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第30話 太陽の果実

とても遅くなりました。申し訳ない。


 これからの旅の目的は二つ。一つは勇者ラフロイグが魔王ヤマネコを殺すまでの間平和に逃げ切る為の安住の地を探す事。そしてもう一つは…。


「ねぇ、二人はご飯とかどうしてるの?私お腹空いちゃった」


 カニとヤドカリに着いてきた女の子、カーラの安住の地を探す事だ。

 俺とロベリアは元の世界に帰る事が最終目標なのだから一時しのぎの場所があれば良い。だがカーラは違う、俺らの元の世界に連れて行く訳にもいかないし、いずれは落ち着ける人里を探してあげねばならない。人間に絶望した人間の女の子、カーラが人間の里に馴染めるだろうか。


 まぁ、それよりも今は目先の問題だ。生きていれば腹は減る、至極当然の事だ。


「料理は…難しいよね。近くに木の実とかあると嬉しいな」


 カーラは移動中ロベリアの背中に乗っているため積極的にロベリアと会話しようとしていた。元々人懐っこい子だったし、話し相手が欲しいのだろう。

 ロベリアが近くの木に成っていた果実をもいでカーラへと渡すとカーラは露骨に嫌そうな顔をした。その果実は梨の様な見た目をした果実で一見すると美味しそうな物なのだが…毒でもあるのだろうか?俺がロベリアに目配せするとロベリアは俺にも果実を採ってくれた。

 一口齧ってみる…が毒は無い、普通に食べれる。味としてはやはり梨だ。…が、やや硬く、日本で食べていた梨の様な瑞々しさは無い。


「えー、ベートカそれ食べれるの…?石梨なんてよく食べれるね…」


 やはり梨なのか、しかし石梨という呼称から察するに人間には硬くて不味い果実なのだろう。カーラの顎で噛み砕くのは難しいようだ。

 俺もロベリアも雑食だし、正直何でも食える、まぁ…カニだしね。土から有機物こしりとる事も可能だし、カニになってからは贅沢さえ言わなければ食うに困った事は無かった。

 そりゃもちろん美味しい物を食べたいのが本音ではあるが…味に鈍感になってる節は否めない。人間だった頃なら吐いてしまうような味でも我慢出来てしまう。……いやぁ、イノシシの肝は臭かったなぁ。


 はてさて、それではカーラには何を食べさせようか、なんなら俺の鎧からタコ部分切り取って食わせるのも有りかもしれない。サンショウウオ取り込んでから鎧の生体パーツが自動修復するようになったから食べ放題なのよね。

 …敵のパーツ奪って強くなっていく快速カニ戦車。なんだっけこういうの、鹵獲ろかくって言うんだっけ?失った甲殻はロベリアのヤシガニの甲殻で強化された状態で復活してるし、失った肉はタコ足の筋肉でまかなえるし、体を覆った鎧はタコとサンショウウオのキメラ状態で、サンショウウオの再生能力で鎧が自動修復される。

 うん、本体である胴体を破壊されない限り俺無敵じゃね?俺カニだからなぁ、身体自体がもう鎧判定されてる気がする。鎧生成の汎用性パない。

 つーわけでさっそくタコの刺身でもご馳走しますかねぇ。


「……ベートカ、ごめんね、それは流石に引くよお」


 ほえ?自分の鎧をちぎろうとしたらカーラにドン引きされましたよ?大丈夫よ?これ普通にタコだから。俺の体でも無いしね。何の問題も無いでしょう?


「ロベリアも『それは無い』って言ってるよ?」


 ロベリアまで!?俺そんなに引かれる事しましたかね?


『あ…あるじぃ。ふひ、ふひひひ、わ、私は…好きだぞぉ、その発想。寄生虫寄りの…発想だよお?ふひ、ふひひひひ』


 はうあ!テルマのお墨付きもらっちゃったよ!?ってかテルマ、ウェステルマン肺吸虫の最終宿主って人間だったよな?カーラに変な事するなよ?


『ふぇ?………………ふひ』


 絶対だぞ?命令だからな?


