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第31話 プルメリア


 リンゴもどきの分泌液には何かしらの毒があったに違いない。皮膚を焼く毒、こんな物で全身を覆われては人間であるカーラはたまったものでは無いだろう。

 念の為自分の鋏脚を確認するが少々変色しているくらいで毒によるダメージは無さそうだ。もしダメージがあったとしても自切してしまえばサンショウウオの能力で失った脚は鎧として自己回復するだけだとはおもうけど。


『あ、あるじぃ…、とりあえずカーラは日陰になぁ、連れてかないかぁ?』


 そうだな。太陽の光で火傷が悪化していくように見えるし、日陰に連れて行くべきだろう。それが正しい対応かは分からないけど、このままにしとくよりは良いはずだ。

 しかし俺の鋏脚には奴の毒が付いてるし、それ以前に甲殻類二人ではカーラを慎重に運ぶのも難しい。俺らの刺々しい身体では火傷痕を引っ掻いてしまいかねない。


 悩んでいると、ふいに地面が暗くなった。陽射しが何かに遮られているようだ。

 何か、それは考えるまでも無くすぐに分かった。ロベリアだ。ロベリアの巨体が大きな日陰を作り出してくれていた。


 カーラが回復するまではこの辺りで療養するべきだろう。流石にこんな状態で連れ回す訳にはいかない。とは言えこんな地面で寝かしておくのもしのびない。

 はてさてどうしたものか、悩みは尽きないものだ。


「ごめんね、迷惑は…かけないよ」


 少し落ち着いたのか、カーラはゆっくりと動きだす。しかしやはり痛いのだろう、体を起こしただけで今にも泣きそうな程に歪んだ顔を見てると心配で仕方ない。


「プルメリア…来て」


 プルメリア、それはカーラの使う魔法道具、魔力で動くドールだ。

 プルメリアはカーラを優しく抱き起こし、おんぶする形で背中に乗せた。カーラは痛そうではあるが俺やロベリアが掴んだりするよりは遥かに良いはずだ。


「プルメリアはね…友達になってくれる魔法道具なの…私くらいなら担いで歩けるくらい力持ちだから…大丈夫…だよ」


 なるほど、戦闘用では無いらしい。友達になってくれる人形ねぇ。アニメキャラをモデルにして日本で売ればバカ売れしそうだな。


「それで…あの木は…どうするの?」


 あー、そうだった、変な事考えてる場合じゃないわ。とは言っても正体さえ分かってしまえば対処は簡単、近付かなければ良いだけだ。あえて殺す理由も無い。

 移動能力も遠距離攻撃も無いのであればいつか普通の村人にさえ殺される。あえて俺らが殺す必要は無いし、無益な殺生であれば避けたいのが本音だ。


 俺がその場を離れるように歩き出す事でロベリアとカーラも意図を汲み取って着いてきてくれた。素直な娘達で助かる。

 やり返さないと気がすまない!なんて言われたらどうしようかと考えていただけにホッと胸を撫で下ろす。そんな事言う奴はここでは長生き出来ない。

 遅れを取ったのはこちらのミスだ、命を繋いだだけでも儲けものだと考えるべきなのだ。

 人としての権利を主張出来ていた昔とは違う、何度も食われそうになって命の軽さを知った。軽いからこそ尊く、そして重いと感じるのだ。

 カーラも多くの死を経験して、自身も食われる恐怖を学んだ、きっと俺たちと近しい死生観を得ているものだと感じ取れた。



 しかしあの木のせいで足止めを喰らったのは正直痛い。カーラの傷が癒えるまでは動けなくなってしまった。こんな世界で安全な拠点があるのかどうかは置いておいて、森林は生き物が多く、油断出来ない場所だ。それに俺の足の速さは何も無い砂浜のような場所でこそ真価を発揮する。ロベリアの巨体もここでは窮屈だ。

 つまり俺らにとって森林地帯はアウェーだと言わざるを得ない。

 せめてカーラの傷が癒えるまでは…何も起きない事を祈るばかりだ。

 川沿いに開けた場所を見つけ、しばらくそこでの野営を余儀なくされた。


 清潔な布団が欲しい、せめて柔らかい布が欲しい。

 外気から身を守る壁が欲しい、陽射しから身を守る屋根が欲しい。

 雑菌の居ない清潔な水が欲しい、煮沸消毒出来る機材が欲しい。

 火傷に効く薬が欲しい、化膿止めが欲しい。


 人間だった頃は全部あった。あるのが当たり前だった。

 化け物になってから深く実感した、人間は弱い。弱いから群れを作る。人間には群れが必要だ。カーラには…やはり人間の群れが必要なんだ。


 カーラと一緒に旅をし始めていきなり挫折しそうになっていた俺を後目にせっせと働く人影が一つ、いや、正確には人形影な訳だが。

 人間の子供サイズにまで大きくなったドール、プルメリアだ。

 川に向かって弓を引き、放たれた矢は魚を仕留めた。カーラにあげるつもりなのだろうか?しかし流石にそのまま食べさせるのはちょっと…と思っていたらロベリアと何やら話をしているようだ。プルメリアが倒木を指差し、ロベリアがその倒木を破砕した。

 破砕した倒木から木の破片や毟れた繊維を集め、木片を擦り合わせた後木の繊維で包む、するとそこへ煙が上がり、やがて煌々と火が灯った。

 その手腕はとても人間とは思えない早業…って、人形だったわ。なんて関心してた俺の元にもプルメリアがやってきた。今度は生木を指差している。俺に何しろと?

 そこへロベリアもやってきて地面に文字を書いて教えてくれた。


『 カ ワ 』


 川?いや木だしな、皮か?木の皮?きっとロベリアの大きなハサミでは剥がしにくくて俺に言ってきたのだろう。でもそんなの何に使うの?まぁ良いか、欲しいなら採るさ。

 なるべく大きく皮を剥がしてプルメリアに渡すと、プルメリアはその皮で折り紙を始めてしまった。器状に折りたたみ角を留めると水を汲んで火に…ん?あぁ、あれ鍋か。

 木の皮で出来た鍋は火で燃える事も無く水を温めていく。同時に先程の魚も火で炙り始めた。なんとも手際の良い人形だ。


 いや待てよ?鍋って別に俺の鋏脚でも良かったんじゃね?切り落としてもどうせ鎧として復活するし、サンショウウオの力で生体部品は自動再生するからね、最強の資源ですよ。

 ……またドン引きされる気がするからやめとくか。


 何て考えてる間にもプルメリアは魚に火が通るまでの間その辺に生えてる草を採り始めている。…薬草か何か?俺にはどれも雑草にしか見えない。

 ロベリアも同じようだ、手を出そうとしない。素人が手を出すと変な事になるかもしれないしここは黙って見ているべきだろう。

 何にせよプルメリアのおかげでカーラはなんとかなりそうだ。


 それにしても…何で最近までただのドールだったプルメリアにあれだけの知識があるのだろうか、魔法道具として覚醒してからまだ日は浅いはずだ。

 まぁ、考えても分からない事は考えるだけ無駄だな。



ハイスペックドールプルメリア☆

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