ろして来た!?


 俺の速さなら余裕で避けれた…が、ロベリアとカーラはどうだっただろうか?カーラは…ロベリアの陰に隠れているようだ。そしてロベリアは…なるほど、うちの相棒もなかなかに怪物だ、振り下ろされた尻尾を鋏脚で受け止めていた。大地が裂けそうな痛烈な鞭を受けて耐えれるならこちらにも勝ち目があるかもしれない。

 なんて…そんなに甘い話でも無いようだ。鋏脚は押し負けて殆ど胴体で支えている。それにロベリアの甲殻がギシギシと悲鳴を上げていた。そう何発も耐えれる物じゃない。


 それと…蛇の攻撃を受けたのは不味かった。蛇の尾はそのままロベリアに絡み付き締め上げて行く。その力は大ミズダコの触手とは比べ物にならないだろう。早く救い出す必要がある。救い出す…そうだ、近くに居たカーラは無事だろうか?…どうやら今度も上手くかわしたようだ、プルメリアがカーラの手を引いて走っているのが見えた。

 後はロベリアをどう助けるか、俺の今の弾丸は「砂岩と砂利のキャニスター弾」が5発。サンショウウオには効いたが…今は貫通力のある徹甲弾の方が有難い。

 正直…今回ばかりは助ける方法が思い付かない。自分が助かる方法さえも思い付かないのだ、ロベリアを助ける方法なんて思い付くはずもない。自分を犠牲にしたって殺される順番が変わるだけだろう。こんな…神話のラスボスみたいなサイズの蛇に対抗する手段は…無い。


 せめて…俺が先に殺されよう。


 砲塔を蛇の顔に向けたその時、絶望がまた一つ増えた。幾度も俺を絶望に追いやった生き物がそこに居た。


蛇です。モチーフはブラックマンバ。

魔物ですので三種類混ざっているはずではありますがブラックマンバは全ての能力が高水準に備わっている蛇界のオールラウンダーですので、巨大なブラックマンバだと思っていただきたいです。

デカい、速い、猛毒、凶暴。最強だと言っても過言では無い蛇です。

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