『わかってるよぉ…ふひひ』


 んむぅ、テルマは俺の意思にも介入してくる節があるから不安だ。眷属だし、流石に俺を裏切る事は無いと思うけども…。


『あ…あるじぃ、私は…主の事大好きだから…心配するなよぉ…………あれ?あ、あるじぃ、アレ、あの赤い果実、あれならカーラも…食べれるんじゃないかぁ?』


 おいおい、そんな急に大好きだなんて言われたらテレるじゃねぇか……って、おや?あの赤い果実は見覚えあるぞ?赤く熟れた果実から甘い匂いまで漂ってくる。間違いないな、あれはリンゴだ。一つの木に沢山のリンゴが実っている。確かにあれならカーラも喜ぶだろう。

 俺はさっそくロベリアの脚を軽く叩いてからリンゴの木を指し示す。ロベリアもその木に気付いてくれたらしく、その木に向かって移動を始める。


『ふひひ…あれってやっぱり…リンゴなのかぁ?』


 ああ、あの赤い果実はリンゴで間違いない。…何でそんな事聞くんだ?


『いやぁ…なぁ?あのリンゴ…なんか違わないかなぁ…なんて』


 いや、リンゴは俺の記憶の中の物と一致してるぞ?リンゴの木は直接見た事無いから葉っぱとか花がああいうのだったかはちょっと分からないけどな。

 ん?花?実と花って同時になるんだっけ?一つの太い茎から枝分かれした複数の長い茎の先に白い花が咲いて、まるで花束が咲いてるみたいだ。

 確かに何かおかしいのかもしれない。リンゴの木にあれだけ特徴的な花が咲くのならもっと話題になるはずだ。

 それに葉っぱの形も違和感がある。ヨモギの葉っぱに似たソレはカーラの体くらいならすっぽりと隠してしまえる程に大きい。


 おかしい、何か嫌な予感がする。そう思った時にはもう既にロベリアはリンゴもどきの木に近付いてしまっていた。背中に…カーラを乗せたまま。

 ロベリアがリンゴの実に鋏脚を伸ばしたその時、リンゴの実がじわりと蜜を帯びる。いや、それが本当に蜜なのかは分からない。大きな葉の裏側にも同様に粘り気のある液体が染み出してきていた。それだけでは無い、葉が意志を持って動いている様にも見える。

 ロベリアとカーラが危ない。そう思ったのは葉の裏側に無数の突起物が見えた時だった。その突起物には見覚えがある、昔植物園で見たアレにそっくりだ。名前は確か…モウセンゴケ、食虫植物だ。リンゴとモウセンゴケが混ざっている、ならばあの植物は魔物だ。確かに植物も生き物だし、植物に転生した者が居てもおかしくは無い。

 転生した魔物であるならばあともう一つ何かが混ざっているはずだが今はそんな事考えている余裕は無かった、完璧に油断していた。

 撃つか?いや、弾丸は無い、あっても二人を巻き込むから却下だ。ならば…走るしかないだろう。最速のカニ、スナガニの速度を持つ俺ならば間に合うはずだ。


 実際、俺が駆けつけた時にはロベリアはまだリンゴに手を着けてはいなかった。手を着けたのは…カーラだ。「自分で選びたい」とでも言ったのだろう、ロベリアの鋏脚にはカーラが乗っていた。

 リンゴをもぎ取ろうとしたその瞬間、枝が大きく揺れ、しなりをつけた葉がカーラに絡み付き、ロベリアからカーラを奪い取ってしまっていた。


 葉の内側は粘着性のモウセンゴケだ、無理矢理カーラを引き剥がすのは避けた方が良いだろう。俺はロベリアの体を登り葉に近づくとカーラを掴んでいた葉を枝ごと切断した。

 その枝葉ごとカーラを確保した後にロベリアとともにリンゴもどきの木から距離を空けて様子を見る…が、リンゴもどきの木は動かない。おそらく移動能力は無いのだろう。

 それなら今はカーラを優先するべきだ、慎重に葉を切除していく。こういう時ロベリアの大きな鋏は役に立たない、ロベリアは心配そうに見つめるだけだった。


 葉を全て外し、カーラの姿を確認する。ところどころ赤く痣の様になってはいるものの軽傷で命に別状は無さそうだ。…と、安堵したのも束の間だった。


「……ぃたい……ぁつい……」


 赤い痣は赤紫に見える程濃くなり、まるで火傷を負った時の様な水疱がポツポツと浮かび始めた。徐々に大きな水疱も出来始めカーラが顔を歪める。


「…いやぁ…痛い…熱い…太陽が…熱いの…」



今回は植物ですね。

モウセンゴケ+リンゴ+ジャイアントホグウィードです。

カーラがいきなりピンチであります。

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